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逆噴射小説大賞2023 ~再廻のハロウィンイブ~

「さぁ義兄弟(ブラザー)、用意はできたか」
「こんな時間まで起きてるイケナイガキ共に寝小便の恐怖を思い出させてやろうじゃねぇか」
「汚ねぇステップ踏み鳴らす酔っ払いも、悲鳴喝采の金科玉条だ」

山の動物たちが寝静まった夜の森を颯爽と潜り抜ける。
ハイになったハイエラの声だけが反響して聞こえてくる。

「どうした、ニンゲンの頃が恋しいか。壁や木にぶつかることなんざありゃしないんだぜ」
ハイエラは、ゴーストになって最初にできた兄貴分みたいなものだ。
未だうまくしゃべれない僕に気づいてか(多分元からそういう性分なのだろうけれど)いつも僕に話しかけてくれる。

「前も言ったが、たかだかXXXXに捨てられたことなんざもう忘れちまえよ」
一体何に捨てられたって?
僕はそんなひどいことをされるような奴だったのか?

森を抜けて、小高い丘をぐんぐんと下っていく。
時折、民家の玄関先に飾り付けが光っている。
ハイエラはそれを見る度猛スピードで駆け抜けざまに唾を吐いていった。

やがて遠くに煌々と光る夜の街が見えてきた。

「さぁ10月30日の夜(イブ)のメイン、一儲けと行こうぜ!」
ハイエラの冷めやらぬ興奮が僕にも伝わってくる。

「前に教えたことは覚えてるな」
僕は頷く。
「OKだ、だが中央(シティ)はやめとけ」
「俺たちみたいなならず者は、お邪魔虫共に気づかれたらおしめぇだからよ」

ハイエラはそういうと街中に飛び込んでいった。
僕も後を追うように街へ向かう。

その途中、古いタワーマンションを見つけた。
街はずれにしては異様に豪華で、だけど人の気配がほとんどしない。

誰かいないかと正面の壁沿いにぐんぐん上っていく。
だが部屋をのぞいてみても、すでに引き払ったのか誰もいなかった。

諦めてハイエラと合流しようとしたその時、
僕は見てしまった。

それは瞬きもせず、
投げ出された玩具の人形みたいに天井を見上げたまま
ベッドの上に横たわる。
僕と同じ顔をした者だった

【続く】

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