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『だるまちゃんとてんぐちゃん』にみる、人のものを欲しがる心理

『だるまちゃんとてんぐちゃん』
作・絵 かこさとし
出版社 福音館書店
<あらすじ>
だるまちゃんは友だちのてんぐちゃんの持っているものを何でも欲しがります。てんぐのうちわや素敵な履物、なんとしまいには鼻まで。お父さんのだるまどんは思いつく限りの物を集めてきますが、だるまちゃんのお気に入りはいつも意外なところに……。だるまちゃんとだるまどんはどんなアイデアを思いついたでしょう? ユーモアあふれる物語と楽しいものづくしの絵本。大人気「だるまちゃん」シリーズの第1作です。

福音館書店HPより

子どもたちが幼い頃は、何度も寝る前の読み聞かせで登場した絵本の一冊です。
また、幼稚園や小学校での読み聞かせでも、子どもたちには人気の高い作品でした。
でも私自身は読むたびに心に引っかかるものがあって、子どもたちはどういいう気持ちでこの絵本を楽しんでいるのだろう?と思う時がありました。
何しろ主人公のだるまちゃんは、友だちのてんぐちゃんが持っているものを何でも欲しがるのです。
そして父親のだるまどんに「てんぐちゃんのような、うちわがほしいよう」とねだるのです。
だるまどんはそんなだるまちゃんの願いをなんとか叶えようと、家じゅうのうちわをかき集め、部屋いっぱいに並べてくれます。
他にもてんぐちゃんの帽子や下駄、長い鼻までも欲しがります。
その都度だるまどんは嫌な顔をせず、家の中からだるまちゃんが欲しがるものを並べて、好きなものを選べるようにしてくれるのです。
この何でも人のものを欲しがる心理と、それを叶えようとひたすら奮闘する父親の甘やかしとも思える状態に、どうしても「う~ん」と考え込んでしまうのです。
そこで、てんぐちゃんの持っているものを、何でも欲しがるだるまちゃんの心理を考えてみることにしました。

一つ目は、てんぐちゃんに対する憧れや、大好きなてんぐちゃんと同じものを持つことで得られる共感性があると思います。また、大好きなてんぐちゃんの真似をすることで仲良くなりたい、てんぐちゃんに好かれたいという気持ちの表れなのかもしれません。

二つ目に、てんぐちゃんに対して劣等感があり、ライバル心や負けたくないという気持ちから同じものやそれ以上高価なものを持つことで、優位に立ちたいという気持ちが潜在的にあるということも考えられますが、この絵本の場合は当てはまらないですね。

三つ目、自分に自信がなく、大好きなてんぐちゃんが持っているものと同じものを持つことで自己肯定感を持つことができます。
おなじものを所有することで、憧れの人と同じステージに立てたという錯覚が働くのです。
『隣の芝生は青い』ということわざがあるくらいです。
元々コンプレックスを持っていたり、自己肯定感が低い人は、とかく人が持っているものが価値の高いものに見えるものです。

その他、だるまちゃんが流されやす性格だということもあるのかもしれません。安易に人の真似をすることで、安心感を得られやすいということがあります。

だるまちゃんとてんぐちゃんを例にして、人のものを欲しがる心理を挙げましたが、だるまちゃんはまだ幼い子どもなので、元々依存性が高いのです。
成長とともに自主性や個性が育まれていくので、その途上にある幼いだるまちゃんは、解決策を父親のだるまどんに頼るのも無理もないことです。

反対にてんぐちゃんは、全く同じものではないにしろ、てんぐちゃんのうちわに似たやつでの葉っぱを持ってきただるちゃんに対して「ずいぶん いいもの みつけたね」と褒めています。それも一度ならず二度三度と真似をされているにも拘らず、嫌な顔をしません。
むしろ真似されることを喜んでいる様でもあります。
これはてんぐちゃんの度量の大きさが伺えます。
真似されたことで気分を害することなく、だるまちゃんの気持ちを素直に受け入れています。
きっとてんぐちゃんもだるまちゃんの事が大好きなんでしょうね。

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これは私が子どもの頃経験したことなのですが、鍵っ子だった私はキーホルダーをランドセルに取り付け、家の鍵を持ち歩いていました。
ある日そのキーホルダーに、フリルの可愛らしい服を着せたウサギのマスコットを一緒に取り付け学校にいくと、仲良しのE子ちゃんに「それ可愛いね、私も同じような人形をランドセルに着けても良い?」と聞かれ、嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
E子ちゃんに「可愛いね」と褒められた嬉しさと、真似しても良いかと聞かれたことが、自分のセンスを認められたようで嬉しかったのです。
そして同じようにランドセルにマスコットを下げていることが、親友の証のようでもあり、誇らしさもありました。

でもE子ちゃんが選んだマスコットは、私の持っていたウサギのとは違い、テディベアのようなマスコットでした。
まったく同じものではなく、そこはE子ちゃんのセンスで選んだもので、個性が伺えるところです。

だるまちゃんも、結局てんぐちゃんと同じものではなく、同じように見えるやつでの葉っぱだったり、お椀の帽子だったりするのです。
そこにはだるまちゃんの工夫とセンスが表れています。
そうした繰り返しで個性が構築されていくし、創意工夫することで自主性も育ちます。
そういう意味では、この絵本はだるまちゃんとてんぐちゃんの友情と、だるまちゃんの成長を描いた物語ともいえるのかもしれません(笑)

また絵本の中で、ページいっぱいに並べられたうちわや帽子、履物などを見て、同じものでもこんなに沢山の種類があることに気付かされ、どれが良いかと悩む子どもたち。
ひとつひとつ指差して、そのページから中々先に進めなくなります(笑)
かこさとしワールドにどっぷり浸かって育った子どもたち。この絵本が好きな理由のひとつでもあります(笑)


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