下敷き2

ペンギン描くの?

 「ペンギンが描きたいんです」と、先生に言うと3~4ど、「は?」と聞き返された。
 日本画でペンギンが描きたい、ともう一度言うと、いや、いいけど、と不思議そうな顔をされた。あまり題材にする人はいないのだろうか。
 小さなF0ほどのやつに描きたいんです、と言うと先生は、「銀箔を焼こう」と言ったのでした。ちょうど教室では先生が銀箔ブーム(笑)
 箔を張って、下絵を描いて、ペンギンが完成したときは楽しかった。
 
 私は根気がないので、ぱっと作ってしまいたくなる。いつまでもいつまでも時間がかかるものは飽きてしまう。F0はいい、あきない!とそこで気がついてしまった私は、ペンギンから始まって、銀箔背景のシリーズで花を描き始めた。
 正直に言おう。
 塗るのはへたくそなのだ。初心者のままなのだ、数年たっても、
 でもいいじゃないか、楽しもうじゃないか、と塗り始めたら楽しかった。そうして思いのほか大変だった。ちゃんとできるところ出来ないところを把握するのにとてもよかった。独りで最初から作業をするというのはそういえば初めてだったのだ、日本画で。
 しらない技術が山ほどあり、けして及第点とは言えない作品を、詩とパンと珈琲モンクールさんで展示をさせてもらっていた。
 何時もの何かを物語るみたいな、物語の本の表紙を勝手に描くみたいな、かっちりしたテーマではなく、ぼんやりした、癒されるためだけの空間を作りたかったのだ。
 実際そうなったと思う。

 日本画のやつが一番よかった、と言ってもらえることが多かった。
 うまい下手ではない、と誰かが言った言葉が、私も誰かの感想に言った言葉がよぎった。
 一番大変で、一番好きな作品だったので素直にうれしかった。
 もうちょっと、出来ることを増やそうと思った。
 わからないながらもやったところが、わかっててやったところになったら
たぶん世界は広がるのじゃないだろうか。

 ペンギンさんが、私をそういう楽しさにいざなってくれた。
 そのペンギンさんは海を越えて人手に渡った。
 日本画が他の人の手に渡ったのは初めてだった。
 玄関に飾ってくれているという。胸が熱くなった。
 欲しいと望まれたときに、この子は、私は、一つ何かを得たように思った。
 続けていてよかったな。もっと続けよう、そう思ったのだった。

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