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素人が考える国際政治学の“イズム” 〈第二章 リアリズムは最も“イズム”化した“イズム”かⅠ〉

疑念の『危機の二十年』解説  筆者が学部ゼミ在籍中、課題文献として読んだ国際政治学の著作のなかに、E・H・カー(1892~1982、国際政治学・ロシア史)の著した『危機の二十年(The Twenty Years' Crisis)』(1939初版)があった。ゼミを担当していたB教授は、同著に感銘を受けたと学生に語り、内容が複雑なことに加えて教授本人の思い入れもあったのか、同著の解説には比較的長い時間が費やされた。  しかし、振り返ってみると、B教授の解説はとても十分と言えるも

    • 素人が考える国際政治学の“イズム” 〈第一章 国際政治学は血も涙もないのかⅡ〉

      ミアシャイマーの“西側責任論”  ロシアによるウクライナ侵攻が開始されてからというもの、『大国政治の悲劇(The Tragedy of Great Power Politics)』(2001初版)を著したジョン・ミアシャイマー(1947~、国際関係論・安全保障分野)による議論が波紋を呼んでいるが、そのような波紋が生じる背景のひとつとして、彼が前回記事で述べたような国際政治学の視点を提供していることが挙げられないだろうか。  ミアシャイマーは、侵攻開始直後の3月1日、The

      • 素人が考える国際政治学の“イズム” 〈第一章 国際政治学は血も涙もないのかⅠ〉

        “3つのモデル”と“3つのイメージ”  筆者は学部生の頃、とある国際政治学の講義の期末試験で、どのような文脈の下においてか失念したものの、グレアム・アリソン(1940~、政策決定論・核戦略論)の“3つのモデル”とケネス・ウォルツ(1924~2013、国際政治学)の“3つのイメージ”を同一視するかのような答案を提出した。講義の成績評語は「C(可)」であった。この事柄が直接の原因であるかどうか、今となっては確かめることが難しいが、担当のA教授は、筆者が両者を漫然と混同したことを

        • 素人が考える国際政治学の“イズム” 〈まえがき〉

          まえがき  本連載では、大学の学部時代に国際政治学の“イズム”(リアリズム、リベラリズムなど)を扱うゼミに在籍していた筆者が、“イズム”に期待し、後に“イズム”を敬遠し、結局は“イズム”というものの意義を自分なりに見いだした経験を踏まえて、現在、“イズム”に対して抱いている雑感を記す予定である。  筆者は、一応は大学院修士課程で政治学を修めた身であるが、“イズム”を題材とした査読つきの研究業績はなく、現在はそもそも研究と縁遠い生活を送っている。雑感を謳っていることもあるので

        素人が考える国際政治学の“イズム” 〈第二章 リアリズムは最も“イズム”化した“イズム”かⅠ〉

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        • 素人が考える国際政治学の“イズム”
          4本
        • ヒューマン・アフター・オール
          2本

        記事

          ヒューマン・アフター・オール 〈第一章〉

           警察庁の本部刑事局長は、沢口長官官房長からの指示を聞くなり、露骨に多忙をかこつかのような口調で呟いた。 「こんなときに人捜しですか——」 「矢口副長官からだ。彼の先代には世話になった、最優先で頼む。鑑取りにどれだけ人を割いても構わん」  このほど大田区から品川区にかけての一帯を派手に蹂躙した、巨大不明生物による災禍は、当然、警察庁にとっても対岸の火事ではなかった。大河内清次総理は、災害対策基本法に規定された災害緊急事態のほかに、警察法第七十一条を根拠とする緊急事態も布告

          ヒューマン・アフター・オール 〈第一章〉

          ヒューマン・アフター・オール 〈序章〉

          「君たち警察が妙なことを吹き込むから、領事局が発給を渋っている。一体どういうつもりだ」 「貴省領事局の判断は当庁の関知するところではありません」  ロシア課ナンバーツーの首席事務官を名乗る不機嫌そうな男からの電話に対して、警察庁の係長は手はずどおりにしらを切った。 外務省が治安上の脅威を及ぼしうる人物に対してビザを発給しないか目を光らせる警察庁からの出向者は、きちんと仕事をしていた。出向者が警察の有する情報——より厳密にはインテリジェンス——をもとに事務を遂行していることは

          ヒューマン・アフター・オール 〈序章〉