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雅楽とは

雅楽の起源と歴史

雅楽とは、宮廷で演奏される儀式音楽で、5世紀ごろ中国や朝鮮半島から日本に伝わった音楽です。音楽とは言っても、「管弦(かんげん)」という器楽曲と、舞を伴う「舞楽(ぶがく)」とに大きく分けられます。日本古来の民謡を元にした、歌詞のある「催馬楽(さいばら)」「今様(いまよう)」「朗詠(ろうえい)」などもあります。

894年(寛平6年)に遣唐使が廃止され、大陸からの音楽の輸入は途絶えますが、それまでに中国や朝鮮半島から入ってきた音楽や舞に、もっと昔から伝わる音楽や舞が融合され、日本化していきました。平安時代に大まかな形が成立し、それが今日まで伝承されているのです。

正倉院と古楽器

元は、奈良時代にまで遡れます。奈良の正倉院に当時の楽器が残されており、千年以上の歴史を感じられます。正倉院はご存知の通り、楽器以外にもたくさんの貴重なものが保管されており、秋に正倉院展が行われ、一部が公開されます。楽器も見られることがあります。

余談ですが、以前、雅楽の演奏家とお話をした際に、古い楽器を持って来られたので、「古そうな貴重な楽器ですね」と申し上げたところ、「そんなに古くありませんよ、室町ですから」と言われ、時間感覚というか歴史感覚が一般人とは違うな、と思ったことがありました。室町時代でも十分古い楽器ですよね。

雅楽の分類と演奏形態


雅楽では中国系の唐楽(とうがく)を伴奏とするものを「左方(さほう)」、朝鮮系の高麗楽(こまがく)を伴奏とするものを「右方(うほう)」といいます。右方か左方かは装束で見分けることができます。左方が赤系で、右方は緑系です。舞台へ登場するときも、左方は舞台後方の左側から舞人が現れ、右方の舞人は舞台後方の右側から現れます。

三方楽所と明治撰定譜


雅楽は儀礼用の音楽であることから、宮廷の他、お寺や神社での演奏が多く、京都の宮廷、奈良の興福寺、大坂の四天王寺の3つが大きな演奏家団体となり、「三方楽所(さんぽうがくそ)」と言いました。彼らが鎌倉、室町、江戸時代を通じて伝統を守ってきました。明治になって、天皇家が東京に移ったため、三方の楽人たちも東京へ移ることとなり、宮内庁(当時は宮内省)の雅楽局所属となりました。そして、『明治撰定譜』という三方の伝承曲から楽曲を整理して、それぞれだった楽曲を統一しました。『明治撰定譜』に収録され、現在演奏されている曲は「現行曲」と呼ばれ、唐楽103曲と高麗楽32曲があります。

現代の雅楽と楽器


楽器は現在は笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)または高麗笛(こまぶえ)または神楽笛(かぐらぶえ)または中管(ちゅうかん)、楽太鼓または大太鼓(鼉太鼓(だだいこ))、鉦鼓(しょうこ)または大鉦鼓、羯鼓(かっこ)または三ノ鼓、楽琵琶(がくびわ)、楽箏(がくそう)または和琴(わごん)が使われます。その他に笏拍子(しゃくびょうし)などが使われることもあります。

正倉院には他にも使われていた楽器があり、現在復元されているものもあります。五絃琵琶、阮咸(げんかん)、瑟(ひつ)、箜篌(くご)、簫(しょう)、竽(う)、大篳篥(おおひちりき)、方響(ほうきょう)、塤(けん)などが復元楽器です。

現在、宮内省雅楽部は宮内庁式部職楽部となり、宮内庁式部職楽部の雅楽は重要無形文化財、またユネスコの無形文化遺産に指定されています。式部職楽部の方は、雅楽の演奏だけでなく、舞も右方か左方かを習得しますし、宮内庁関係で行われる西洋の音楽も担当します。雅楽では龍笛の担当の方がフルート担当、篳篥の方がクラリネット担当、といった具合です。

現代における雅楽


雅楽は儀式音楽ですので、今でも宮中行事の際は、雅楽を演奏します。儀式の場合、お客様がいないことがほとんどですので、本当に神様のためだけに演奏をするのです。夜通し演奏する儀式もあると元宮内庁式部職楽部の方から伺ったことがあります。それを聴けるのは、火が消えないように薪を持ってくる人だけ、というなんとも贅沢なことです。

雅楽は、一般人が聴ける機会はそうそうありませんでしたが、1966年に開館した国立劇場が毎年雅楽公演を開催したことは雅楽を広めるきっかけになりました。雅楽公演は大劇場(1610席)が満席になるほど人気です。復元楽器を使った公演も国立劇場では行われています。小野照崎神社の小野雅楽会、天理教なども雅楽の演奏の歴史は長いです。また、元宮内庁式部職楽部出身の故・芝祐靖(しばすけやす)先生が1985年に発足させた、雅楽の合奏研究を目的にした雅楽演奏グループ伶楽舎(れいがくしゃ)は色々な企画で雅楽の演奏会を開催し、雅楽を聞く機会は多くなっています。東儀秀樹さんが篳篥でテレビに出だしたのも多くの人に雅楽を広めるきっかけになったかもしれません。因みに東儀秀樹さんも以前は宮内庁式部職楽部の方でした。洋楽を演奏する時はチェロを担当されていたそうです。

現在国立劇場は建替えのため、閉館中ですが、入札が上手くいかず、工事の予定が大幅に遅れる見通しです。雅楽の研究、発表のためにも早期の解決が望まれるところです。国立劇場は閉館中は主催事業を他のホールで行うため、雅楽公演もどこかで行われると思います。

一般の方でも、皇居で行われる雅楽演奏会に行けるチャンスもあります。春季は文化団体や在日外交団を中心に3日間、秋季は新聞・ラジオ等により広報して一般からの参観申込者のために、例年、10月下旬から11月初旬の間3日間、皇居内楽部にて雅楽演奏会を行っています。ホームページなどをこまめにチェックなさるとよいでしょう。

雅楽の音取りと調律


雅楽のCDを作成し、曲の頭の確認などをしている時、監修の芝祐靖先生には大変お世話になりました。雅楽では曲に入る前に「音取(ねとり)」という、調律を合わせるようなことをします。オーケストラが最初にAの音で合わせるのと同じですね。その「音取」も曲の一部のように聞こえるので、「雅楽でイントロクイズは出来ないですね」と笑ったことがあります。

調律、と言いましたが、日本にもドレミのような音名があります。壱越(いちこつ)、断金(だんきん)、平調(ひょうじょう)、勝絶(しょうぜつ)、下無(しもむ)、双調(そうじょう)、鳧鐘(ふしょう)、黄鐘(おうしき)、鸞鏡(らんけい)、盤渉(ばんしき)、神仙(しんせん)、上無(かみむ)です。雅楽はこの調子で合わせていきます。曲が 壱越調の場合は「壱越調音取」を曲の前に演奏するのです。壱越はDで、そこから半音ずつ上がっていきます。

1300年の歴史のある雅楽、装束も華やかで、いかにも宮中の音楽らしく、普段とは違う世界に連れて行ってくれる音楽ですので、是非、聴いたり、見たりする機会を得ていただければと願います。

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