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ヘタだよ

ナスとの出会いは正直覚えていない。それほど昔から君はそばにいてくれたよね。
私の両親は君のことを好いていたから、家に招いてよく一緒に食事をしたね。母に飾られた君を見て父はいつも笑顔だった。私たち家族の中心にいて、そっと佇んでいたよね。私たちはいつも君のことを話していたんだ。父は一緒に暮らそうなんてベランダを整理していたけど、養う家族が増えるって責任の重さを感じてやめてしまったんだ。

私はそれに安心した。私は君のことが好きじゃなかったんだ。もちろん君のせいではなくって、おそらく嫉妬していたんだと思う。よそ者なのに、なんであんなに愛されてるのかって。

思春期になったとき、私は露骨に君を嫌った。母が君を連れてきたとき、本当は匂いなんて分からなかったけど、臭いから帰ってと言った。今、そのことを謝罪の言葉もないほどに反省しているよ。その時につけた傷は一生消えるはずがないよね。だけど君は、そのおかげでポリフェノールが増えて美しくなったって、私を慰めてくれたよね。なんだかずるいな。許されてばっかりで私は辛くなる。

成長期になればブランドを欲しがって、他よりも魅力的なんて主張したがるんだけど、君はいつも質素で小さかった。私たち家族にもっとお金があったらて思うけど、君は常に身の丈でいいって謙虚だった。当時の私は君のその慎ましい姿を向上心のない奴と決めつけて、口も聞かず、口に運ばずひどく拒絶したよね。結局、

甘えてばかりの私の考えは、自分で甘くなろうとする君には到底追いつけないんだな。

6月も近づくに連れて、豊満で張りのある身体になろうとしてたの知っていたよ。
人知れず努力する君の姿は今でも印象に残っている。君の境遇が良ければ、たくさんの資本を使われて身に付けるものも選定されて、君はもっと美しかったって確信しているんだ。だけど、勝ち誇ったように質量を自慢する嫌味が含まれずにすんだからよかったって君はいつも肯定的に解釈するんだ。生まれは選べないけど、生き方は選べるってことだよね。その君の慎ましさはお金では得られない。

腐らず前向きに育つことの大切さは君が教えてくれたんだよ。

若かさなんてのは言い訳に過ぎないんだ。君は私より、ずいぶん若かった。
悟ったように自分の宿命を受け入れて、環境に文句も言わず、ひたすらに日々を励み、様々な物を吸収する。それは私の理想の生き方だった。

だけど、数年前から君のことを忘れていた。一人暮らしをしてから生活に必死になっていたんだ。それは言い訳に過ぎないんだけど。

久しぶりに街で君を見つけた時、君は他の人の物だった。わかっていたけど、なんだか悲しくなったんだ。馴れ馴れしいなんて思うかも知れないけど、僕の中にずっと君はいたんだ。

だから僕は金の権力を使った。

汚いやり方かも知れないけど、それしか君を取り戻す方法はなかった。それほどまでに君を家に連れてきたかったんだってことをわかってほしい。歪んだ愛と言われても構わない。僕はもう君を離したくないんだ。


今ここで一緒に。いや、君の最後が僕で、僕にとって最初が君で。


覚悟はしていたんだけど包丁って重いんだね。


まだ君に突きつけてもないのに手が震えてしまう。


このまま外に逃げ出してしまえば、僕はつかまってしまう。そんな弱い僕を何も言わず待っててくれるなんてずるいな。君の生活はもう終わるんだよ。


いや違う、君は僕と一緒になるんだ。


苦しまないように早くするね。頭から切るよ。





僕は臆病だから頭を一息に切られなかった。

頭が痛くて苦しかったよね、ごめんね。

ああ、ヘタだったね。

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