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声劇台本「彷徨う夜叉」

魂をかけた女の復讐劇。

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声劇データ

✓上演時間 15分程度
✓上演人数:女性2名
✓ジャンル:時代劇 / シリアス

あらすじ

――江戸時代。
ある夜、恋人の佐平次を何者かにより殺害された如月は、その遺体を抱えながら泣き喚き、復讐を誓う。そこに1人の美しい鬼が現れる。鬼は深い恨みを持った人間の前だけに現れ、その魂と引き換えに恨みを晴らすのに必要なだけの力を与えてくれるという。鬼と契約した人間は、人間としての魂は奪われ、鬼として生きることとなる。
如月は、すぐさま鬼と契約しようとするが、鬼はまず、恨みを晴らす相手を明確にする必要があると言い、特殊能力を使い佐平次の本来の姿を暴いていく。

そこで知らされた驚愕の事実の数々に、如月は絶望する。そして、佐平治を殺したのは他の誰でもない、目の前にいる鬼だった。如月は、この鬼を殺して鬼となるかどうかの決断に迫られる。

登場人物

・如月(きさらぎ)
小料理屋で働く兆人の娘。佐平治の許嫁。佐平治の自分たちのお店(おたな)を持ちたいという夢を叶えるため、必死に働き借金をしてまで佐平治に金を渡す。

・夜叉(やしゃ=鬼/柚月 ゆづき)
如月の復習に力を貸すと提案する鬼。その実、自分自身が佐平次に騙され、その恨みを晴らすため、鬼と契約し佐平次を殺害した。如月には、自分と同じようになってほしくないと願っている。

・佐平次(さへいじ/死体)
幾人もの女と遊び、金を騙し取る悪人。妻子あり。かつで刃傷沙汰を起こして島流しにされていたことがある。その証拠に腕に墨が入っている。

声劇台本「彷徨う夜叉」

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如月:「あぁ! 佐平次さま!! ど、どうか、息をしてくださいまし! 佐平次さま……!! ……この傷は、何者かによって刺されたもの……あなたさまを殺した人間を必ずや暴き出し、私がその恨みを晴らします」

夜叉:「それは本当かい? あんたがその気なら助けてやれないこともないけど」

如月:「……あなたは、だれ、ど、どこから……いや、その形相は……もしや、鬼……?」

夜叉:「そうさ、あたしは鬼、夜叉、なんて呼ばれてるもんだよ。あんたがその男の復讐をするというのなら、私の力を授けてやろう」

如月:「それは、本当にございますか?」

夜叉:「あぁ。だけどタダってわけにはいかないよ?」

如月:「どうすればよいのですか? 生憎ですが、私はお金は持っておりません」

夜叉:「金なんていうのは人間界でのみ価値があるものさ。鬼にとっては、どうでもいい。あたしが欲しいのは、あんたの魂だよ」

如月:「私の魂……?」

夜叉:「そう。あんたの人間としての魂だ。それをあたしにくれるっていうなら、復讐に力を貸してやる」

如月:「私は死ぬのでございましょうか?」

夜叉:「まぁ、世間的にはそういうことになるかね。だけど、実際は、あんたは鬼になるんだ」

如月:「……お、に」

夜叉:「あたしら鬼や夜叉って呼ばれる者はねぇ、強い恨みを持つ人間にしか見えない存在なんだよ。そして、その恨みを持つやつを助けてやって、代わりにそいつの魂をいただく。いただいた魂が清いものであればあるほど、地獄へ近づけるのさ」

如月:「……じ、ご、く」

夜叉:「あぁ。あたしらが鬼だの夜叉だのという業から逃れ、この世を彷徨う時間を終わりにするただ一つの方法は、地獄へ行くことなのさ」

如月:「なんでも構いません! 佐平次さまの恨みを晴らすためには、私は鬼でも夜叉でも何にでもなります」

夜叉:「まぁ、そう焦りなさんな。まず、お前、名はなんと?」

如月:「如月といいます」

夜叉:「そうかい。良い名だね」

如月:「……」

夜叉:「分かったよ。それで? この佐平次って奴を殺した奴を知ってるのかい?」

如月:「いえ、存じません。夜、私が奉公を終えて、いつも佐平次さまが待っててくださるこの寺に来てみたら、すでにこのお姿に……」

夜叉:「そうかい。じゃあ、まず、こいつの正体を暴いていこうじゃないか」

如月:「正体、でございますか?」

夜叉:「あぁ。人間、殺されるっていうからには、何かしらの訳ってもんがある。それが、どんなに下らないことであってもね。そいつをちょっと、拝ませていただくんだよ。なーに、あたしがちょっと死体に触れりゃあ、そういうことは全部見えるんだ」

如月:「佐平次さまは人の恨みを買うようなお方ではありません! きっと人違いか、そうでなければ、辻斬りにでもあったに違いありません」

夜叉:「そいつは分からないよ。どれ? ちょっと失礼して……。あんた、如月って言ったっけ?」

如月:「はい、そうでございますが」

夜叉:「この男に金を貸していたんじゃないかい?」

如月:「……いえ、そのようなことはございません」

夜叉:「本当かい? あんたがこの男にお金を渡している姿が見えるんだが」

如月:「それは……いつか夫婦(めおと)になり、共に商いをするという夢を叶えるためのお金にございます。佐平次さまが蓄えてくださっているのです」

夜叉:「そのために、あんたのおとっつぁんやおっかさん、友達なんかからもお金を借りてるんじゃないかい?」

如月:「はい。佐平次さまは、腕のいい板前でして。私たちは夫婦になったら、小料理屋をやりたいと思っております。それで店に使う道具だとかが安値で手に入るなんて話しがありましたときに、借りて支払いをしているだけで……夫婦になれば、すぐに返せるものでございます」

