プロレスの練習生だった話26

大阪の団体は学生プロレスのOGが中心に旗揚げされたという。
そこに関西インディーの選手が合流して今の形に至るらしい。
練習生の中には19歳の男の子や年齢不明の女性、大学在学中の練習生もいた。
選手は40を超えた選手から20前後の選手と大所帯だった。
屋外での興行、初日ということもありセカンドにはつかず、他の催しの妨げにならないように通行人を整備する役割を担った。
途中場外乱闘が来た際はごく自然にお客さんを捌けた。
そして興行は無事に終わり、久しぶりにリングの撤収を行なった。
素手で行っていたのを気にかけ軍手をもらった。
こういう団体から支給されるものがあるとモチベーションはあがる。
リングの撤収は久しぶりだが何度も経験してきたので体が覚えていた。
そして片付けも終わり、大会の総括の後に今日から練習生が一人増えたのでよろしく。と紹介された。
責任者の方からはこんな感じでやってるけどいけそう?と聞かれた。
感情表現に難があるので込み上げる言葉を飲み込み、よろしくお願いしますと伝えた。

そしてプロレス界に戻ることになりジムに通うようにした。
それまで取り組まなかったウエイトと自身の強みの持久力、以前のオーディションに落ちたことを踏まえもう一度体づくりに取り組んだ。
プロテインなども安く良質なものがあることをこの時知った。
次の週、別の場所でまたもや屋外の試合があるとのことで参加することになった。
割と結構な頻度で興行を行なっているようだった。

この日は到着が少し遅れることを伝えており、到着した頃にはリングはあらかた出来上がっていた。

セカンドにはこの日もつかず、通行人の整備をした。
試合中リングのそばを通行人が通り抜けようとするアクシデントがあった。
自分は離れたところで整備をしていたが間に合わずにいた。
そんなアクシデントがあり総括。
アクシデントに対しての反省についてセカンドについた選手が詰められる。
あれは練習生が。と言い返していた。
まあ確かにセコンドについていたら回避させていただろう。と思い黙って聞いていた。
責任者の立場の先輩は大阪は変なやつ多いから今後防げるようにとうまく収めていた。
そしてうちはガッツリ体育会系ではないからなあんま上下関係気にせんでいい。と言ってくれた。
恐らく変に気を使い萎縮する自分を諌めてくれたのだろう。
言葉一つで信頼関係は崩れるし生み出される。

次の週は入団してから初めての練習だった。

本来なら大学の敷地内にリングを組み立てるのだが
生憎の雨でトレーニング施設にマットを敷き、受け身やチェーンレスリング(腕の取り合い)をした。

マットで受け身を取るのも久しぶりだった。
それでも東京では固いマットの上で受け身を黙々と取り続けていたのでこなす事はできた。
細かい修正は必要とのことだったが形としては成り立っていたと言われた。
チェーンレスリングは過去に数回しかしたことがないのでどのように腕を取るのか、極めすぎないようにする力加減が難しかった。

雨も止み、外で筋トレをした。
久しぶりのスクワットでも200回なら痛みも出ることなくこなせた。

ある程度今まで筋トレをしていたのに救われた。

次の週はまた試合だった。
今度は早くつきリングの組み立てから参加した。

6月になり湿度が高く蒸し暑かった。

その日は先輩にお使いを頼まれたのでダッシュでドンキホーテまで買い出しに行ったりしていた。
リングを組み立て終わり、少し休憩していた時
常連のお客さんが〇〇くん元気?と声をかけてきた。
〇〇さんは憧れの選手だった。
この頃髪の毛を銀色に染めており色落ちした髪の色などその先輩に似ていたようだ。
少し嬉しかった。
すぐに別の先輩がこの子は練習生だよ。
と伝えると似てるわー!と言っていた。

試合開始が近づいた。
この団体は練習生からセコンドに参加する形をとっていたが屋外では基本的に通行人整備をしていた。

特にトラブルもなく終えることはできたが水分を取れず喉がカラカラだった。

通行人整備も終わりリングを見ると練習生の先輩が脱水なのか熱中症なのか倒れたときいた。
救急車もきたりしてバタバタしていた。

そして大学の構内へと車で移動した。
憧れていた先輩と同乗した。

君はなぜうちに入ったの?とある先輩に聞かれたので
〇〇さんに憧れて入りました。と告げた。
先輩はディスってるやん。とつんとした感じの返答だった。

大学につき、トラックからリングを倉庫に戻す作業がある。
組み立てもそうだがリングは鉄骨を何本も使うので当然重い。
なのでペアになり運ぶ。
当然力がある人と皆組みたがる。

練習生なので率先して片付けたいのだが
皆別の人とそそくさと片付けはじめてしまう。
他の練習生は先に救急車で運ばれた人以外不参加だったので自分1人だけだった。
困った。
なんというか心細さを感じていた。

自分は過去、別の団体に在籍してからこの団体にきた。
他の選手や練習生は基本的に生え抜きだ。

自分はまだまだ受け入れられていないのか。
そんな気持ちがよぎった。

1人で持てるものを持ち片付けをした。
そこに憧れていた先輩が声をかけてきた。
一緒に運ぼ。
はい。と返事をして
鉄柱を運ぶ。

特に何か会話をしたわけでもないが見兼ねて声をかけたのかそれともなんとなくなのか今ではわからないが嬉しかった。

先輩は見てても感じるが人見知りをするタイプで普段は感情表現をあまりしない。
自分も同じだったので同期の練習生のように後輩後輩して先輩に振る舞えなかった。

それでもこの人に憧れてこの団体を選んだのだからデビューする。と言う目標はブレずに持ち続けた。



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