見出し画像

「ごはん山盛之介」第三話:修行の果てに

「めざしソードを捨てろっ!!」

 シリアル・コーンは山奥にある自身の修行場に着くなり、ごはん山盛之介にそう言った。

「えええー!! これはじいちゃんから受け継いだものだぞっ!! 捨てられるわけないだろっ!!」そう言って怒る山盛之介。

「いや、めざしはもう古い。めざしでは、ジャムパン・ザ・キラーには勝てないのだ! それは他ならぬ山ゾウ自身が明らかにした事だっ!!」

 厳しい表情でコーンはそう答えた。言われてみると、確かに山ゾウはキラーに勝ってない。めざしソードで前人未到の18連覇を達成した山ゾウだが、もはや、その偉業は過去のものである。

 ここで一緒に来ていた、ごはん美味過ぎ丸が横から口を挟んだ。

「僕は? 僕は肉のままで良いの?」

 肉巻きおにぎりの姿の美味過ぎ丸は自身の身体の肉を操るが武器は持ってない。それが気にかかっているんだろう。自身の武器を何にすれば良いのか、シリアル・コーンに聞いてみた。

「お前はそのままで良い。お前はまだまだ強くなれる。しかし、強いて言えば、修行の最後に薬味の使い方を教えてやろう。そうすれば、もっと強くなれるだろう」

「そうなんだー。楽しみにしてる!」と美味過ぎ丸。

「やいやいやい! オレは美味過ぎ丸よりつえーなのに、なんでオレだけ武器を変えなきゃなんねーんだよ! おかしいだろっ!」

 道場では、いつも美味過ぎ丸に勝っている山盛之介はコーンに対して、こう反論した。しかし、コーンは毅然として山盛之介に反論する。

「お前のめざしソードは底が見えている!! 現に俺に一撃を加えたのに俺を倒せなかったではないか!! その時分かったのだ!! お前のめざしソードでは上に行けないと!!」

 ガビーン!

 その時、山盛之介とともに、めざしソードも驚いた。自分のせいで山盛之介は勝てないのか? いや、そもそも山ゾウも自分のせいで負けたのではないか? めざしソードは心の中でそう思ってしまった。勝てないのなら、身を引くべきかもしれない。ここが、めざしソードの岐路である。

「オレ、身を引こうか」めざしソードは、ボソッとそう呟いた。

「うわー! お前、喋れたのかっ! 知らなかったよ!」

 めざしソードが意志を持ってる事すら知らなかった山盛之介はその言葉に驚いた。

「すごいねー。めざしソード。喋れるのなら、捨てちゃダメなんじゃないの? かわいそうだよ」

 横から美味過ぎ丸がそう口を挟んだ。

 確かにそうかもしれない。喋れるという事は意思があるという事。この武器には俺の知らない可能性があるのか。そう考えたシリアル・コーンはここは一旦引く事にした。

「まあ、良い。今は修行中。武器はそのままで、とりあえず修行しよう。しかし、お前が壁にぶち当たったら、必ず次の武器の事を考えろ。それがお前の力を最大限、活かす事になる」

「分かった。そうするぜ。まあ、俺は壁になんてぶち当たらないけどな!」

 そう言って山盛之介は、めざしソードの方に向き直った。

「な、めざしソード。一緒に頑張ろうぜ!」

「うん」

 少し涙ぐみながら返事をするめざしソード。めざしソードもまた自分の限界までスペックを上げよう! と決意を新たにして修行にのぞむのであった。

 こうして、シリアル・コーン、ごはん山盛之介、ごはん美味過ぎ丸の三者による修行が始まった。それはあまりにも過酷な山の中での修行だった。

 一方、その頃、雑炊吉之助は、ごはん山ゾウから戦いの極意を伝授されていた。山ゾウは、数ある門弟の中でも吉之助ほど優れたものはいないと自身の息子や孫よりも目をかけていたのだ。

「お主なら必ずジャムパン・ザ・キラーに勝てるであろう。お主の才能はすごい。その才能の全てをわしに見せてみよ」

 言うなり、近くにあった木の棒を拾った山ゾウは吉之助の方に向き直り、思い切り棒を振った。

「産地直送 DHA!!!!」

 木の棒にDHAの成分は無いが、技は本気である。そのきっさき鋭く吉之助を捉えるかと思ったが、吉之助はひらりと舞ってその太刀を交わした。

「ふふふ。衰えましたね。良いでしょう。見てください、私の才能の全てを……必殺!!……」

 バシューン!!

 雷鳴が轟き技名はよく聞こえなかったが、あたりが暗くなり、天気さえも一変させたその技は山ゾウを宙に浮かせ、上下に山ゾウを振り始めた。

 うおおおおおおお!!!!!

