見出し画像

静かに心震わせ、胸熱くさせるドラマ『男たちの旅路』

00.ちょっと前置き

(『男たちの旅路』のネタバレがチラホラ出ます。ネタバレが苦手な方は回れ右して、先にドラマを見て下さい。なお、ドラマ関係者の名前は敬称略で記載しています。)
以前書いた、ドキュメンタリー『青い募金箱』の記事のアクセス数が、4月後半からグンと伸び続けてて驚いてる。思わず記事を読み直したら、作品を見た時の記憶が蘇ってきた。『青い募金箱』の内容については既に書いたので、詳しい事はここでは省くが、イスラエル国内のユダヤ系の人たちでも、国の歴史について(一括りには出来ないけど)世代間で価値観の違いがある事を知って驚くとともに、こうした話はやはり普遍的な事なんだと感じた。日本でも、もちろん世代間の見解の相違というやつは今も昔もあり、「これだから今の若者は…」とか「上の世代は頭固くてやってらんねぇ」てな会話は今でも珍しくないし、何度も経験済みの方も多いだろう(かく言う私も何度か経験した)。

01.ドラマ『男たちの旅路』について

・・・と、何でこんな事を延々と書いたかと言うと、この記事のタイトルにあるドラマ『男たちの旅路』は、まさにその世代間の価値観の違いを扱った作品だったからだ。
『男たちの旅路』はNHKで1976年から1982年の間に放送されたドラマシリーズだ。とある警備会社を舞台に、戦中世代で特攻隊の生き残りでもある主人公・吉岡と、戦後生まれの若手社員たちの価値観の違いとぶつかり合いを主軸に描いた作品で、脚本を山田太一、主演を鶴田浩二、森田健作(第一部のみ)、水谷豊、桃井かおり、柴俊夫(第二部から)らが務めた。
私がこの作品を知ったのは、何年か前の(何度目か分からない)再放送を偶然見た時だった。一緒に見た母(←リアルタイムで見てた人)が、「懐かしい!すごく良いドラマだったんだよ」と話してた事と、映画スタアだった鶴田浩二がドラマに出ていたのに驚いた記憶がある。その時も、その後にあった再放送でも見逃していたが、ついに先月、第一部〜第三部の放送があるのを直前に知り、この機会を逃すものかと録画して見た。いや、正確には放送当日に録画しながら見て夜更かしして(笑)、当日に見られなかった部分を翌朝見ていた。それぐらい、このドラマにぐいぐい惹き込まれてしまったんである。

02.このシリーズの魅力

放送から50年近く経つこの作品が、何度も再放送されるほど、未だに根強い人気があるのか?そして、自分が生まれる前に作られたドラマに、何故これほど惹かれるのか?
続きの第4部と最後の特別版は未見だが、このシリーズから伝わってきたのは「いいドラマを作りたい」という制作に関わった人たちの熱意だ。当たり前の事で、ありきたりな表現だが、「素晴らしい脚本と演出、それに応えられる俳優と制作スタッフ」が存在した事でこのような名作が生まれた。そう納得できるものだった(同じNHKドラマで向田邦子脚本の『あ・うん』を見た時も強くそう思った)。
ネットや関連映像を見ると、この企画が始まった時、主演依頼を受けた鶴田の求めで、彼とプロデューサー、そして山田の3人が最初に面会した際、鶴田は自身の戦争体験(戦時中は特攻機の整備士を務めた)や思いを数時間にわたって語ったそうだ(場面が目に浮かぶ・・・)。それを汲み取って、山田が後日書き上げた脚本を鶴田が読み、この仕事を引き受けたというが、その話から、そしてドラマ本編からも、俳優と制作側の並々ならぬ熱意というか、「これは言わせてほしい!」という強い思いが伝わってきた。

また山田は、主人公・吉岡と相対する存在として、戦後世代の若者たちを配したのだが、両者のと掛け合いがすんごくいい。俳優たちが演技を通り越して役になりきり、双方の価値観の違いに本気でぶつかり合い、やがて互いを認め、心から信頼し笑い合い、そして生まれる友情関係や愛憎の中で生きていた。しかもそこには、俳優たちの個性やイメージも織り込まれていて、もう見事の一言しかない。(個人的には、やりすぎなほど自分を律する鶴田浩二のイメージと、カラッとして少し皮肉っぽい江戸っ子気質の池部良の持ち味が、十二分に生かされた2人のセリフと掛け合いが一番面白く、そして心に沁みた)
一方的な断じ方は決してせず、それぞれの俳優の個性を計算しながら、自らの思いも織り込んだ脚本と演出の力量、またそれに応えて表現するしきった俳優たちの共同作業が、『男たちの旅路』という名作を生みだした事を肌で感じてとても胸が熱くなった。今回再放送されなかった第4部(出演者の一人が麻薬絡みで何度も逮捕されたのが原因か?との事だが、それが本当ならNHKの態度は誠に残念なものだ)を含め、DVDを購入してまた見ようと思ってるし、時間はかかるけど、各話の感想もここで書けたらと思う。

最後に、ドラマを見ようか迷ってるあなたへ一言。
(主人公・吉岡のセリフを借りて)昔の作品だという理由だけでこのドラマを見ない奴は、俺ァ嫌いだ。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?