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「ごはん山盛之介」第一話:最強の朝ごはん

 ここ日本において「ごはん」と「パン」両者の戦いは熾烈を極めていた

 全日本フード選手権 朝ごはんの部

 青コーナー、パン食代表 『新たなる刺客 ジャムパン・ザ・キラー』

 「ごはん山ゾウ、お前の時代はもう終わりだ!」

 不適な笑みを浮かべながら、キラーはそう言った。

 赤コーナー、ごはん食代表 『前人未到のチャンピオン ごはん山ゾウ』

 「そうかもしれんし。そうでないかもしれん」

 クールな山ゾウは、冷静にキラーにこう返す。

 日本の朝食は古くより、ごはんとパンで争われている。戦いの舞台は、全日本フード選手権 朝ごはんの部 決勝戦。年に一度のこの大会は、日本の朝食の覇権を争うにふさわしい舞台である。日本国民は、ここで勝った選手に憧れ、日々の朝ごはんを選ぶようになるのだ!

 そんな重要なこの大会、ごはん代表の「ごはん山ゾウ」は前人未到の18連覇を達成していた。彼はめざしの姿をした「めざしソード」を武器に、日本中から国民的朝ごはんとして人気を集めている。つまり、今、日本人は、ごはんばかり食べている。そして、ついでに、めざしも大人気だ! カルシウム満点で国民みんな元気である!! 全て、ごはん山ゾウのおかげだ!!

 そこに刺客として現れたのが「ジャムパン・ザ・キラー」である。キラーはパン同士の予選をものともせず、圧倒的な力で勝ち上がってきた猛者である。彼はジャムピストルを両手に持つ二刀流のガンマンであり、絶対的王者ごはん山ゾウを前にしても、よほど自信満々と見えて不適な笑みを浮かべている。

 そんな両者が遂に激突する時が来た。この勝負、どうなるのか? スタジアムの6万人を超える観衆がどよめく中、いざ、勝負の幕が上がった!!

「産地直送 DHA!!!!」

 言うなり、めざしソードを両手に持って振りかぶり、ごはん山ゾウは高くジャンプした。その高さ、雲に溶けるほど高い。

 出るぞ! これまで数々の挑戦者を退けた必殺の技!!

 ドコサヘキサエンサーーーーーーン!!

 するっ

 山ゾウ渾身の一撃だったが、振り降ろす剣先をキラーはわずかに交わした!! と思ったその時、めざしソードの目玉がギョロリとキラーの方を向いて、キラーと目が合った。

「あ」

 キラーがそう言った時には、もう遅かった。

「EPAウイーング!!!!!!」

 言うなり、めざしソードは九十度に曲がり方向転換してキラーの方に伸びた。そして、光をまとい、そのままキラーの腹に突き刺さったのだっ!!

 ボフッ!!!!!!!!!

 エイコサペンタエンサーーーーーーーーン!!

 腹に穴が開くキラー。

 腹は完全に貫通して、そこからめざしソードが顔を覗かせる。

 さすが、ごはん山ゾウ。勝負は一瞬で終わった……

 と観衆の誰もが思ったその時、キラーの腹から粘性の液体がドバドバ噴出された。

 ジャムである!!!

 ジャムがキラーの開いた腹の穴から顔を出していためざしソードを捕獲した。

「めざしソード、破れたり!!!!!」

 ジャムに捕らえられためざしソードは捕獲されたまま動かない。焦る山ゾウ。剣を強く引くが、全くびくともしない。

「ジャムだ! ジャムがめざしを捕獲した!! そして、食パンは腹に穴が開いてもそれは食パンなんだ!!!」

 観客たちがそうどよめく中、キラーはフフフと不敵に笑った。そして、こう叫ぶ!!

「もったいないが、ジャムを塗っためざしなんて食えたもんじゃねえだろう!!!」

 ばたり

 めざしソードが倒れた

 その刹那、めざしソードを腹から引っこ抜き、二丁拳銃を構えて、キラーが大きくジャンプした。その高さ、山ゾウのジャンプをも超える高さで青空をバックに上空から二丁拳銃の先を山ゾウに向けるっ!!

