Gackey

ポップスユニットで歌詞を書いていました。いわゆる小説はまったく読みませんが、星新一は好…

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ポップスユニットで歌詞を書いていました。いわゆる小説はまったく読みませんが、星新一は好きだったかも。近未来モノ、ディストピアモノ、大好物です^ ^ 千葉でジャズバーを経営。物語創作サークル『シナリオ・ラボ』参加中。

最近の記事

春に目覚める【短編SFノベル】

『…蘇生進捗状況99.8%…心拍数、血圧、体温、異常なし…羊水温度正常…… 蘇生完了…』  微かな機械音が唸る無菌室の中、合成音声が無機質に鳴り響く。 「…ここは…どこ…?」  目が覚めたアキは、まだ朦朧とした意識の中で辺りを確認しようとした。わかったのは、幾つのものチューブに繋がれ、人工羊水が満たされたカプセルの中に横たわって浮かんでいる自分だった。 「…ああ…そうか…また…春が来たのね…」  無人のAIで管理されているこの生命維持カプセルは、一年の半分をコールド

    • My Favorite Balloons 【短編現代ファンタジーノベル】

      聞いて。なんかわたし…少し前から、ちょっと変… 人の話す言葉がね、まるで漫画の吹き出しのように…見えるんだ。Speech Balloonっていうのかな、言葉がふわふわ光りながら浮かんでる。言葉の種類によって光る色にも違いがあって、事務的な言葉は無彩色。だけど親しい人と話す言葉はいろんな色が着いていて、なかでもね、ふふっ、わたしを褒めてくれた言葉は、大好きなパステルカラーなんだ。 「まひろ、その服すごく似合ってる。」とか、 「今日はメイク、決まってるね!」とか、 「まひろさ

      • ゆく人くる人 【短編近未来ファンタジーノベル】

         それは大晦日の夜、折しも外では雪が降り積もり、一際静かな時を迎えていた。  「ほら、年越し蕎麦をカイトが作ってくれたよ。冷ましてあげるから、慌てないで食べようか。」  息を吹きかけながら、年老いた妻の口元に少しづつ蕎麦を運ぶ。無表情のままそれを受け入れる妻。  「どうだい?美味しいかい?」  「…ありがとうございます…ところで…どちら様でしょうか?…」  半ば諦めた表情で小さく溜息をつきながら、夫は優しく微笑んだ。  「敏夫だよ、あ、ほらまたこぼしちゃったね、ゆっ

        • ハコの中で 【短編近未来ファンタジーノベル】

           底冷えのする冬の夜だった。店のスピーカーからはいつものように、マイルスのミュートトランペットが囁くように響いていた。まだ誰もいない客席を眺めながら、マスターは軽いため息をついた。  「いよいよだな…」  愛おしむように何度も何度もカウンターを磨く。その時入り口の扉が開き、歳の割には派手目な姿の老人が店に入ってきた。  「おう、聞いたぜ、マスター。店閉めるんだってな!」  「ああ、ゲンさん…そうなんですよ…」  ゲンと呼ばれた男、若い頃はジャズピアニストとして、ちょ

        春に目覚める【短編SFノベル】

          クリスマシアン vs ハロウィニスト 【短編現代ファンタジーコメディノベル】

          以前書いた『クリスマシアンの逆襲』の続編です。よろしければ、こちらもどうぞ。 https://note.com/gackey_clipper/n/n11f62b42fbd2 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  秋風に乗って金木犀の香りが漂い始めた10月初め、港近くのジャズバー『clipper』に、とある男女が訪れた。 「マスター、お久しぶりです。」 「おお、元クリポリスのタクマくんと、レイコちゃん、お久しぶり!」  二人はこの店でマスターの紹介により出会い、今ではヴィンテージ

