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【場所に不似合いな建物はその場所の土地価格を引き下げます】

1.東京の都心では中小規模事務所の取壊しが増えています

東京の都心ではこのところ大変な勢いで大規模事務所が増え続けています。そのあおりを受けて中小規模事務所の空室率は上昇し、回復の兆しはありません。なにもしなければ空室率は改善されず、空室率はさらに上昇するでしょう。賃料を下げれば空室率は下がりますが、値下げを続けるとビル事業が破綻します。建物を改造して機能を向上させたとしてもその効果は一時的でしかないでしょう。今後も次々と大規模な再開発事業が竣工するたびに、最新機能を備えた大規模事務所の供給がまだまだ増え続きそうだからです。少しばかりの改造では新築物件にとても太刀打ちできませんから、都心の中小規模の事務所ビルは次々と取壊されてしまいます。黒川紀章設計の中銀カプセルタワービルも既に解体されました。丹下健三設計の電通ビルも現在解体工事中です。

2.事務所の跡地に建つのは無個性なホテルばかりです

住まいの最寄りの「東銀座」駅周辺だけに限っても、10年以内に数十件の事務所ビルが取壊されて、そのほとんどが小規模ホテルになりました。東京のホテルの稼働率は今のところ好調で全国平均を上回っていますからこの動きは今しばらく続きそうです。ところが残念なことに建物の1階のテナントはほとんどがカフェかコンビニです。1階のエントランスロビーは無個性のマンションのエントランスのような空間です。ビジネスホテルのようにも見えますがシティホテルなのでしょうか。そんな建物が何棟も立ち並ぶようになると、銀座や築地には何の魅力もなくなります。どこかの地方都市の駅前の景色と同じです。そんな場所になってしまったら、土地価格はそのうち下がり始め、同じ景色のどこかの駅前の土地の価格水準に少しずつ近づきます。

3.無個性の建物は街の特性を破壊します

賃貸事務所市場で競合すれば中小規模事務所は大規模事務所に勝てませんから、事務所市場から撤退してホテル市場に移るという選択は当面成功しているようですが、このまま同じようなホテルが建ち続ければ、近い将来激しい競争が始まります。中途半端なホテルばかりが立ち並ぶ無個性でつまらない場所に建っている、無個性のホテルはその競争に勝てません。気付いた時には銀座がいつの間にか、表参道や渋谷や六本木に劣後する魅力のない街になっているかもしれません。「銀ブラ」という言葉が示すように、銀座は快適に散歩ができる街で、ウインドウショッピングを楽しめる街でした。裏通りを歩いておしゃれなカフェや個性的な店を見つける喜びがありました。そんな街の魅力を失わないように、せめて建物の1階部分だけ、出来れば地下1階から地上2階くらいまでは、個性的なテナントを入店させてほしいです。銀座の裏通りにふさわしいホテルでないと、他の地域のホテルとの差別化ができず、過当競争に巻き込まれます。

4.場所の特性に適応した建物を建ててほしい

ホテルの魅力は提供されるサービスの質の高さです。それを担うのはスタッフと建物の空間ですが、中小規模のホテルで提供できる人的サービスの高さにはどうしても限界があります。豪華なプライベートラウンジも三ツ星のレストランも設置することはできません。だから古いビルが取り壊された後に建てられる建物は、ビジネスホテルのようなシティホテルになってしまうのでしょう。建物の1階部分は物販店に、2階部分は飲食店に、地階部分はサービス店舗に賃貸して、3階以上の階を宿泊施設にするというビルの形態は悪くありません。低層階の店舗の種類と質がその場所の特性を決定しますから、その場所に適応した店舗でなければいけません。その場所が銀座なら建物の1階と2階だけは銀座に似合う店舗であってほしいです。そのかわり3階以上のホテルの運営は極限まで省力化しても構いません。その場所は銀座というネームバリューのある場所なので、宿泊客は周辺の豪華な店でいくらでも楽しむことができるからです。だから他の地域よりは高額の宿泊料で運営することが可能なのですが、その場所の歴史と品格を破壊するような建物が立ち並んだら、そこは特別な場所ではなくなってしまいます。

