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結局その色は自己満足?動画視聴環境と色の問題

(TOP画像:Adobe Fireflyにて画像生成)
かつて大手ポスプロ等でしかできなかったカラーグレーディング。コンソール含め数千万したDaVinci Resolveも、BlackmagicDesignにより一部無償化。個人クリエイターレベルまで一気に普及し、カラーグレーディングは特別なものではなくなりました。

ただ、いくら動画の「色」をいじれるようになったとしても、いくらカラーグレーディングのスキルが上がったとしても、それがどこまで自分の意図した色で、相手に見てもらえるかはわかりません。以下は先日Xでポストしたものです。

ちゃんとカラーをいじる環境もないのに、カラーグレーディングごっごしてもしょうがない、というご意見も出てくるかもしれません。特に映画・放送業界やポスプロでは、ある統一された規格の中で、作業環境と視聴環境を整えカラーグレーディングを行なっていくので、自分らのようなビデオグラファーが自宅のラップトップで色をいじる程度の事は、所詮「ごっこ」に見えてしまうかも。

例えばDaVinci Resolveで言えば、作業時の色と試聴時の色を合わせるためには、純正のI/Oデバイスにクリーンフィード(PC側のカラー管理に影響を受けない映像信号)を送り、意図したターゲット(例えばRec.709やDCI-P3など)にキャリブレーションしたディスプレイで見ながらカラーグレーディングを行い、試聴も同様のターゲットでキャリブレーションされたデバイスで見てもらう、というのが基本かと思います。

ただ多くの場面でそれは理想論で、今となっては多種多様なデバイス・試聴環境で動画は見られています。つまりターゲットはあって無いようなものではないか?

これをポストした後で、あまりになげやりな言い方になってしまったので、あくまで自分の場合ですが、DaVinci Resolveでカラーグレーディングする際、最低限やっていることを紹介します。ただしこれは正解ではありません。あくまで現時点での自分の最適解なので、参考程度でお願いします!

1. PCのディスプレイを定期的にキャリブレーションする

X Lite社 i1 display pro(現在は終盤、現在はCalibrite ColorChecker Display Proに)

自分は主にPC、スマホ、YouTubeの再生を想定しているので、色域はRec.709、ガンマ2.2、ホワイトポイントをD65でキャリブレーションしています。

X Lite社 i1 display proの設定画面

ガンマを2.2にしている理由は、PCやスマホをターゲットにしているためです。ガンマは数字が少ないほど暗部が持ち上がり、数字が大きいほど暗部が締まっていきます。劇場のような暗い試聴環境で見る際、仮にガンマ2.2だと黒が浮いて見えるため2.6くらいが丁度よく、逆にパソコンやスマホといった日中の屋内もしくは屋外の明るい場面で見る場合は、ガンマ2.6だと黒が潰れて見えてしまいます。その間をとったガンマ2.4は家庭用テレビに策定された数値と理解していますが、仮に2.4にキャリブレーションして、そのディスプレイでカラーグレーディングを行なった場合、アップした動画を他の方がガンマ2.2のPCの画面で見た際、色が意図せず明るく薄く見えてしまうのが嫌だったからです。

輝度のターゲットは通常、80〜100cdが多いようですが、現在のパネルで100cdというのはあまりに暗く、自分は概ね120cdくらいで作業している事が多いと判断して、ターゲット輝度を120cdにしています。

色域については、現在iPhoneやMacは、Display P3という、Rec.709より広い色域のディスプレイになっていますが、YouTubeの推奨がRec.709である事や、仮にDisplay P3環境で作業して作成した動画を、誰かがRec.709環境で見た場合、色が褪せたように見える可能性もあると思い、現在はRec.709ターゲットで作業しています。(逆にRec.709環境で作業して、それをiPhoneなどで見た場合、若干色が濃くリッチに見えるのはヨシとします。)

ホワイトポイントについては、D93(9300k)という規格が日本の放送業界では根強いですが、結局、作業環境内が統一されていればどちらでもいいと思っており、自分はグローバルで一般的なD65(6500k)を選択しています。

