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いざ、登録審査会

前後編の予定でした。前編は こちら 。後編は こちら


教育委員会へお電話

平日の午後、休みを取って警察署に行きまして、都合 1時間ほどの見分。
ちょうどいいのでその後、そのまま登録審査会の担当部署である、
大阪府教育庁 文化財保護課にお電話をしてみました。

 改めてここまでの流れを伝えた所、
登録書不要の刃長で登録審査を受けたいというのは珍しいと言われましたが
実物を持って行って警察の判断を受けた、という説明が効いたらしく、
そういう場合は「発見届」がなくても「申立書」というのを書けば大丈夫、
という説明を頂きました。
「申立書」さえあれば、それが「発見届」の代わりになるので登録審査を
受けられるそうです。Web上にはないので、郵送します、との事。
住所と氏名、念の為の電話番号をお伝えし、
「事務手数料として 6,300円かかる」「審査不合格でも返金はされない」
「11月は予約が埋まってるから早くても12月。申し込み遅ければ更に先」
という説明を受け、諸々了解。
ということで、第二関門「登録審査会」は、12月の予定となりました。
 

「申立書」を書いてみる

待つことしばし。
11月6日。大阪府教育委員会から、「申立書」が入った封書が届きました。

かなりレアだと思われる「申立書」

内容としては、最初に
「発見届を出そうと思ったけど警察から『対象外です』って言われました」
「でもこの刀剣を持っていたいので、登録審査受けさせてください」
みたいな宣誓があって、その先には、本来「発見届」で書くはずだった、
「いつ」「どこで」「誰が」みたいな内容が入ります。
私の場合は、ヤフオクで落札した槍(刃長 14.5cm)という説明と、
警察署に持ち込んで確認していただいた日付とコメントを記載しました。
せっかくなら年内に決着を付けたかったので、即日、速達で返送。

11月17日。
「銃砲刀剣類の登録審査について」という書類が届きます。
「申立書」受理したから、12月の登録審査に参加してね、という案内です。
よし、12月の回に参加できるぞ。

「登録審査会」の案内状

この案内状を受け取ってからは、特に書類手続等はありません。
会社に有給休暇の申請を上げて、後は待つのみ。
 

いざ、登録審査会

大阪の咲洲エリアにある大阪府庁舎が会場でした。
さて、車で行くか、公共交通機関で行くか、と悩みましたが、
紛失・盗難リスクと渋滞・遅刻リスクを天秤にかけて、
車で行くことに決めました。
駐車場は 1日上限 1,000円だし、早めに行って、待てばいいや、と。

平日の午前中だったので、Googleマップの経路案内が想定外の経路で
渋滞を回避した関係で、一度、兵庫県を通ってから咲洲へ。

大阪府庁 咲洲庁舎

11:15 受付開始だったので、11:00まで時間を潰してから 29階へ。
会場、迷わず行けるかな、と少し不安でしたが、そこかしこに案内があり、
問題なく会場入りできました。良かった良かった。

会場入口の案内表示

ちょっと早く着き、入り口で悩んでいたら「どうぞー」と呼ばれ、中へ。
会場内は、待合も含め撮影禁止になっていました。

審査会場の手前、受付で名前の確認があり、
そのままそこに座って書類に必要事項を記入。内容確認の後に、
「では、手数料の支払いをお願いします」
と言われました。
ふっふっふ。お釣りがでないようにキッチリ用意してきたぜ! と、
意気揚々と財布を取り出そうとしたら、
「こちらのファイルを持って、1階の窓口へ行ってください」
……1階? ここ、29階ですけど?
仕方なく、謎の一往復。この導線はどうにかならないのでしょうか?
余談ですが、このフロアを訪れるご年配の男性とか、中年の女性とか、
みんな謎の長い布包みを持っていて、色々素敵な雰囲気でした。
全員が刀を携えている、と思うとすごく現代伝奇物のラノベっぽい。

支払いを終えて戻ってくると、すぐに奥へ案内されました。
登録審査会場は部屋の中に審査のテーブルが3つあって、
それぞれがパーテーションで仕切られてました。
同じ時間に受けていた反対側のテーブルは柄から茎が抜けなかったらしく、
土木工事か? ってくらいカンカンキンキン叩く音がしてました。
蔵から出てきた系かな? 中で錆びてたりすると、色々大変ですよね。

うちのテーブルは担当の方が最初 2人、途中から 3人になりました。
最初は長さの計測でしたが、「長さ 16cm」と言われ、えっ? と思って
担当者の手元を見たら、鎺(はばき)を付けたまま計測されていました。
槍は鎺を外して、ケラ首からの長さを測る、と聞いていたので、
「鎺って付けたまま測るんですか?」と とぼけたコナン君風に聞いたら、
「そうなんですよー」と笑顔で言われました。
(いや、絶対違うよー)と内心で焦っていたのですが、
あまりゴチャゴチャ言うと心証を悪くするかな、
でも、警察署での計測と数字が変わるとややこしくないか?
いや、そもそも 15cm 超えてたら銃刀法に引っかかるから、
登録証無しの状態で販売したお店が罪に問われちゃうんじゃない!?
と考えたくらいのタイミングで、隣のテーブルからこっちに別の担当者が。
計測していた方が一瞬こっちを見た後で、
「槍は鎺付けたまま計測するんですよね」
と同意を求める感じでその3人目の担当者に確認を入れたんですが、
「鎺は取るんやで」
と即答。無事、再計測の運びとなりました。ふぅ。

