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社員が自ら動きたくなる、ビジョンのつくり方

ここ数年、ビジョンを新しくつくり直すという動きが増えています。例えば、創業時につくられた言葉が今の市場環境とは異なっていたり、社員の方々から見て共感できない、響きづらいために「ビジョンを作り直したい」という背景があるようです。

ビジョンは、「社員のみなさんに主体的に動いてほしい」「部署の枠を越えて連携してほしい」「新しい能力を獲得して欲しい」といった行動変容を少なからず期待して掲げられることが多いです。

一方で、ビジョンを作り直し、全社員へ向けて周知!...したものの、何の反応もなく、うんともすんとも言わないことも。

一体どのようにすれば、社員が動き出したくなるビジョンをつくれるのでしょうか。

今回、そんな問いについて考えるオンライン研修「社員が自ら動きたくなる、ビジョンのつくり方」を開催。そもそもビジョンとは何か、つくることのメリットは、そして、ビジョンづくりは何よりその“プロセス”が大切と伝えられた研修の様子をレポートします。

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どこに行くかがビジョン、なぜ行くかがミッション。

丸毛:ビジョンづくりのタイミングとして、この表に書かれた9つがきっかけとなることが多くあります。

20201111_社員が自ら動きたくなる、ビジョンのつくり方

丸毛:人材採用での苦戦、組織の強化や活性化といった基盤のつくり直し、そして今まさに新型コロナウイルスの影響が連日トップニュースにくる世界情勢ですが、そういった社会的な価値観を揺るがすような出来事が起きる、あるいは、周年や合併・統合などで一人一人のヤル気やモチベーションを上げたい、というあたりが挙げられるかと思います。

ところで改めて確認しておきたいのは、そもそもビジョン、そしてそこに欠かせないミッションとは一体何なのか。意外と認識がズレがちな言葉の意味を、「Where(どこに行くか)」「Why(なぜ行くか)」で整理しています。

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丸毛:ビジョンというのは、これから実現したい未来の状態で、ミッションは、存在理由や存在目的です。英語に直してみると、ビジョンは Where do we go? 「どこに行きますか?」という目指す方向や場所を示している言葉で、それに対してミッションは、Why do we go?「なぜそこに行くのですか?」ということを示している言葉です。

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丸毛:さらにビジョンは、未来のスナップ写真や映像のイメージです。「こういう社会になっていたらいいな」「こんな地域になったらいいな」という実現したい未来を描いたものがビジョンで、そこに向かう矢印がミッションと位置づけられます。

ビジョンはスパン(期限)で考えられることもあり、3年後、10年後、100年後、自分たちの組織や事業フェーズから考えて最適な期限を見据え、その時に実現していたい状態を言葉にしてつくられます。

ですので、ビジョンは途中で変わることがありますが、理由や目的であるミッションは変わらないことも多いです。

ビジョンがあれば、人の思考や行動が変わる

ビジョンがあることで、経営や仕事の現場にどのようなメリットがあるのでしょうか。イソップ童話にある3人のレンガ積み職人の話を例に、話は続きます。

丸毛:ある旅人が、レンガを積んでいる3人の職人に「あなたは今、何をしているのですか?」と聞きました。

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丸毛:1人目に聞いた職人は、「見たら分かるだろう。俺はレンガを積んでいるんだ。」
2人目に聞いた職人は、「俺は壁を作っているんだ。この仕事のおかげで家族を養えるからね。」
3人目に聞いた職人は、「俺は歴史に残る大聖堂を造っているんだ。」
と。この童話から気づかされることは、同じ作業をしていても一人一人の仕事に対する捉え方や目的に違いがあることです。

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丸毛:作業があって、目的があって、意義がある。1人目の職人は、上司に言われたからレンガを積んでいる。2人目は、家族を養うという一定の目的が感じられる。3人目の職人は、大聖堂を造るという目的に向け、やりがいをもって取り組んでいる。目の前の仕事の積み重ねが、どんなビジョンにつながるか。そのイメージがあり、能動的に取り組んでいる様子が想像できます。

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丸毛:逆にビジョンが無い場合、自分の取り組んでいる仕事や活動の意味が分かりません。意味や目的は分からないけど、とりあえず報酬を貰いたいから、言われたことだけをやって早く終わらせて帰りたい、と。

