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L-620 ミルトンの盾

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石膏像サイズ: H.83×W.63×D.7cm(原作サイズ)
制作年代  : 1867年
収蔵美術館 : 英国 ヴィクトリア&アルバート美術館収蔵
作者    : モレル・ラドゥイユ(Leonard Morel Ladeuil 1820-1888年)

19世紀フランス・クレルモンフェラン出身の彫刻家・彫金師のレオナール・モレル・ラドゥイユ作のレリーフです。1867年のパリ万博に出品されて大好評を博し、金メダルを獲得した作品で、その後この作品は英国政府に買い上げられて、多数の複製品が様々な素材で作られ世界中に広まりました。オリジナル作品はロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館(旧サウス・ケンジントン美術館)に収蔵されています。オリジナルは銀と鉄が素材で、、金属の”打ち出し”によって製作されています。

英国キリスト教文学を代表する詩人である”ジョン・ミルトン(1608~1674年)”が1667年に発表した「失楽園(Paradise Lost)」という叙事詩が、このレリーフの主題となっています。「失楽園」は、旧約聖書・創世記第3章のアダムとイブが楽園を追放されるエピソードです。偉大なる創造主である”ヤハヴェ”に対して反逆し堕天使となった”ルシファー”が、再起の過程で人間に嫉妬し、楽園で暮らしていたアダムとイヴをそそのかし原罪を負わせる様が描かれます。このレリーフの中心の円形部分は、楽園からの追放を告げて諭す”大天使ラファエル”とそれを甘受するアダムとイヴの姿です。その中心円を左右にとりかこむ勾玉形の部分では、下方の部分ではサタンの手先と成り果てた堕天使たちが描かれ、上方では堕天使・サタンと闘い勝利する天使たちが描かれています。中心円の真下の左右の勾玉形に挟まれた部分には、ドラゴンを退治する大天使ミカエルがいます。全体的に、下方に”死”や”罪”を象徴するサタン的なシンボルが描かれ、上方では神の恩寵が支配する楽園的なシンボルが描かれています。

作者のモレル・ラドゥイユは、フランス人でナポレオン3世の治世下で彫金師としてのキャリアをスタートさせましたが、興味深いことにその創作活動のほとんどを対岸のイギリスで行った人物です。若き彫金師として頭角を現し始めていたラドゥイユは、フランスの帝政を称揚する目的でナポレオン3世から直々に”皇帝の盾”の製作依頼を受けるまでになりますが、そのことを同業者達からねたまれボイコットされてしまいます。フランスの彫金業界から締め出されてしまったラドゥイユは、必然的に外国人の美術商との関わりが増え、1862年の万博出品作品が評価されたことで、Elkington&coという英国・バーミンガムの会社に所属して創作活動を継続することになりました。このエルキントン社に所属してからはヒット作を連発し、イギリスでは打ち出し(Repouse)による彫金師として第一人者の地位を確立しました。そして、1868年にパリで開催された万国博覧会にこの”ミルトンの盾”が出品されると大絶賛を受け、その作品は3000ポンドという破格の値段で英国政府に買い上げられました(1816年に英国政府がエルギン卿がギリシャから持ち帰ったパルテノン神殿の彫刻を購入した値段が3万5千ポンド。これが現代の貨幣価値に換算すると4億円程度)。さらに世界中からの注文が相次ぎ、このエルキントン社からは数千の複製品が様々な素材によって製作され広まってゆきました。その後も、ラドゥイユは順調に作品を発表しつづけ、生涯で35点の作品を制作しました。

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ヴィクトリア&アルバート美術館収蔵 「ミルトンの盾」 ラドゥイユ作 1867年 (写真はWikimedia commonsより)



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