ボッカッチョ『デカメロン 上』

何年も前から、図書館へ行くたびに手にとってはパラパラとページをめくり、でも結局は書棚へ戻すというのを繰り返してきた。

なぜ手に取るようになったのかよく覚えていないのだが、ボルヘスの著作を読んでボッカッチョを知ったことがきっかけだったように思う。伝奇集かエル・アレフか。

とにかく、気にはなるけれど難解そうに思えて、ずっと読むことができずにいた本である。


今回思い切って読むことができたのは、現在履修中の放送大学の講義「世界文学の古典を読む」にて紹介されていたからだ。

舞台は14世紀イタリアのフィレンツェ。ペスト禍に見舞われ、街には死と恐怖とが満ち溢れている。

時は主の御生誕一三四八年のことでございました。イタリアのいかなる都市に比べてもこよなく高貴な都市国家フィレンツェにあのペストという黒死病が発生いたしました。
はるか遠く地中海の彼方のオリエントで発生し、数知れぬ人命を奪いました。ペストは一箇所にとどまらず次から次へと他の土地へ飛び火して、西の方へ向けて蔓延してまいりました。惨めなことでした。

14世紀のペスト禍と、2020年のコロナ禍。

この数年間気になるけれど読めずにいたのは、コロナ禍のまさに今読むべき本だったからなのかもしれない。

ストーリーはというと、10人の身分が高く若い男女が、ペスト禍のフィレンツェを離れ、のどかな郊外の別荘へと避難して楽しいおしゃべりで気を紛らわせる、というもの。10日間、一人一つずつ物語を語り合う。10人で10日間なので、全部で100話の物語だ。

ギリシャ語で「デカ」は10、「メロン」は日を意味する。

デカメロン。別名、十日物語。


上巻には第3日目までが収録されている。

ボルヘスをきっかけにしてボッカッチョのことを知ったので、デカメロンも衒学的で難解な物語なのだろうと勝手に想像していたのだが全く違った。

語られる物語は、悪くいってしまえば卑猥で下世話なものばかり。聖職者の堕落した生活を批判するエピソードも多く、キリスト教の国でこの作品が評価され古典として今日まで残ったのはすごいことだと思う。

物語は一つ一つが短く、登場人物も多くないので話の筋は追いやすい。

ただ、上巻だけで30話も収録されているのに、似たような話が多いせいか、自分の読みが浅いせいか、「これが好き!」と言いたくなるような特定の話を見つけることはできなかった。

似たような話が多いことでパターンのようなものは見えてくる。当時の生活や物事の捉え方のようなもの。

ダンテの「神曲」とのつながりが深いようなので、こちらもいま読み進めているところ。


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