 その技に飲み込まれた山ゾウは吉之助の才能の恐ろしさに驚嘆する。

「こやつ……ごはん食が生まれて以来の……天才か……」言うなり、山ゾウは少し気を失った。

「ふふふ。山ゾウさん、あなたのおかげで私はこんなにも強くなりましたよ。見て頂けましたか、私の才能の全てを」

 山ゾウが目を覚ますなり吉之助はそう言った。

「うむ……これならば、ジャムパン・ザ・キラーに勝てるかもしれん。行け! 吉之助! このまま高く行け!」

 そう言って、山ゾウは笑った。この才能を早く大会に出したい。みんなに見せてやりたい。ごはん山ゾウはワクワクし、期待で胸が高まるのであった。

 一方その頃、ごはんホオバルはマツザカの元で恐るべき成長を遂げていた。穏やかだったホオバルは悪魔のような雰囲気をまとい一人佇み、不適な笑みを浮かべている。

 リゾット=マイウーもまた山道に鍛えられ成長していた。年長者ゆえに技の理解度が高く飲み込みが早い。山道の極意を受け継いだマイウーもまた紛れもなく、ごはん界のホープの一人である。

 こうして月日が流れ、いよいよ全日本フード選手権 朝ごはんの部ごはん食部門の予選の日がやってきた。

 ごはん食部門は参加者が多いため、全国大会の前に予選が全国8地域で行われる。北は北海道から南は沖縄まで、全国津々浦々のごはんたちがこの大会に賭けている。

 山盛之介たち五人は本来同じ門弟なので全員、関東大会に出るのが筋なのだが、今回は山ゾウの計らいで戦略的に五人を別々の地域に派遣する事にした。

 ごはん山盛之助は、コーンの修行場から近かった四国大会に。

 ごはん美味過ぎ丸は、その近くの中国地方大会に。

 ごはんホオバルは、マツザカの居場所から近い近畿大会に。

 雑炊吉之助は、そのまま関東大会に。

 リゾット=マイウーは、少し北上して東北大会に。

 こうして、それぞれの予選が始まる!!!!

 (四国大会会場)

 ザワザワザワ。仕合前でまだ薄暗い会場に多くの選手たちが集まっている。

「おい、坊主、ここはお前のくるとこじゃねえぞ」

 体の大きいおじさん剣士が年若い剣士にそう声をかけた。

「なんだって?」

 年若い剣士は、ギロリとおじさん剣士を睨むと刹那、おじさんは吹っ飛んだ。おじさんの腹には一粒の米がある。これで吹き飛ばしたのか!? そして、その若者はこう続けた。

「わりーな、おじさん。アンタとは仕合するまでもねえ。そして、お前ら、数が多すぎるんだよ!!!!!」

 言うなり、若者は身体のご飯粒を四方に発射した!!!ドカドカドカドカドカ!!!!

 次々に吹っ飛ぶ選手たち。ほとんどの選手は倒れ、この場には若者を含む4人の選手だけが残った。

「ヘヘッ、残った奴もいたか。四国も捨てたもんじゃねえな」

「は? ごはん山盛之介か。わざわざ四国まで来るとは舐めた真似しやがって。ただじゃおかねーぞ」

 この若者は、誰あろう、ごはん山盛之介であった。そして、その山盛之介と相対したのは稲荷寿司の身体をして片目に傷を負った男、四国一強いと言われる稲荷寿司万太郎である。

 彼はその巨体で相手を押し倒す猛者であるが、果たして彼と山盛之介、どちらが強いのか?

 しかし、戦いはすぐには始まらない。「ちょっと待ったー!」と四国大会委員長が現れ「お前ら、ここは野良試合する場所じゃないぞ! ちゃんとくじ引きせい!」と二人を叱りつけた。

「へーい」

 すいませんという感じで頭を後ろで組む山盛之介。

「くっ、命拾いしたな」

 凄む、万太郎。

 二人は睨み合って今にも戦いそうな雰囲気だが、選手はあと二人いる。

 くじ引きはどうなるのか!?

 この四人の内、誰が勝ち上がるのか!?

 四国での戦いが今、始まろうとしていたっ!!!

 一方、その頃、関東大会では。

 驚くべき事に関東大会には、あの男が来ていた。

 ざわざわざわ。

 「ごはん山道、出るのかよ」どこからともなく、そう声が聞こえてきた。今回、山道の引退を聞きつけて出場した選手も多いが、山道が出るとなれば、ほとんどの選手がノーチャンスであろう。

 そして、実際、会場に現れるごはん山道。彼もまたマイウーとの修行で力をつけ、もう一度、ジャムパン・ザ・キラーに立ち向かう意志が芽生えてきたのだっ!!

 「フフッ」先に会場に来ていた雑炊吉之助はそれを見て少し笑った。そして、隣にいたごはん山ゾウもまたニヤリと笑ってこう言った。

「良いかませ犬が来たようじゃな」

「ですね」

 そう山ゾウの言葉を受ける吉之助には余裕がある。前回のごはん王者・山道を前にしてこの自信。果たして、この戦いもどうなるのか!?

 全日本フード選手権 朝ごはんの部 

 今年は面白くなりそうだぜっ!!


(つづく?)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?