20181203愛の園

花咲き乱れる愛の園はどこにあるのか

近所のおじいちゃんが
突然やってきた。

つくったうたを
うたいたいが
最近大きな声がでないから
練習して歌えるように
なりたいという。

そしてできれば
伴奏をつけてほしいという。

『どんなうたですか?
 教えてもらえませんか?』

尋ねると
歌詞をおもいだしおもいだし
つかえながらも
小さな声でうたってくれる。

わたしは急いで歌詞をかきとめる。

昔からうたが好きで
よくつくって
よくうたっていたそうだ。

それはとても長い歌だった。

【宇宙にあおく輝く星 地球に 人として生まれて
 本当に よかったとおもいます】

という歌詞のくだりにどきりとする。

わたしは
地球に生まれてくるのが
とてもこわかった感覚がある。
好奇心はあれどこわくてこわくて
葛藤の末にここに生まれてきた。
そんな記憶のようなものが
うっすらとでもずっしりとある。

案の定ここの空気は不自由で
ふりまわされてばかりだけど
負けてたまるかという悔しさもある。
手探りの冒険はおもしろいが
よかったとは今はまだ思いきれていない。

【楽しみ悲しみわけあいながら つないだその手はなさずに
 七色虹のかけはしわたれば そこは 花咲き乱れる 愛の園】

ふと先日電話で話した田舎の両親をおもう。
父は動くことも語ることも随分ゆっくりになっていて
母はみていて涙がでそうなくらい気丈に父に寄り添っている。

花咲き乱れる愛の園はどこにあるのか。
自分の在り方ひとつでもうそこらじゅうが愛の園なのかもしれないし
どこにもない架空の場所なのかもしれないし。


【はるかかなた太平洋 いのちもえて 朝あける】

朝早く
そのおじいちゃんが
じっと海をながめている背中を
何度かみかけたことがあった。

オレンジピンクの光の中で
ふしぎな絵みたいだった。

・・・
とても長いうたで
メロディーを思い出せないところもある。

『もうそこはうたわずに
 語りにするのも
 いいんじゃないですか?』

『それもいいなあ!そうしよう。』

などなど
ああだこうだいいながら
最後までうたってもらう。

まるで
映画をみるような
心動く時間だった。

おじいちゃんの身体の中の“いのち”が
一生懸命叫んでいるようで
わたしの身体の中の“いのち”が刺激された。

今はまだ
人に知られたくないから
うたの練習の話は
ここだけの話にしてくれと。

だから
今はまだ
ここだけの話です。


*ふやよみ あおきさとみ*

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