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お月様と乾杯

想いを告げられないまま
私の好きなあの人は
違う職場に移動してしまった

あれから2ヶ月
あの人は新しい職場でも
相変わらず輝いていると
噂で聞いた

あれから2ヶ月
私は過去に背負った
心の大きな傷から
逃げられないまま
何も変わることのない日常を
ただこなすだけで精一杯

引き寄せの法則で
同じ波動の人を引き寄せると
聞いたことがあるけれど
このままの私では
あの人とまた笑顔で話せる日が
くるのだろうかと不安になる

そんなモヤモヤを抱えながら
朝、玄関のドアを開けると
アパートの隣の部屋のドア付近から
小さな黒い影が空へと飛んで行った
ドアの横の照明の上に
鳥の巣を見つけた

仕事から帰ってドアの前で
鍵をカバンから取り出す時
鳥の巣の住民と目が合った

「ツバメさんだ!」

そう思った瞬間
壁に立てかけた傘が倒れ
ガタンと音を立てた
驚いたツバメさんは
どこかへ飛んで行ってしまった

その日から私は
ツバメさんが驚かないように
玄関のドアの開け閉めは
静かにするように心掛けた

時々ツバメさんと目が合うと
「ここにいてもいいよね?」と
言っているかのように
キョロキョロと頭を動かしながら
私を見下ろしている

私の口角が自然と上がり
「かわいい!」と
呟いてしまった

静かに玄関に入りドアを閉め
内鍵を掛けると
笑顔の自分に気付いた
「あれ?私笑ってる」
安らぐ気持ちをじわじわと感じた

そういえばここ最近
心の傷が深すぎて
嬉しいとか楽しいとか安らぐとか
プラスの感情を感じることがなかった
もう枯れて無くなってしまったのかと
諦めていた

でもツバメさんのおかげで
感情の新しい芽が
出てきたような気がした

風呂上がりの1人の部屋
夕飯を食べながら
発泡酒をゆっくり飲む
窓から見える満月

自分だけ立ち止まったまま
思うように進めないことに
焦っていたけど
もう戻ってこないと思っていた
プラスの感情を
見つけることができた

今はそれだけで十分

がむしゃらに進んでも
何も変わらない時もあると
理解できた今

少しずつでも進めたら
それでいいと
自分に許可を出してあげた

「ツバメさん、ありがとう」

キョロキョロ頭を動かす
かわいいツバメさんを 
思い出したら
また自然と笑顔になれた

乾杯!

窓の外のお月様と
発泡酒が半分入ったコップで
乾杯をした

あの人と再会して
また楽しいおしゃべりが
できますように

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