「ごはん山ゾウ!! お前の時代はもう終わりだっ!!!!

 くらえっ!!!! マーガリン&ストロベリースナイプ!!!」

 こう言って、二丁拳銃から、それぞれマーガリンとストロベリージャムが一斉に放たれた!! 

 ビシューン!! 見事、命中!!!

「ぐっ……お見事」

 ばたり

 こう言って、山ゾウはジャムまみれになりながら倒れた。スナイプは完璧でほとんどもれなくマーガリンとジャムが山ゾウに注がれ、その倒れた姿はまるで生ゴミのようだった。

 思わず、目を背ける観客たち。

「ひっ……ゴハンにジャムって……絶対、不味いやつじゃん!!」

 こう言って、観客たちはどよめき、勝敗は決した。

「勝者!!ジャムパン・ザ・キラァァァァァ!!!!!」

「うおおおおおおお!!!!!!」

 雄叫びをあげるジャムパン・ザ・キラー。

 こうして十八年続いた山ゾウの時代が終わりを告げた。いや、これは山ゾウの時代だけじゃない。長らく続いていた米のごはん食の時代が遂に終わりを告げたのだ。これからはパン食の時代である!! この日本においてもパン食の時代が始まるのだっ!!!!

 そこにしかし、年の頃、十歳ぐらいだろうか。ごはんの姿をした一人の少年が叫びながら駆け寄ってきた。

「じいちゃーん!!! 負けちゃったのー!!! 大丈夫ー!!!!」

 声の主は、どうやら山ゾウの孫のようだ。これに応えてムクッと起き上がる山ゾウ。

「山盛之介(やまもりのすけ)か……すまんかったの。不甲斐ない所を見せたわ」

 そう言いながら、山ゾウは孫の「ごはん山盛之介」に近寄った。そして、山盛之介に更に声をかける。

「ほれ、よい機会じゃ。食うてみい。敗者の味じゃ」

 そう言うなり、自身のごはんの身体をごそっと片手ですくい取った。そこには、もちろん、ジャムとマーガリンがついている。それを山盛之介に手渡した。

 うえっとなりながら、それをもらい受ける山盛之介。食うのか、どうするのか?

 パクッ

 食いたくないなーと思いつつも、じいちゃんの言うことは絶対だ。じいちゃんが言うなら、それは意味があるに違いない。と自分に言い聞かせて、山盛之介は食った。山盛之介、根性のある少年である。ストロベリージャムとマーガリンが混ざったごはん。それは果たしてどんな味なのかっ!?

「おえっ……不味い」

 そう言って嗚咽する山盛之介。これを見て、どよめく観衆たち。

「やっぱりかーーーー!!!!」

 やっぱり、ごはんにジャムとマーガリンをかけると不味かったようだ。こうして雌雄は決した。

「やっぱり、ジャムにはパンでしょう! 遂に我々日本人にもパン食の時代が来たー!!!」

 大声で勝ち名乗りを上げるスタジアムの実況アナウンサー。長きに渡るごはんの時代への愛着はどこへやら。会場はパン食の新しい時代ににわかに湧き立っていた。

 それを尻目にごはん山盛之介に駆け寄る山ゾウ。

「よう食うたな、山盛之介。よう味わっておけ。それが敗者の味じゃ」

「じいちゃん……」

 そう言いながら、ごはん山盛之介は口をモゴモゴ動かしていた。口の中は不味いけど、これを最後まで味わうのが僕の戦いである。山盛之介は、そう思って、最後までじいちゃんからもらったごはんを食べ切った。

 この時、ごはん山盛之介、まだ十歳。彼はやがてこの決勝の舞台に立つことになるのだが、それはまだかなり先の、遠い未来のお話である。

 それから五年後……

 ごはん山盛之介、十五歳。あれから研鑽を重ねた山盛之介は、もういっぱしの剣士である。じいちゃんの道場で修行を積み、めざしソードも受け継いだ山盛之介は、同年代では負け知らず。いよいよ次の全日本フード選手権に打って出ようといった所だ。いよいよ時は近づいている!!