3人体制となり、色々と確認が進みます。
登録のする情報というのは、登録証に記載される情報よりも遥かに多く、
「形は平三角槍でいいですよね」「ええよ」
「地金は板目ですか?」「うん、板目やな」
「刃文は直刃ですよね?」「これは直刃」
「時代はいつ頃でしょう」「江戸やね」「江戸ですね」
みたいなやり取りで、書類の欄が埋まっていきます。
一番時間がかかったのが銘について。
「銘はあるんやけどなぁ」「これは……伯ですか?」「人偏に……」

紛糾した銘。目釘孔の上は「伯」っぽい

光を当てたり、油を塗ったり、ルーペで見たりと、かなりの時間をかけて
検証・検討してただいたのですが、なかなか判別はできず。

書類に一通りの情報を書き込んだ後で、その紙の上に槍の茎を置いて、
鉛筆で輪郭線と目釘孔の位置を書き込み、茎の押形のようなものを記載。
「茎尻の窪みもね」「元の目釘孔みたいなここですよね」
最後に、書類と槍の写真を撮って、全ての作業が完了しました。
なるほど、ここまで詳細な情報を登録してあったら、
照会とかあっても大抵は判断つくだろうなぁ、と感心しました。
非常に、良い経験をさせていただきました。
 

かくして槍は美術刀剣に

審査後、待機室にてしばし待っていると番号と名前を呼ばれます。
「お待たせしました。こちら、登録証です」

登録番号はモザイク処理で

以降、必ずこの槍と登録証はセットで取り扱ってください、など、
いくつかの注意事項を伝えられ、全ての工程を終了いたしました。

これにて、無事、目的達成です。

都道府県によっては銃刀法に掛からない長さの刀剣は登録不可、
という判断をされている所もあるそうですが、大阪府は大丈夫でした。
我が槍は、伝統的な材料と鍛錬を経て作られた美術刀剣と判断され、
刃長 14.5cm の「やり」として、大阪府に登録されました。

合口短刀拵 平三角槍 銘「伯■■■■■」

登録不要と言われている長さの槍に、登録証を付ける意味――
これは、本当に難しくて、感覚的、情緒的なものになってしまうのですが、
この槍は、鍛錬された玉鋼から生まれ、多くの人の手を経て現代に残った、
美術的価値がある「槍」である、という証を付けてあげたい、
という思いの結果になります。

この槍は、晴れて美術刀剣として登録されましたが、
それと引き換えに多くの責任も背負うこととなります。
何か理由があって移動する際には、必ず登録証とセットで運ぶ義務があり、
また、もし誰かに売却・譲渡する場合は、
新しい所有者となった方に「所有者変更届」提出の義務が発生します。
そういった意味では、色々と小回りが効かなくなりますが、
それでも、私は私の満足のために、この槍を美術刀剣として登録しました。

銃砲刀剣類登録規則
 第四条(鑑定の基準)
  2 刀剣類の鑑定は、日本刀であつて、次の各号の一に
    該当するものであるか否かについて行なうものとする。
   一 姿、鍛え、刃文、彫り物等に美しさが認められ、
     又は各派の伝統的特色が明らかに示されているもの
   二 銘文が資料として価値のあるもの
   三 ゆい緒、伝来が史料的価値のあるもの
   四 前各号に掲げるものに準ずる刀剣類で、その外装が
     工芸品として価値のあるもの

昭和三十三年文化財保護委員会規則第一号

 

この先の展開

とても気に入った槍なので、大事にしたいと思っています。
拵自体は普通の短刀の合口拵より細く、短いので、
専用の刀掛けを作ってやろう、と桜皮巻きの丸木材を購入し、工作へ。

桜皮巻き丸木材
丸ノコでザックザックと切り分け
レンタルスペースに持ち込んでドリルで削り
塗ったりフェルト貼ったりネジ止めしたりして、刀掛け完成
桜皮巻きで揃えてみました

気に入って購入した槍ですが、
拵の塗りには一部、剥げがあります。
また、縁頭には小さな欠けがあります。
鎺と鯉口がゆるいので、ここはどうにかしないといけません。
という事で、まだ手をかけたい所は色々あるのですが、
この辺りはまた別の話に。

そんな訳で、「ヤフオクで購入した槍を警察で確認してもらい、
登録審査会に持ち込んで登録証を受け取るお話」でした。
 
 

#刀 #日本刀 #刀剣 #槍 #銃刀法

 

ヘッダー画像:自撮り写真・「大阪府庁咲洲庁舎 29階 会場案内」

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