時代が移うつろっても、
人というものが変わることはない。
 
今この瞬間。
 
あなたはあの人と、
同じ体験をしているかもしれない。

時は戦国。
 
ある湯治場とうじばを訪おとずれた、
武将ぶしょうとその家臣かしん。
 
「ここはなかなか落ち着く、
　いい場所じゃのう」
「はい。
　殿は初めてでございましたな。
　ここは当家に代々伝わる、
　秘湯のひとつになります」
 
「風光明媚ふうこうめいびとはこのことぞ。
　あっぱれじゃ」
「光栄にございます。
　では私は、
　そこに控ひかえておりますので、
　ごゆるりとお寛くつろぎを」
 
「うむ」
 
一糸いっしまとわぬ姿になる武将。
 
「殿、手拭てぬぐいはこちらに」
「いらぬ！
　敵を前にすれば鎧よろいをまとうが、
　大自然を前にまとうものなど無用！
　布をまとうことこそ無作法ぶさほうであろう」
 
「はっ。さすが殿でございます。
　いらぬ世話を焼きました」
「よい。
　武将とは時に大胆かつ豪快にじゃ」
 
滾々こんこんと湧き出る湯は、
湯槽ゆぶねから溢あふれ出て、
辺り一帯を白い靄もやで包み込む。
 
家臣は見た。
 
靄の中に立つ御殿おんとのの勇姿を。
 
「この湯で戦いくさの傷を癒いややした後のち、
　わしは必ずや天下を取るぞぉ～！！」
「はっ！」
 
ジャポーーーン！！
 
「アッツゥ！これ熱っ！
　アッチ゛！アッチ！！
　ア゛チ゛ィィィィ～ぞぉぉぉ！！」
 
「殿、そこは源泉でございます」
 

 
令和の今日…
きっと世界の湯槽の何処かで…。