          クリスマシアン vs ハロウィニスト 【短編現代ファンタジーコメディノベル】

          透明教室 【短編近未来ファンタジーノベル】

           「ああ、大きな雲…」  休み時間、僕は机に片肘をついて、教室の窓からぼんやり空を眺めている。大きな雲たちが強い風に乗って形を変えずに移動しているのを見ていると、雲が動いているんだか、地球の方が動いているんだか、わからなくなる時がある。少しわくわくする。  僕は足立ヒロキ。クラスの中でも影が薄く、これといった友だちもいない。そう、例えて言えば、昔のドラマで見た登場人物みたいに、地味で、暗くて、向上心も、協調性も、存在感も、個性も、華もない、パッとしないヤツだ。いや、昔から

          透明教室 【短編近未来ファンタジーノベル】

          休暇届〜Vacation for My Life 【短編現代ファンタジーノベル】

           そこは小さな無人駅のホーム。降りたのは私一人だった。いつもより柔らかな風が、優しく髪を撫でていく。ピアスも外し、ヒールの靴はスニーカーに履き替えた。スマホも圏外になっている。  私は福井郷子、27歳。大手の広告代理店で働いている。やりがいのある仕事だが、人間関係や将来の事、プライベートの事など、いろいろと思い悩む日々だった。行き詰まり、何もかも疲れた私は、全てをリセットするために旅に出たいと思った。思い切って休暇届を出して、やってきたのがここだったのだ。  元々は生まれ

          休暇届〜Vacation for My Life 【短編現代ファンタジーノベル】

          遠い日の花火【短編現代ファンタジーノベル】

          「ああ…綺麗ね…」 「そうだね。あ、ほら、そんなに揺らすとすぐ落ちちゃうよ。」 「ごめんなさい、揺らすつもりはないんだけど、手の震えは止まらなくて…」 「大丈夫だよ、まだたくさんあるから。」  ここはとあるリゾート地のコテージ。夏の夜にしては過ごしやすい爽やかな空気が漂っている。ウッドデッキのバルコニーでは、二人の男女が線香花火に興じていた。 「花火をするなんて、いつ以来だろう。」 「本当にね。でもあなたとこんな時間を過ごせるなんて、なんか嬉しい。」 「僕もだ。でも、元は

          遠い日の花火【短編現代ファンタジーノベル】

          五月病専門外来 【短編シナリオ風ノベル】

          【登場人物】 松丘 美優(26)…アパレルメーカー営業職 鹿目(かなめ) 順(42)…クリニックの医師 橋下 亜衣(26)…美優の大学時代からの友人 先輩(28)…美優の会社同僚の先輩 隣人(48)…美優の住むマンションの隣人 ◯美優の部屋(夜)    亜衣と電話中の美優 松丘美優「やっぱり…五月病なのかな…」 橋下亜衣「どうしたのよ、こないだ会ったときは元気だったじゃない。」 美優「うん、最近眠れないのよ。頭痛がするし何もやる気がしない。ゴールデンウイークもあと数日だ

          五月病専門外来 【短編シナリオ風ノベル】

          桜前線異状あり 【短編シナリオ風ノベル】

          【登場人物】 ・須藤久美子 (女性・42) メインキャスター ・田山りを (女性・19) コメンテーター・アイドル ・栗川茂樹 (男性・64) コメンテーター ・村神穂高 (男性・48) コメンテーター ・今中百合子 (女性・28) レポーター ・仲良井千恵 (女性・30) お天気キャスター ・佐々木陽希 (男性・36) 千鳥ヶ淵大学植物学研究員 ・ヨッシー(染井ヨシノ) (推定樹齢45) ソメイヨシノ ○テレビ局のスタジオ(朝)    モーニングショーを生放送中 仲

