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08 大徳寺玉林院の蓑庵

京都の左官建築家・森田一弥さんが、トウキョウの建築家・塚本由晴さんを案内する『京都土壁案内』(学芸出版社)。
歴史や様式だけじゃない、多様な表情をみせる土壁の魅力が満載です!
2日にわたる、京都での取材の模様をレポートします。

訪れる人

塚本由晴さん
建築家。アトリエ・ワン主宰
東京工業大学大学院准教授(当時)

案内する人

森田一弥さん
建築家+左官職人
森田一弥建築設計事務所主宰

前回のようす


さて、2日目。出町柳駅で待ち合わせです。
少し遅れて塚本さんの到着です。今日は志津屋で朝パンをご購入。
さっそく大徳寺に向かいます。

大徳寺は禅宗(臨済宗)の大本山で、境内にはたくさんの塔頭がひっそりと点在しています。
いくつかの塔頭は一般公開されていますし、素晴しいもたくさんあるので、京都にお越しの際はぜひ訪れてほしい場所です。
茶道とのゆかりも深く、有名な茶室もたくさんあります。そのうちの一つ玉林院の蓑庵を見せていただきます(普段は非公開です)。
玉林院の隣には、公道から見ることのできる面白い瓦塀があります。

いろんなかたちの瓦を埋め込んだ塀。
ここ以外にも、大徳寺のまわりにはいくつか見ることができます。

東本願寺の直線的な瓦とは一味違って、波型や丸型など、様々な造形がリズミカルに配置されています。
ここは比較的新しい壁ですが、瓦の利用は京都の寺院やお庭ではよく見かけます。デザインとリサイクル、両方の意味をもつものでしょうか。
さて、玉林院を拝見します。ここの本堂は、大徳寺の塔頭のなかでも最も規模が大きいそうです。
庭園を望みながら大きな縁側を廻り込んだ北側に南明庵があり、牌堂を挟んで2つの茶室(蓑庵と霞床席)があります。

蓑庵の外側にも長すさを混ぜ込んだ壁が見られます。
こちらは少し時代が新しく、改修時のものだそうです。

楽焼の敷瓦となぐり仕上げの柱。

素焼きの敷瓦は楽焼(贅沢!)だそうで、赤いテラコッタのような色合いなのですが、一枚一枚が微妙に違う色で、何とも良い味わいです。牌堂の火頭窓となぐり仕上げの栗の柱から、山野の風情が感じられます。

蓑庵は如心斎好みの三畳中板台目切りの茶室です。ほんのり赤い色土の壁には、長い藁すさが浮かび上がっています。これが蓑のようで、蓑庵と名づけられたそうです。この左官の技術は今では復元不可能で、内部は江戸時代の創建当時のままだそう。

茶室内部に入れていただきました。小さい空間に佇むと、外の音が鮮明に聞こえ、次第に様々な色が見えてきます。ここは北西に窓を持っており、赤い壁は夕刻にはますます赤く、夕日のようになるそうです。
障子越しの光が、外のお庭の緑、太陽の光を反射してか、緑やピンク色を帯ています。こんなに微妙な色合いに敏感になれるのは、茶室という空間がもつ力なのかもしれません。

内部の撮影は、塚本さんにだけ許され、我々は外で待ちました。しかし、一向に出てくる気配がありません。そしてようやく出てこられた時には「空間と一体となって撮影ができた」と興奮気味の塚本さん。
内部の写真は、『京都土壁案内』にて。

ほんとうにここは素晴しい。マイベスト茶室になりました!
ついでに…境内横の紫野和久傳(料亭)は岸和郎さんの設計で、一見の価値ありです。

(第9回に続く)

京都土壁案内

塚本由晴・森田一弥 著

寺社や茶室はもとより、お茶屋や洋館、蔵や土塀まで、時を経て町に滲み出た土壁の魅力を紐解き、巡る、今日の京都の建築・街歩きガイド。京都の若手建築家で左官職人でもある森田一弥の案内は初心者にも優しく、塚本由晴(アトリエ・ワン)の撮り下ろし写真は町の日常に潜む土壁の迫力を見事に切り取った。素人も愛好家も必見。

詳細|https://goo.gl/eK3Z3S
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