「たのもーーーー!!!!!」

 そこに一人の道場破りが現れた。名は、シリアル・コーン。シリアル部門で代表になって、先日行われた、全日本フード選手権 朝ごはんの部に出てきた男である。彼は、コーンフレークによる粒々の体を持ち、ミルクの大筒を武器にして、大砲を発射できる恐るべき戦士だ。

 彼がなぜここに来たのかというと、先日、全日本フード選手権で負けた、ごはん山道(やまみち)に借りを返すためである。ごはん山道は、山ゾウの息子であり、山盛之介の父だが、決勝のジャムパン・ザ・キラーに挑む前の準決勝でコーンと死闘を演じて、からくも勝利したのであった。その際に、シリアル・コーンは砕け散って苦い思いをしたのだが、追い打ちをかけるように山道がジャムパン・ザ・キラーにあっさり負けたから、更に苦々しいのであった。

 この戦いが忘れられないコーンは、自身の身体が回復するなり、すぐさま道場に向かった。

「なんだ、あの不甲斐ない戦いは!!!」

 そう一言、山道に文句を言いたい。そして、こうなったら、俺が修行をつけて、一緒にパンの時代を終わらせよう! そう思う程、コーンは負けてなおめげずに、打倒!ジャムパン・ザ・キラーを目指して、心の中がふつふつと燃えたぎっていた。

 しかし、山道は昨年の大会のあまりの負けっぷりに既に引退を考えていた。ジャムパン・ザ・キラーには絶対、勝てない。そもそも親父の山ゾウに手も足も出ないのに、ジャムパン・ザ・キラーに勝てるわけがない。そして、それは、山ゾウの強さを知るごはん界の者たち誰しもが思うことであった。こうして大人たちは、ごはん界を背負う事を避け始め、山道もまた負けるために代表になる事から逃げ出そうとしていた。

 しかし、若者たちはそんな大人たちを尻目に頼もしい。ごはん界の未来は、若者たちに託された。とりわけ、この道場で頭角を表したのは、この五人である!!!

 ごはん山盛之助 十五歳

 ごはん美味過ぎ丸 十五歳

 ごはんホオバル 十六歳

 雑炊吉之助(よしのすけ) 十八歳

 リゾット=マイウー 二十歳

 他にも大人の師範や子供の門弟たちはいたけれど、やる気と実力、両方があるのは彼ら五人のみであった。

 そして、「たのもーーーー!!!!!」と入ってきたシリアル・コーンに彼ら五人が立ちはだかった。

 ズザザ!! 勢揃い!!!

「なんだ、小僧ども! 山道を出せ! 小僧には用がねえ!!」

 目の前の五人では相手にならんという風にコーンは吐き捨てる。

「へへへ、親父は逃げ出したぜ! そして、俺たちはもう親父よりつえー!!」

 山盛之介はそう言うなり、めざしソードでコーンに斬りかかる!!

 それに続く美味過ぎ丸

 美味過ぎ丸は、肉をまとった肉巻きおにぎりの姿をした山盛之介の親友だ。戦う時は、身体の肉を四方に伸ばし、相手に巻きつける。故に、この時も美味過ぎ丸の身体から肉が伸びて、コーンの方に向かっていった!!

 他の三人は構えたまま、次の一撃に備える。

 ホオバルは丼ごはんで身体がデカく、体内に梅干しを内蔵し、口から梅干しの種を弾丸のように飛ばす事ができる。

 吉之助は雑炊の流動的な身体にたくあんソードを持ち、無類の強さを誇る。この道場の圧倒的次期ホープである。

 マイウーはイタリアから修行に来た留学生で、海老ブーメランを使いながら、今までにない発想で仕合を行う優男である。

 この五人にいっぺんに立ちはだかられるコーン。

 しかし、コーンは手にミルクの大筒を構えながら、ニヤリと笑い、平然と彼らに向かっていった。

 コーンには自信があるのか!? 

 果たして、この戦い、一体、どうなるんだっ!?

 (つづく

 
 

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