夜叉:「じゃあ聞くけどさ。如月、あんた、その道具を見たことはあるのかい?」

如月:「いえ、それはございませんが……佐平次さまのお見立てに間違いがあるはずはございませんので」

夜叉:「そうかい。そんなら、さすがに佐平次の店には行ったことあるんだろうね?」

如月:「いえ、それもございません。佐平次さまのお店はお代官様たちがご利用されるような敷居の高いところ……私のようなものには、とてもとても足を踏み入れることなんてできません」

夜叉:「なるほどねぇ。こいつはそうやって、あんたを騙していたんだね」

如月:「……?! 私が、騙されていた……?! 何を言っているのでございますか? いくら鬼だからといって、佐平次さまを悪く言うなんて」

夜叉:「こいつは、ただの遊び人だよ。あんたみたいな垢抜けない娘に声かけてさ、口八丁手八丁で騙して金を巻き上げてんだよ。それも被害にあったのは、あんた一人じゃない。今軽く見ただけでも、10人は居るねぇ、これは」

如月:「そんなはずは……いい加減なことを言わないでください」

夜叉:「じゃあ、そいつの腕をよーく見てごらん? ほーら、ここ」

如月:「これは……」

夜叉:「墨が入ってんだろ?」

如月:「……」

夜叉:「こいつは昔、人を殺したことがある。そんで島流しになってたんだよ。そんなやつが、お代官のくるような店で働けるかい? ちょっと考えれば分かるだろう」

如月:「そ、そんな……佐平次さまのようなお優しい方が人を殺めるなんて……何かの間違いでございます! この墨だって、痣か何かかも……」

夜叉:「こいつはね、くっだらないもめ事で幼なじみの源吉って男を殺しちまったんだよ。そうさねぇ、あれは10年以上前だよ。しっかし、人の亭主殺しておいて、10年で島から帰ってこられるなんておかしくないかい?」

如月:「今……なんて? 亭主?」

夜叉:「そうだよ! こいつは10年前にあたしの亭主を殺したんだよ。なのに大手を振るって江戸の街歩いてやがる。その上、あっちこっちの娘を騙して…あたしは、こいつだけは許さないって思ったね」

如月:「ま、まさか……佐平次さまを殺めたのは……」

夜叉:「そうだよ、あたしだよ。こいつが島から帰ってきて、若い女と歩いているのを偶然見かけちまってねぇ。怒りが膨れ上がったところへ鬼が現れた。それで、あたしは決めたんだよ。鬼に魂売っててでも、亭主の敵を取ろうってね」

如月:「……それは」

夜叉:「あんた、どうする? そいつの敵とりたいなら、これで私を殺しな。ただし、鬼を殺した人間は、鬼になる。その覚悟はあんのかい?」

如月:「……そんな、そんなことって……私は……」

夜叉:「生きるでも死ぬでもなく、この世を彷徨う。私はまだ鬼になってから日が浅いが、この苦悩がウン百ウン千年って続くかと思うと、嫌になっちまうよ。でもさ、これを簡単に終わらせる方法がひとつだけあるんだよ」

如月:「……えっ?」

夜叉:「あたしに恨みを持つやつに殺される。そうすりゃ、あたしは地獄に行くことが出来るのさ。だからさぁ、とっとと私を殺しておくれよ?」

如月:「そんな……わ、私には、そんなこと……」

夜叉:「出来やしないかい? あんたの許嫁を殺した相手が目の前に居るんだよ? あたしならやるけどねぇ」

如月:「でも、佐平次さまはあなたのご主人を殺めたのでございましょう? あなたの怒りは痛いほどに分かります。それに、佐平次さまは、私を騙して……」

夜叉:「おやおや、鬼の言うことを信じるのかい? 馬鹿な娘だねぇ。だから佐平次なんかに狙われるんだよ。挙句、鬼にも目を付けられる。ここはたまたまあんたと因縁があるあたしが出てきたからいいものの、そこら中に居る悪い鬼どもに見つかったら、すぐに魂抜かれちまうよ。そんぐらい、あんたは綺麗な魂を持ってる」

如月:「えっ……?」

夜叉:「今は考えられないかもしれないがねぇ、あんたなら、これからいくらでもいい男が見つかるさ。だからね、そんな馬鹿のために、鬼になんかなっちゃいけないよ? そいつのせいで鬼になるのは、あたしひとりで十分だよ」

如月:「あなたは、まさか……私が鬼にならないようにと、出てきてくださったのですか?」

夜叉:「そいつぁどうかねぇ。あたしにもよく分からないんだよ。まぁ、このままあんたが私を殺してくれりゃぁ助かるけれども、そんなろくでもない男のために、あんたを鬼できるほど、あたしは鬼になれなかったみたいだね」

如月:「……ありがとうございます」

夜叉:「鬼に礼なんて必要ないさ。それじゃ、あたしはまた、いい魂探して彷徨うかねぇ」

如月:「ま、待ってくださ! せ、せめて、あなたのお名前を……」

夜叉:「そんなもん聞いてどうすんだい?」

如月:「……恩人ですから」

夜叉:「あたしの名は……柚月っていうんだ」

如月:「いいお名前ですね」

夜叉:「からかってんのかい? あたしの名前なんて、明日の月が出るころには忘れてんだろ」

如月:「いえ、月が出る度に思い出します」

夜叉:「辞めとくれよ、気持ち悪い。そういう言葉はあたしみたいな鬼にかけるんじゃなくて、いい男にかけるんだよ」

如月:「……ありがとうございます」

夜叉:「じゃあね。もう二度と殺したくなるほど人を恨むんじゃないよ。二度と、鬼になんか会っちゃいけない。分かったかい?」

如月:「……はい」

夜叉:「それじゃ、達者でね」

END.


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