5.場所の特性に合ったテナント向けの外観にしましょう

銀座のホテルの1階のテナントには高級ホテルのアーケードに出店するような店が似合います。旅行バックやシューフィッターのいるウオーキングシューズの専門店。ケーキ屋やパン屋や和菓子屋や紅茶やコーヒーやチョコレートの専門店もいいですね。2階にはプライベートラウンジのようなカフェがあって、昼間は1階の専門店の食品をイートインできればそれはそのホテルの個性になります。地下1階にはサウナ、マシンジム、コインランドリーなどのサービス店舗を誘致します。地下2階に公衆浴場があれば完璧です。地下階の店舗は宿泊客のためのサービス施設としての役割も担います。3階以上は全て客室です。客室は暖冷房と高度のWi-Fi機能は完備ですが、トイレと洗面所とシャワー室があるだけでバスもランドリースペースも、もちろんキッチンもありません。レンジと小さな冷蔵庫、それに浄水器と一口のIHヒーターとがあるだけです。居室には作り付けの机とクローゼットそれにベッドがあるだけで十分です。

6.低層階は街のための、上層階は経営のための建物にしましょう

低層階は街の特性を壊さないように、そして建物の品等を高めるデザインですが、宿泊室は長期滞在にも使えるビジネスホテルのようなイメージで、運営スタッフはコンシェルジュ兼マネージャ一一人だけです。インターネットで賃借を申し込んで、入金が確認出来たらパスワードが提供されて、エントランスのキーボックスにパスワードを入力すれば、部屋に入れるノンタッチキーが取り出せるシステムです。部屋の賃料は月額ならば、1㎡あたり1万円ですが、一泊ならば600円、一週間以上なら500円程度が妥当でしょうか。利用期間が長いほど割安です。長期滞在の部屋の掃除とリネンのクリーニングは原則週に一回で決まった曜日に行いますが、一泊とか二泊とかの短期利用の部屋は退去するたび頻繁に掃除とクリーニングが必要だからです。何か月も何年もそこで暮らす賃借人は、リネンを買い取るか自分で用意すれば、クリーニングコスト分だけ賃料を安く設定します。長期間旅行するときは賃料を室内の荷物の保管料に割引して、空いた部屋を転貸できるシステムがあれば、その空いている期間は部屋を貸し出せます。

7.建物の価値は街の特性によって形成されます

その場所にあることがこのホテルの主要なサービスなので、銀座の街を最大限楽しめるように飲食店や娯楽施設の案内ができる有能なコンシェルジュが必要ですが、宿泊室のサービスは必要最小限に抑え、人的コストを減らしても稼働率を上げられる部屋にします。シングルの部屋は10㎡程度、ダブルの部屋は15㎡程度、ツインの部屋でも20㎡で設計できます。長期滞在者用の郵便受けとマルチ機能のコピー機とクリーニングや宅配の荷物の受付と受け取りができる宅配ボックスがあれば、フロントが無人になってもコンシェルジュと通話ができさえすれば大丈夫です。地下にはトランクルームがあって、24時間営業のサービス店舗もありますから、宿泊室にはバスもランドリースペースもキッチンも、大きな収納スペースも必要ありません。

8.場所に適応した建物がその場所の土地価値を引き上げます

このような形態のホテルで90%以上の高い稼働率を目指します。各部屋に設置する水回り設備が僅かなので宿泊室部分の初期投資費用が安い分で1階と2階の外装は豪華にしましょう。運営スタッフが一人ならば低廉な宿泊費でも稼働できるので、価格競争では負けません。地下階から2階までの店舗部分をホテルの施設として設置すれば、賃料は全く得られませんが、テナントに賃貸すれば賃料が得られます。だからテナント賃料を周辺相場よりも安く設定することで、その場所にふさわしい店舗を誘致できます。入居した店舗は賃料が安い分だけ周辺の競合店店舗よりも良質なサービスを提供できます。店が繁盛すればホテルの人気も上がります。少しずつ店の賃料を値上げしてもテナントが撤退することはないでしょう。店舗が良質なサービスを提供すれば、上層階の部屋の稼働率も上がります。ビル周辺が賑わうようになれば、長期的にはどの階の賃料も少しずつ上昇します。そしてその不動産の価格も上昇します。

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