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釣竿のこと

「この20年で変らなかったのは、本への思い入れを読者に伝えようとし続けた書店員たちの存在である。彼ら、彼女たちがこれからも書店を支え続けるのである。・・・」 学芸出版社営業部の名物社員・藤原がお送りする、本と書店をめぐる四方山話。

書店がとてつもなく大型化して、社会科学、法律経済、人文科学、理工学、医学というような専門書の棚を持つ書店が増えた。
しかし本は置いておけば売れるものではなく、やがて「棚効率を考えると専門書は・・・」、という書店が出現する。
書店の厳しい経営状況から言うと極力商品回転率を高めて収益を出す方向に向かわざるを得ないのである。

では回転率のよい商品とは何か。一般書、文芸、実用書、文庫、新書、そんなもんか? では1000坪の書店にこれらを並べると、専門書を置いているより売上げは上がるのか? 

恐らく下がるというのが僕の意見だ。
そもそも専門書とは何だろう。それは釣竿に似ている。釣りをしない人には分かりにくいだろうが、釣竿は釣る魚や釣り方、海か川かですべて違うのである。
フナや鮎を釣るのに投げ竿は要らない。フナと鮎では竿の長さが違うなどである。フナ釣り竿でも竿先が柔らかいものや硬いものがある。必要な時に必要な竿があるのである。

つまり必要でない時には必要でない竿があるということだ。専門書に似ているというのはこのことだ。必要な人には何に替えても必要だが、必要でない人にはまったく役に立たない。

こうした専門性の高いモノは売れにくいものである。必要としている人の数が少ないからである。だから値段が高いものが多い。よって一年間売れない二年でも売れないというものが出現する。
これを排除して売上げを上げようとして実用書と差し替えても、その中で売れないものも出現するのである。

専門書を売るということは釣りをするようなものである。
仕掛け(棚)をしっかり作り、魚(客)が寄って来るのを待つ。反応がなければ仕掛けを変える。そんなことをしながら気長に待つ。そして至福の時間が訪れる。
これが釣りである。残念ながら、魚がいないところに仕掛けを投げても魚は釣れないのだけども。

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