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もう少しだけ

前作はこちら。

僕は時田ときた真守まもる
時をちょっとだけ戻すことができる。
 
たった1分…
それが1日5回の制限付き。
 
これは誰にも話してない…
僕だけの秘密。
 
恋人との別れで、
僕は不安定になった。
 
そして自暴自棄じぼうじきになった僕は、
ギャンブルに手を出した。
 
金儲かねもうけにこの能力は、
うってつけだと気付いた。
 
でも…
よくないことだとも感じていた。
 
だけど毎晩…
別れの理由を探すことより、
ずっと健全なことだと思えたんだ。
 
僕はすぐに実験に取り掛かる。
 
どれくらい戻るのか?
いつでも使えるのか?
戻した後の未来に変化はあるのか?
 
そして…
何が可能なのかを検証。
 
僕は何回も何回も繰り返し、
ようやく理解した。
 
能力は自分の意志で、
いつでも使うことができるが、
戻せる時間は…たったの1分。
 
そして…
1日5回しか使えなかった。
 
だが幸いなことに、
連続で時間を戻すことが可能。
 
これなら…
1日で最大5分、時間が戻せる。
 
この能力をかせる場所…。
 
(ここしかない…。
 人気があり、
 かつ高配当が見込める公営ギャンブル…)
 
僕は満を持して、
競馬場へと向かった。
 
馬券の締め切りは、出走2分前。

馬が出走してゴールまで約2分前後。
 
勝ち馬を見届け、
能力で5分戻せば、
ギリギリ当たり馬券を購入できるはず…。
 
当然、狙いはメインレース。

………。

高々と鳴り響くファンファーレ。
 
大歓声の中、各馬出走。
 
実況者が淡々と、
レースの変動を解説していく。
 
観客の願いと罵声ばせいが、
耳にこだまする。
 
「来い!2-4来い!」
「差せーー!!」
「お前じゃない!!」
「そのままーー!!」
「まくれーー!!」
「バカ!お前はくんな!!」
 
僕も興奮した…
でもそれはこの人たちとは違うもの。

僕は興奮を内に秘め…
静かにその時を待った。
 
結果は…
2-1-17。
 
僕はすかさず…
時を…5回戻した。
 
そして急いで購入した、
三連単の馬券を握りしめ待った…。
 
そして…
 
僕は勝った。
 
全て思惑通りに事は運んだ。
 
神……
 
自分が…
そういう存在になったと確信した。
 
(これで一生、金には困らない。
  もしかしてこの能力なら、
 海外カジノも行けるんじゃないか?
 その方がもっと効率的にかせげるはず)
 
いだいていた不安も消え去り、
いつの間にか野心がみなぎっていた。
 
絶対的な自信を得た僕は、
国内でもうひと勝負して、
海外への弾みにしようと考える。

そして…
その照準しょうじゅんを年末の大レース…
有馬記念に定めた。
 
これを取って、
 海外渡航費と軍資金に

 
ゲートが開いた。
 
そして大歓声の中、
全ての馬がゴール板を駆け抜けた。
 
結果は…
三連単9-3-5。
 
僕は同じ手はずで…
時間を…戻した。
 
すると一瞬、
フラッシュのような閃光で、
真っ白なグラーディーションがかかると…
 
辺りは…
白いもやに包まれた。

靄が晴れ… 
一瞬、何が起きたか分からなかったが、
そんなことを考えるよりも先に、
僕の足は馬券売り場へと踏み出していた。
 
間に合え!!
 
ギリギリ…
ギリギリ当たり馬券を購入できた。
 
これは成功へのチケットなんだ
 
ポケットの中で握りしめながら、
僕はゴール近くのスタンドへ。
 
ゲートが開き一斉に出走。

そして…
 
1着で駆け抜けた馬に…
どよめく会場。
 
僕は…
全財産を失った。
 
下ろした貯金全額と…
保険の解約金も…全て。
  
そう……
同じ未来は…来なかった。
 
体がガタガタと震え出し、
僕はその場でくずれ落ちた。
 
(戻った……
 確かに時間は戻った…。
 
 でも……違った。
 
 なんで!!
 
 なぜこんなことに!
 
 よりによって…。
 
 僕が見たあれレースは何だ?!
 
 僕がさっき体験してる現実は、
 どこから来た!?
 
 こわい…
 ………
 こわい…
 ………
 ………
 怖い怖い怖い!!
 
その日以降、
僕はギャンブルから足を洗った。
 
100%ではない…
それは恐怖でしかなかった。
 
神様は見てる…
 
この能力には、
授ける者監視者がいて…
悪用すれば、その者が罰を与える。
 
僕はそんなことまで考えようになっていた。
 
そしていつの間にか僕は…
実につまらない使い方を、
するようになった。
 
忘れ物をして……戻す…
部長から怒られ…戻す…
美味しかった~…戻す…
 
まぶしい笑顔…戻す…。
 
偶然なのか…
理屈は分からないが、
決まって同じ時間が流れた。
 
どこかで見てる…
 やっぱり神様はいるんだ…

 
そしてある日のこと。
 
僕は…
ある人物と出会う。
 
そう…
運命の彼女と。
 
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。

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