          桜前線異状あり 【短編シナリオ風ノベル】

          薄ら氷(うすらひ)【短編ラブストーリー】

          ここはどこなんだろう。 目の前には、氷が張った湖が広がってる。朝もやの漂う湖面に、時折柔らかい風が吹いている。春が近いこともあってか、氷もだいぶ薄くなってきているみたいだ。 え…と、彼はどこ? そうだ、一人でここに来たんだった。いつもどこに行くにもあれほどべったりだったのに、なんか可笑しい。まあいいわ。今は一人の方が心が落ち着く。 遠くで誰かが歌ってる。とても綺麗な声。   時は移ろい   季節は変わり   厚い氷も   いつかは溶ける   あなたへの想いも   い

          薄ら氷(うすらひ)【短編ラブストーリー】

          スノウノオト 【短編音楽小説】

          最後の曲を演奏し終わった時、オレはイラついていた。メンバーも同じ気持ちだったに違いない。会場の照明がつき、BGMが流れ、客が皆それぞれに満足した顔で店を出て行く間、誰も口をきかず、黙々と自分の楽器を片付けていた。 ここしばらくのバンドの演奏は、いつもこうだった。何かがずれている。うまくいかない。聴いている客にはわからないかもしれないが、自分たちが求めている音が見つけられなくなっていた。まるでそれぞれが、自分の方を向いて演奏しているようだった。 オレはジャズピアニスト。マル

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          So Many Stars 【短編ラブストーリー】

          「ねえねえ、ふたご座流星群って知ってる?」 マユが白い息を吐きながら尋ねる。 「今頃が一番いっぱい流れるんだって。こないだテレビでやってた。」 「そうみたいだね。」 タイチは満天の星空を見渡しながら答える。 12月の旅客船ターミナル。夜の桟橋は一際寒さが増してきている。ベンチに座った二人の手の中の缶コーヒーも、すっかり冷え切っていた。 「ふたご座ってどこにあるのかな。」 「んー、たぶんあそこらへん。」 タイチは空を指差す。 「明るい二つの星、カストルとポルックス

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          クリスマシアンの逆襲【短編現代ファンタジーコメディノベル】

          「メリクリ」「メリクリ」 「メリクリ」 冷え込みが一段と厳しくなった冬の夜、ひと組のカップルが店のドアを開けると、男が立っていた。小声で囁き合ったのは合言葉だ。カップルの二人はマスクを外すと、内側に描かれた絵を男に見せた。そこにはサンタとクリスマスツリーが描かれている。 「ようこそ。さあ、中へ」 ニヤリと微笑むと、男は二人を招き入れた。さほど広くはない店内にはすでに20人ほどの男女がいた。ほとんどはカップルだが、中には一人でスマホを見ながら時間を持て余しているような者も

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          秋の記憶【短編近未来SFノベル】

          「綺麗な夕陽だね」 「そうね、波にキラキラ反射して、ちょっと眩しいわ。」 ひと気のない晩秋の海辺。肩を寄せ合うようにして、若い二人は沈みゆく夕陽を、名残惜しそうに眺めていた。 「これが秋の夕陽なんだね。何やら物悲しいよ。切なさで胸が締め付けられそうだ。」 「そうね、本当に素敵な季節ね。この前、山で見た、紅葉っていうの?あれも、もの凄く綺麗だった。」 「春の花々と鮮やかな緑、夏の太陽と湧き立つ雲も捨てがたかったけどね。だけど秋って季節は格別だな。」 「このあとは冬が待つばか

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          Requiem〜Reborn【短編SF終末ラブファンタジー】

          〜それはわかっていた。明日で世界が終わる〜 =1440分前= 朝起きてテレビをつけたら、何やら様子が変だった。いつもの番組をやっていない。緊急特番らしい。チャンネルを変えても、どこも内容は同じだ。 どうやら某国との和平交渉が決裂して、24時間以内に交戦が開始されるらしい。核兵器を積んだミサイルが大量に配備されている衛星写真が、大写しにされている。当然ミサイルを搭載した原子力潜水艦も、我が国周辺に集結しつつあるんだろう。 何年も前から、考え方も思想も異なる某国とは折り合

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