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好きな文章 キム・ヘナムの書籍『もしわたしが人生をやり直せたら』から

キム・ヘナム 精神分析医。1959年、韓国ソウル生まれ。40代前半で*パーキンソン病を発症。死を願うほど絶望する日々をすごすも、「大切な今を台無しにしてはいけない」と気持ちを切り替える。数々の書籍を送り出し『もしわたしが人生をやり直せたら』は2015年出版されて以降ロングセラーとして読み継がれている。

*パーキンソン病は、ドーパミンという神経伝達物質を作り出す脳組織の損傷による神経変性疾患です。手足など震え、筋肉や関節のこわばりのほか、動きの鈍さや発声困難などの症状がみられ、65歳以上の高齢者に多く発症する疾患として知られています。進行するとうつ病や認知症、被害妄想などの症状を伴う。症状や経過には個人差あり。元ローマ法王ヨハネ・パウロ二世やモハメド・アリ、俳優のロビン・ウィリアムなどの著名人もこの病と闘っています。

深夜、トイレで気づいた人生の真理

 治療薬レボドパの薬効時間は3時間ほどしかないため、1日の大半は横になったまま投薬の時間をまつだけ。薬効が薄れてくると自律神経が乱れて心拍数が120を超え、玉のように汗が噴き出して日に3度の着替えを強いられます。体の自由がきかず、寝返りもままならない。ほんの1cm、脚を前にだしたくてもこわばってできないのです。

中でも大変なのが、トイレです。パーキンソン患者はトイレが近くなるのですが夜も例外だはありません。
夜中の1時ごろ、尿意を感じて目が覚めました。何とかベッドから這い上がり、歩き出そうとした瞬間、体が前につんのめり、転倒しそうになりました。

汗びっしょりになりながらトイレに向かっては転び、いっそこのままここにへたり込んで用を足してしまおうかと思ったほどです。
みじめで悔しい気持ちと同時に、この家に自分の他に誰もいないことも私を絶望させました。しかし私にも大人としてのプライドがあります。

ふと、目指すべきトイレのドアを見つめていた目線を、自分の足元に落としました。そして自分のつま先を見つめたまま、一歩‥‥、もう一歩‥‥と、少しづつ前に動かしてみました。すると不思議なことに足が動いたのです。

そうやって一歩づつ交互に足を出していったところ、いつしかトイレまでたどり着いていました。いつもなら2秒で行けるところを、その日は5分以上かかってしまいました。それでも無事に用を足すこともできたのだから、これはもう十分、合格と言っていいでしょう。

「なるほど。確かに、一歩づつ、なのよねえ」

遠くの目的地だけ見て歩くのではなく、今いるこの場所で、足元を見つめながら、まず一歩、踏み出してみる。これが始まりであり、すべてなのです。
そうやって一歩一歩とを進めていけば、いつしか目的地に到達している自分に出会えるはず。

『もしわたしが人生をやり直せたら』
キム・ヘナム著 岡崎陽子訳
より一部抜粋、編集


目的や夢、希望が手の届かない遠くにあるもののように見える時、どうしても自分を「ダメ」だなって思ったり、葛藤し迷い自分自身をつぶしてしまいそうになるけど‥‥、やっぱり、足元を見つめ、一歩づつなんですよね。

キム・ヘナムさんの書籍『もしわたしが人生をやり直せたら』を読んで、日常の苦悩や悲しみ喜び、ある時は、一見、ネガティブにみえるところにも、真理はいつも隣り合わせにあるものなんだなって‥‥。
考えさせられることが多かったので、一部記事にさせていただきました。


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