3人目の職人のように目的や意義をもつと、例えば雨の日は湿気が多いから今日はレンガを積む作業を一旦止めて、別の作業を進めようなどの判断ができ、今なにをすべきか先を見据えた行動や考え方が生まれてきます。

続いて藤吉にバトンが渡り、「そもそもビジョンは、何をもって“伝わった”と言えるのか」「どうしてビジョンをつくるプロセスが大切なのか」に話は続いていきます。

“教え込む”では、ビジョンは伝わらない

藤吉:ビジョンをつくる際、「もっと社員のみなさんに、自分の頭で考えて行動してほしい」、「保守的だったけどもう少し新しい取り組みにチャレンジしてほしい」、そんな行動変容、つまり、これまでと違う仕事のやり方を学んで欲しい、という期待があるのではないでしょうか。

だとすれば、価値観や信念を言葉にしたビジョンを伝えたところで、「はい!分かりました!」と理解され、行動が変わるかというと、難しい。

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藤吉:例えば、「我社のビジョンは“豊かな暮らしをすべての人へ”です」と伝えたとき、おおよその意味は汲み取って「はい」と返事があっても、内心は、「豊かな暮らしってなんだろう?」「忙しくて考える余裕がない」「そもそも...」と、疑問・不安・期待、色んな感情があるはずです。

「テーブルの上にあがらないような、思っている考えや感情と向き合うことが大切なのではないか」と、話は続きます。

藤吉:名刺の渡し方やプレゼンテーションの方法のような内容は、「名刺はこうやって渡すんだよ」、「プレゼンの手順とポイントはここで」と教え込むことで行動が変わることが期待できます。

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藤吉:ただ、ビジョンやミッションのような言葉を伝えるときはどうでしょうか。同じように教えこんで、いくら復唱ができるようになったとしても、伝わったと言えるでしょうか。

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藤吉:このやり取りで抜け落ちているのは、腑に落ちるという体験です。

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「豊かな暮らしの実現について、以前、お客さんとこんな会話があって」
「こんな提案が、豊かな暮らしに繋がると思うんです」
「まずは自分たちから、豊かな暮らしの体感が大切ではないですか?」
「昔、こんな経験があってね...」と、自分の言葉で経験を語る。冒頭のスライドでは心のなかにしまってあった言葉や思いをテーブルの上に出す、そんな対話を重ねることの結果、ビジョンの意味が腑に落ちて行動の変化が期待できるのではないでしょうか。

ビジョンづくりは「言葉をどうまとめるか」に焦点が当たりがちですが、社員の行動変容への期待もあるからこそ、腑に落ち、行動が変わるために、ビジョンづくりの過程へ関わってもらうことが大切だといいます。

社員が自ら動きたくなる、巻き込み型のビジョンづくり

では、ビジョンは具体的にどのようにつくっていくといいのか。ビジョンづくりで陥りがちな失敗から、抑えたいポイントや手順が紹介されました。

丸毛:ビジョンをつくる時に起こりがちなのが3つあります。1つ目が作り方で、トップダウンに偏りすぎると納得感が生まれづらく、「上の人が、本社がつくったんですよね。私は知らないです」と他人事のようになってしまう。一方で社員の声を聞いてボトムアップにやりすぎると、目線が現場寄りになり目の前の問題解決に着地しがちです。適切な手順と内容で、両者のバランスを取りながら進めることが大切です。

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2つ目は、会社の上下関係を気にして意見が言えない、噛み合わないために話しが前に進まないというものです。お互い様子見で表層的な話し合いになってしまうため、中立的な存在として、お互いが思ったことを言い合える関係をつくるための進行役、外部のファシリテーターへ依頼することも選択肢の一つです。

最後に3つ目は、つくるだけで終わり、現場で活かされないことです。つくること自体が目的化することを避けるために、いかに初めから運用まで見据えて考えていくか、ということを僕たちも関わるときには大切にしています。