以上を、ラップトップ(iMac 5K)およびノート(MacBookPro / MacBook Air)のディスプレイすべてに行なっています。

2. タイムラインおよび出力カラースペースをRec.709-Aに

自分はMacのDaVinci Resolveのため、Rec.709-Aに設定。これで書き出した際のカラーシフトを極力避けられます。カラーシフトの原因はMac環境で書き出す際にクリップに埋め込まれるメタタグが原因らしいのですが、詳細については自分が以前参考にさせていただいたogawadan.comさんのページを参考にしてみてください。

DaVinci YRGBの場合
RCMの場合

3. ディスプレイカラープロファイルをビューワーに適用

以前はビューワーLUTを作っていたが、このチェックが機能することで便利に

上記の部分をチェックする事でDaVinci Resolveの作業ビューワーにも、キャリブレーション結果のカラープロファイル(Rec.709 / ガンマ2.2 / D65)が適用されます。逆に言えば、ここのチェックが外れていると、せっかくキャリブレーションしたものはバイパスされてしまいます。
(余談ですが、少し前のバージョンはこのチェックが微妙な感じだったのですが、ここ最近のバージョンはちゃんと効いているようです。)

以上で自分が普段から設定している事は終わりです。

ビューワーと書き出したクリップの色味は完璧に揃っている。
YouTubeでは場面によりほんの少し彩度が落ちた感を受ける

結局は統一された環境で見られることはない

どう頑張っても、デバイスが多岐にわたる今となっては、同じ環境で見られることはほぼ皆無です。しかしながらどこかに基準は設けなければならず、それは良くも悪くも個人に委ねられる時代かと自分は思っています。

これが仮に、出荷されるデバイスのディスプレイ全てがDisplay P3で、ガンマ2.2、ホワイトポイントD65で統一され、定期的にハードウェアキャリブレーションされ、同じ環境下で輝度120cdで見ていただけるのであれば、「意図した色でみていただけた」というものが実現するでしょう。でも現実はそうはいきません。

その都度、その時々で周りの人が使っているデバイスを見ながら自分の中で最適解をさぐり、カラーグレーディングをして書き出すしかありません。

1.で行ったモニターキャリブレーションは、せめて自分の環境下では、他のデバイスでも統一した見え方をさせるためのものです。また、現在多くの方が、その色域、そのガンマ値、その環境下で見ているだろう設定を基準に決めています。(Rec.709 / ガンマ2.2 / D65 / 120cd)数年後はこれをDisplay P3にしているかもしれません。

2.や3.で行ったDaVinci Reolve上の設定は、作業している時の色味と、書き出した時の色味を一致させるためのものです。極論言えば、これは1.のキャリブレーションをしなかったとしても、「作業時の色と書き出し時の色を一致させる」という観点では問題ありません。それは、自分だけの環境で、自分が見る分には色が一致しているからです。ただそれを他のPCやデバイスで見る際、また他人が見る際、大幅にズレてくることが予想されます。

かといって、1.のキャリブレーションをしたとしても、他の環境で色が統一されるのを保証することはできません。自分がここで見せたい、というターゲットをねらって、概ねそこからプラスマイナスのズレを許容する、という意味での「基準」な訳です。

とはいえ人は相対値で色や明るさを見れるもの。ある一定の基準で作られた制作物が、ターゲットと大きくズレていなければ、そこから少しプラマイがあったとしても、おおむね意図通りの色の方向(演色)は見せられると思っています。

ソフトウェアキャリブレーションの弊害

自分はディスプレイ一体型PC(iMacやMacBookProなどのノート)でグレーディングを行なっているので、どうしてもソフトウェアキャリブレーションになります。これには残念な部分もあり、カンタンに言えばキャリブレーションしたあとの結果をLUTのようなもので補正しているだけなので、時にバンディングやノイズが見られます。「12bit RAWや10bit Logで作業したのに、書き出した映像を見ると、なぜかノイズが酷い?」という状態。試しにディスプレイ設定でデフォルトのカラープロファイルに戻すと、嘘のように綺麗になる事があります。この特徴を知らないと「デノイズしなかったか?自分のグレーディングが極端だったのか?」と勘違いするので、もしそのような場面に遭遇したら、一旦Macのカラープロファイルを探ってみてください。理想はやはりハードウェアキャリブレーションが可能なディスプレイで作業する事です。

さて、自分もまだ探り探りですし、多分に間違った理解もあると思います。もし「自分はこうやっている」「それは理解が違う」「こうすると良いよ」というようなものがあればコメント等で教えていただければ嬉しいです!今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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