見出し画像

与えざるまもの

山に住む魔物は、
その恐ろしい容姿ようしゆえ、
人里離れた山奥で、
ひっそりと暮らしていた。
 
その事を知る王様も、
山奥には行かないよう、
厳戒令げんかいれいを出していた。
 
御触書おふれがき
小金山こがねやまへの入山を禁ず
・魔物への接触を禁ず
・魔物への食の提供を禁ず
 
しかしある日のこと。
 
山のふもとを通りかかった農民が、
偶然、その魔物に遭遇そうぐうする。
 
初めて見る生き物に、
興味津々きょうみしんしんの農民。
 
しばらくその様子を観察していると、
魔物は近くに生えている、
辛子菜からしなを食べ始めた。
 
すると急に魔物が声を上げ、
涙を流した。
 
そしてその涙は黄金こがねに輝く塊となって、
ポトリと地面に落ちた。
 
そして魔物は食事を終えると、
また山の奥へと消えて行った。
 
農民は誰にも見られないよう、
その落とし物をこっそり拾い持ち帰った。
 
それは拳大こぶしだいほどもある見事な黄金だった。
 
その日から農民は魔物の餌場えさばに、
食べ物を持って行っては黄金を持ち帰った。
 
そして農民は気付く。
 
与える食べ物によって、
黄金に変化があることに。
 
そして辛子菜よりも、
唐辛子を与えることで、
ひと回り大きな純度の高い黄金が取れると。
 
それから農民は、
自分の畑の作物を全て唐辛子にし、
町へは売らず山の魔物の餌にした。
 
唐辛子は全て黄金に変わり、
農民の生活はどんどん裕福に。
 
やがてその変化を、
不審に思った他の農民が、
魔物に餌を与えてる姿を目撃。
 
そして魔物の秘密は、
村中の農民にバレてしまったのです。
 
農民たちは裕福になった農民を、
掟破おきてやぶりだ!追放だ!」
「いいや、突き出すべきだ!」と非難します。
 
しかしその非難の中、
村長がこう言いました。
 
この黄金をみなで守ろう。
 そして村中で富を共有しよう

 
それから全ての農民は、
田んぼもつぶし唐辛子畑に転換したのです。
 
徐々に徐々に、
村は栄えていきます。
 
そんなある日、
ひとりの農民が魔物の餌の唐辛子に、
うっかりトマトを混ぜてしまいます。
 
するとそれを食べた魔物は、
少し身体が大きくなりました。
 
当然、流す涙の粒も大きくなり、
黄金の塊も比例して巨大に。
 
村人は歓喜し、
いつの間にか村の畑は、
唐辛子とトマトで辺り一面、
真っ赤になっていました。
 
魔物から得た黄金で、
村は衣食住が充実。
 
しかしその噂は、
王都でもささやかれるように。
 
その村ぐるみのご法度は、
王様の耳にも入ります。
 
しかし王様は、
取り締まるどころか、
見て見ぬ振りをしたのです。
 
村人が町に売りに来る黄金は、
国益となり軍備強化の資金になると、
踏んだからです。
 
しかしちょうど1年が経った頃。
 
魔物は餌を食べますが、
大きくもならず…
涙も流さなってしまいます。
 
農民はその不安怒りから、
魔物をとがめ叩き始めます。
 
するとスネを叩かれた魔物は、
また黄金の涙を流したのです。
 
やがて農民は、
唐辛子とトマトの生産を止め、
毎日毎日…
魔物を叩くようになりました。
 
楽な方法で黄金を手にし、
農民は働かなくなりましたが、
さらに村は豊かになっていきました。
 
それから半年。
 
いつものように魔物のスネを叩きに、
農民がやってきます。
 
そして持っていた棍棒でスネを叩くと、
魔物は雄叫びを上げて農民をなぎ倒します。
 
叫びながら魔物は、
山をくだり村へ入ると、
農民達と家屋を全て蹴散けちらします。
 
そして魔物はそのまま王都へ向かい、
都を一日で滅ぼしてしましました。
 
暴れ尽くした魔物は、
再び山へと戻ってきます。
 
するとそこに、ひとりの老婆が。
 
魔物を怖がることなく、
目の前に柿の実をひとつ差し出します。
 
魔物は匂いをぎ、
躊躇ためらうことなく柿をひと飲み。
 
すると魔物は、
みるみる小さく縮んでいき、
子熊の大きさほどに。
 
「人は何年経っても根っこは変わらんのう。
 
 これで何度目じゃったかのう?
 
 まあええ。
 
 どうせまた100年も経てば、
 繰り返すじゃろうて。
 
 ほとんどの者が、
 馬車で逃げおおせたからのう。
 
 被害にあったのは貧しきものと、
 か弱きものか…いつものことじゃな。
 
 人とは金と己の為なら、
 残酷になれる愚かな生き物。
 
 包摂世界優しさで包み込む世界
 
 人に実現できるかのう?
 
 さて暗くなってきた。
 帰るかの、魔物よ」
 
魔物と老婆は森の中に消えていった。
 
それから被害をまぬがれた人々は、
山の三合目辺りに、
新たに柿の木を何十本と植樹した。
 
そして山の名前も、
小金山こがねやまから|小柿山《こかきやま》にしたそうな。
 
秋になり、
オレンジに染まる小柿山を、
老婆は眺めボソリとつぶやく…。
 
「果たして…
 それは正解なのかのう…」
 
おしまい。
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

この記事が参加している募集

宇宙SF

この経験に学べ

お疲れ様でした。