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夫婦関係は美しいダンスのような関係を築くこと

レストランや喫茶店で近くに若い男女が座っていると、不躾ながらついそっと観察して、彼らの交際歴を想像してしまう。

丁寧な言葉遣いと仕草。互いに意識していることがヒシヒシと伝わってくる交際前。
互いのことしか見えていない付き合いたて。
どこかリラックスしつつも、楽しそうな交際歴数年といったカップル。

的外れかもしれない彼らの交際歴を考えては一人で勝手に楽しんでいる。

ところで付き合いたてのカップルというのは、誰が見てもそうとわかるような雰囲気を醸し出しているものだ。
2人だけの幸せのまゆに包まれていて、見ている方が面映い気分になりつつ、どこかで羨ましく思っている自分もいる。

じっと互いの目を見つめながら話したり、肩を寄せながらメニュー表をのぞきこんでいる2人。

恋する男女というものは、互いの良いところしか見えず、何をするのもどこに行くのも一緒にいたい。そんな幸せな時期なのだ。

私はと言えば、結婚してもうすぐ丸4年になろうとしている。

互いにじっと見つめ合うことがあったとしても、私が見ているのは夫の髪型(毎月私が切っている。そして大抵どこかがおかしくなっている)だし、夫が見ているのは私の毛穴だったりする(失礼しちゃう)。

ロマンスよりはコメディと化してしまった私たちの関係だけれども、結婚当初は恋する男女のように「いつも一緒にいたい」と思う時期があった。

例えば休日。

フリーランスとして働いている夫には固定休がない。
休日の間隔は狭くなったり、広くなったりして定まらない。
夫婦で共有しているカレンダーアプリを見ながら、夫の休日を探すのが習慣のようになっている。
そして飛び石のように置かれた休日を見つけては、この日は何をしようかと計画を練ることに余念がない。

家に夫がいるときにも、できる限り一緒に時間を過ごしたい。

夫が在宅で仕事の日は、仕事の合間を見計らってしょっちゅうお茶やご飯に誘った。

約束のオンラインの時間まであと数十分しかないというのに、食卓の席については平然と大盛りのご飯を完食する夫の姿に気をよくして、ついついご飯を作りすぎてしまい夫の体型が丸くなったのは笑い話だ。

一緒にいる時間が好きで、大切にしたい。その思いは子どもが生まれてから微妙に変化してきた。

幼い子どもたちと共に終日過ごしていると、肉体的にも精神的にも少しずつ消耗してくるものだ。

そんなときに夫が帰宅すると、待ってましたとばかりに疲れているはずの夫を団欒の輪の中に無理矢理巻き込んでしまう。

食事のときも、先に食べ終わった夫が「ちょっと横になっていい?」と聞こうものなら、「一緒にここにいて!」と懇願してしまう。

これは相手が好きだから一緒にいてほしいというよりも、私を1人にしないでという心の叫びなのだった。

でも、「一緒にいたい」という思いが強くなり過ぎると互いに身動きが取れなくなってしまう。最近、そんなことを思った。

夫は早く終わらせなければならない仕事があるのに、私が子どもに食べさせている間、食卓の席にいてもらったり。
天気がいいから本当は子どもを外で遊ばせてあげたいのに、夫に合わせて家にいたり。

最初は純粋に一緒にいることが嬉しかったのに、次第に一緒じゃないと困ると思うようになってしまった。もしかしたらこういう考えの地続きに、依存というものがあるのだと思い、ヒヤリとした。

せっかく一緒に暮らす夫婦なのだから、互いに気持ちよく一緒にいられる関係でありたい。

それからは少しずつ意識して、一緒じゃなくても自分がやりたいと思うことをやるようにした。

私は外で子どもと遊びたい、そう思ったら、たとえ夫が休日で家にいたとしても、子どもを連れて外に出た。
1人で本を読みたい、そう思ったら、子どもが寝静まって貴重な夫婦2人きりの時間だったとしても1人で本を読んだ。

そんなことを続けていたら、以前よりもずっと心が自由になった。

夫婦といっても、異なる2人の人間だ。
手と手を合わせるようにくっついていたら、2人とも息苦しくなってしまう。

あるとき読んだ本に、こんな一節があった。

すぐそばにいることと、距離を保つことのバランスをとるのはやさしいことではありません。お互いに求めていることが非常に異なる場合には、なおのことです。一方が近づきたいと思った時に、他方は距離をとる必要を感じます。一方が抱きしめられることを望んでも、他方は独りで動くことを求めます。完璧にバランスをとることなど、なかなかありえません。けれども、互いに正直であり、心を開いてバランスをとろうとするなら、見るに値する美しいダンスを生み出すことができるでしょう。

『今日のパン、明日の糧』ヘンリ・ナウエン

家族となったことを喜びながら、互いに大切にしたいことを大切にして過ごしていきたい。

一緒にいられることの特別さを喜びながらも、ときにはひとりでいられるようにしたい。

夫と私も、美しいダンスのような関係を築けるだろうか。

もうすぐ、結婚5年目を迎えようとしている。

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