以上の点を念頭に、ビジョンづくりは「設計フェーズ」「実装/運用フェーズ」に分けて進行していきます。

丸毛:ビジョンづくりでは、設計フェーズと実装/運用フェーズに分けて考えることができます。設計フェーズで大切なのは、言葉をつくる前段階の準備や関係構築です。

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この会社にはどんな人がいるのか。関係者はどんな人たちか。どんな沿革を経て今があるのか。会社が目指す理想や課題は何か?を見つけていきます。

また、そもそも人間関係の土台が無い中でビジョンをつくろうにも、忖度しあって当たり障りのない言葉になってしまう。ですので、「なぜこの会社で働いていて、これからどんなことをしていきたいか」をペアインタビューをしたり、立場や上下関係を越えて話すことができる土台・土壌づくりを行っていきます。

本音で話し合い、生まれた言葉を具体化し、「ビジョンに向かうために何をするか?何をやらないか?」という戦略の段階まで落とし込んで、設計フェーズは終了です。

続いて、つくったビジョンを「どのように」運用していくか。4つのポイントで紹介されました。

健康診断のように、定点観測しながら進めていく

藤吉:まず1つ目は、ビジョンやミッションが見えるよう可視化すること。ポスターや名刺サイズのカードなども有効なツールとして活用できるかと思います。また「ビジョンが認知・理解されている」状態は、客観的に判断しづらいため、アンケートなどによって認知・理解度を定点観測するという意味での“可視化”がはじめのポイントです。

2つ目は、ビジョンやミッションに基づいた行動を決めること。そして3つ目は、ビジョンに基づいた行動をしっかり評価することです。例えば、行動指針でチャレンジを推奨していて、ある社員が過去にないチャレンジをして失敗をしたとき。

失敗したことを批判されたり、陰口を言われるようなら、きっとチャレンジした本人はもう二度と前例の無いことはやるまいと考えるでしょう。もちろん、失敗を振り返り学び・改善する必要はありますが、ビジョンや行動指針に基づいたチャレンジであれば評価し、成長に向けた支援をできるかどうかが、ビジョンや行動指針が根付いていくかを左右します。

最後に、環境設定。評価・報酬制度、表彰などへビジョンの内容を取り入れていきます。

可視化は「健康診断のようなもの」だとして、最初から完璧を目指すのではなく、やりながら定点観測し、自社に合う方法を見出していくことが大切だといいます。

レクチャーのあとは「ビジョンづくりの導入部分を体験するミニワーク」を実施。まずは「身の回りの問題意識や課題」を書き出し、そのあとに「その課題が全て解決された状態」を絵に書くという内容で進みました。

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いきなり「ビジョンはなんですか?」と問われると答えに窮してしまいますが、問いの順番、また絵にして説明する工夫があることで、どんな意味を込めたいか、思いがあるのか、を掘り起こすことができるそうです。

ビジョンは、「どこに行くか」、何年後かの未来を考えること。ビジョンがあることで目的や日々の仕事に向き合う姿勢・意味付けが変わります。「社員が自ら動きたくなる」ためのポイントはビジョンをつくる過程である、そのプロセス。つくるだけで終わらずに、会社、そして社員一人ひとりのために活かされる。そんな「活かされるビジョン」が生まれてほしいと感じる研修でした。

丸毛 幸太郎
2012年からファシリテーションをベースにした「人と人の関係づくり」に取り組む。2017年から、まちづくり、教育、福祉、など様々な分野で、プロジェクトデザインや伴走支援、ファシリテーション等による「コミュニティの力を活かした社会課題の解決」に取り組む。2020年 NPO法人学生人材バンクに合流。「集えない時代のコミュニティデザイン」をテーマに、オンラインでの、研修やワークショップ、プロジェクトに取り組む。 

藤吉 航介
外資製薬メーカー、保育系NPO施設管理、就業支援/企業支援NPOでは300社を超える企業の採用/組織づくりを担当。2019年に鳥取へIターン。若手から中堅社員向けのビジネス基礎、リーダーシップ開発研修の企画運営、人事制度設計、広報など小さな組織の人事領域に伴走しています。

弊社では、約20年にわたる地域・企業支援の実践と理論をベースに、実務に活きる研修や採用・組織コンサルティング、外部人材の活用支援(インターンシップ・兼業人材)などのサービスを提供しています。お問い合わせ・ご相談は下記よりお気軽にお寄せください。


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