第三十七回 石原莞爾 『最終戦争論』


旧陸軍の参謀であった石原の歴史観が見える第一章です。

日本の戦いは「遠からん者は音にも聞け……」とか何とか言って始める。戦争やらスポーツやら分からぬ。それで私は戦争の歴史を、特に戦争の本場の西洋の歴史で考えて見ようと思います

というわけで、西洋の戦争史を(古代ギリシャ〜ナポレオン〜第二次大戦まで)
俯瞰した内容となっています。

この『最終戦争論』ですが、石原の「思想」の特異性が際立つのは、第二章以降で、
むしろ第一章は現代から見ても、かなりオーソドックスな「歴史観」に立脚しているのでは?と考えさせられます。


本稿では、その「歴史の見方」にフォーカスしてみようと思います。

戦争は武器の進歩だけではなく、社会制度によってかたちを変える

そもそも歴史とはなにか?
石原はそれを「止められない流れ」として捉えていたようです。
たとえば天才・ナポレオンにしても、
「彼がいたから歴史が変わった」というより
「歴史の転換点にたまたま居合わせた優れた軍略家」というような評価です。
軍事に限らず富とパワーの集中する日進月歩の業界では起こりうる現象です。
(ex.アインシュタインがいなくても相対性理論は「数年遅れで」証明された)

若い軍人に向けて以下のように呼びかけています。

ナポレオンの大成功は、大革命の時代に世に率先して新しい時代の用兵術の根本義をとらえた結果であります。天才ナポレオンも、もう二十年後に生まれたなら、コルシカの砲兵隊長ぐらいで死んでしまっただろうと思います。諸君のように大きな変化の時代に生まれた人は非常に幸福であります。この幸福を感謝せねばなりません。ヒットラーやナポレオン以上になれる特別な機会に生まれたのです。

偉人ヲタでも、
ひとつの時代を骨董的に愛好するのでも、
まあ趣味としてはOKではあるのでしょうけど、
石原の歴史を見る眼はすべて実践(実戦)のためです。
その当時(第二次大戦開戦)にも、
現代にも生々しく繋がっています。
歴史が「止められない流れ」なのであれば、
問は根本的(ラディカル)にならざるを得ません。
すなわち
人間とはなにか?
社会とはなにか?
というような。

最終戦争論が単なる軍略ではなく、
哲学的あるいは宗教的に映るのは、
石原の思想が人類の「終着点」まで視野に捉えているからでしょう。

傭兵<義兵

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石原の歴史観がオーソドックスだな、と感じたのは、
・マキアヴェッリ『君主論』
・ホッブス『リヴァイアサン』
・スピノザ『国家論』

などヨーロッパ政治学の古典に通ずる部分が多々見られたからです。

例えば『君主論』では
傭兵は金で動くからいざというとき逃げてしまう
使い物にならんからだめですよ、と述べています。


しかも、基本的に「指示待ち」「スキあらばサボる」から、
指揮官はマイクロマネジメントかつパワハラしないといけない。

逆に義兵(自ら進んで兵になる人)だと、
「目的」と「目標」を示してやればただで喜んで「自由に」戦う、と。
この「自由」とは「裁量」のことです。
やり方は細かく指示しないということですから、
組織内の信頼関係がバッチリ、という前提です。

その信頼関係の源が「国家」というストーリーですね。
国のため」という動機、
国民国家」という所属意識は
強い」ということがわかっていたから、
明治の「建国」はバタバタ行われた背景もあります。
(その観点からは日清戦争は「国家」vs「傭兵部隊」)


愛国とアメリカンヒストリー。タクシードライバーからスノーデンまで

「義兵」すなわち国のためにタダ働きする人材が多ければ、
「君主」にとっては大変ハッピーな状況なのでしょうけど、
犠牲となる個人がでてくる。

そこらへん、アメリカ映画だとわかりやすく描写されています。

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タクシードライバー』(1976年)
ランボー』(1982年)
カクテル』(1988年)
みんなベトナム戦争帰りで、
(トム・クルーズは爽やかな笑顔でわかりづらいですが)疲れている。
仕事がない。
内なる怒りをたぎらせている。

さらに最近読んだ本から、
スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実

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政府が国民を監視している」と暴露したスノーデン。
個人的に興味深かったのが、
彼の動機が「愛国心」だったこと。
「自由」を保証する合衆国憲法の信奉者だったからこそ、
政府が国民を騙すのが許せなかったのだ、と。

合衆国憲法は「国づくり」という事業において
破ってはならない「契約」である。
そして個人が自由意志によってハンコをついた、という考えがベースにあるのだな、と。
きっと裏切られたタクシードライバーの怒りも同じところからきているのでしょう。

おまけ

リヴァイアサンの画と『チェンソーマン』の銃の悪魔って似てるなあ、と。
「大統領が勝手に国民の命を捧げる」ってのもスノーデンが暴いた
「秘密主義」「契約不履行」に通ずるな、とも。


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