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【10/100】さらば、乳歯よ

30歳、乳歯を全て抜き終えた。

記憶の箱を開けると、どうやら歯が抜けにくい子どもだったようだ。自然に抜けるよりも先に歯医者でゴリゴリ抜かれた。診察台から逃げないよう、ネットでぐるぐる巻きにされ、抜歯。もはやトラウマな絵面である。

その歯医者がトラウマになったのか、気がつくと別の歯医者に通い始めていた。新しい先生は自然に任せるタイプだった。自然に抜けるのを待った結果、成人しても乳歯が4本も残っていた。

加えて、親知らずも埋まっているという。なんということだ。思わず「乳歯ーず&親知らず」という謎のグループを脳内で爆誕させてしまった。このまま、彼らと共に、乳歯も親知らずもある人間として生涯を終える。そう思っていた矢先、「乳歯ーず」のうち、1本が虫歯になった。抜歯。さっそく卒業歯の誕生である。

残った3本による「新体制で頑張ろう!」という意気込みも束の間、今度は2本が揺らぎ始めた。ぐらぐら。抜けたいのか、抜けたくないのか。揺らぐ彼らに対し、容赦無く抜歯。4本あった乳歯は1本になり、「乳歯ーず&親知らず」はグループからコンビになった。

乳歯と親知らずのコンビになって4年。別れは突然だった。

ある日、「歯周病検診を受けたまへ」とお上からハガキが届いた。行き渋っていると「はよ、歯周病検診受けろや」と催促がきた。観念し、震えながら歯医者へ。そして告げられる真実。

「乳歯、虫歯になってますよ」

すまん、乳歯。わたしが不甲斐ないばかりに君を虫歯にしてしまった。最後の1本だったのに。ごめん。乳歯ながらも歯としての役目を立派に果たしていたのに。そんなことを考えながら抜歯。思ってたよりも痛くなかったので、先生の腕が良いのだろう。ありがとう、先生。

こうして「乳歯ーず&親知らず」は解散。親知らずが残るのみとなった。さらば、乳歯よ。これからはちゃんと歯医者に通います。これを読むあなたも、歯は大切に。

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