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「ルネサンスの彫刻 15・16世紀のイタリア」

書籍の紹介です。今回はこれ一択!ルネサンス「彫刻」についての概論として、初学者にとっては最高の本だと思います。

「ルネサンスの彫刻 15・16世紀のイタリア」石井元章著(2001年 ブリュッケ刊)


この本が素晴らしいのは、なんといっても絵画を排除して彫刻のみを論じているところ。なんだそんなこと?と思うかもしれませんが、書店や図書館でルネサンスについての書籍を探ってみても、この条件にあてはまるものはほとんど見当たりません。ルネサンスの全体像を語る本は、絵画:7 建築2: 彫刻:1 といった構成のものがほとんどです(そしてわずかの彫刻部分には、たいていミケランジェロの代表作が何点か掲載されている)。

でも安心してください。この石井先生の著作は彫刻オンリーです。現状で手に入り易い本としては唯一無二の存在ではないでしょうか。

250ページ強のボリュームで、1401年のサン・ジョヴァンニ洗礼堂門扉のコンクールから始まり、ドナテルロを筆頭とする初期ルネサンス、15世紀のヴェネツィア、ミラノ、ナポリの状況、ミケランジェロの盛期ルネサンス、その後のマニエリスム、16世紀のミラノ、ヴェネツィアの状況まで、年代を追って作家を一人づつ紹介していきます。

約200年の彫刻史ですから、一人の作家についての記述がそれほど多くはないのですが、それでもフィレンツェを中心としたルネサンスの時間軸の中で、誰がどんな状況下で製作活動を行っていたのかということは丹念に語られています。それから著者自身がイタリア中を旅して撮影した、それぞれの彫刻写真が多数掲載されていることも大きなポイントです。

ドナテルロ、ミケランジェロなどの巨匠については、それなりのページ数が割かれていますが、全体では膨大な数の彫刻家が紹介されているため、半ページくらいの記述に留まる作家もたくさんいます。それでも、この一冊でルネサンスの彫刻史の全貌がある程度把握できることを考えると、やはり素晴らしい書籍だと思います。

私はこの本を2007年くらいに図書館で見つけたのですが、最初読んだ時はあまりに知らない彫刻家が多くて少し落ち込みました。ミケランジェロの話ばかり詳しい自分が恥ずかしくなりました。

例えば、
ヤーコポ・デラ・クエルチャ
ミーノ・ダ・フィエーゾレ
デジデーリオ・ダ・セティニャーノ
ロッセリーノ兄弟
ルカ・デッラ・ロッビーア
トゥッリオ・ロンバルド
などなど。ここに挙げた作家たちは、みなルネサンスの重要な彫刻家です。

他にも壁付墓碑についての基本的な知識、ブロンズ製作技術の古典・古代(ギリシャ・ローマ)との関係性など、この本からはたくさんのことを学びました。

とかくルネサンス=フィレンツェと考えがちですが、ヴェネツィア・ミラノの状況についても多くの記述があります。フィレンツェやイタリア半島全体をめぐる政治状況についても適宜説明があり、フィレンツェで花開いたルネサンスが衰退し、やがて北方へとその軸足が移っていく様子もよく理解できます。

ご興味あればぜひ。これ一冊手元にあると、Wikipeiaなどのさらに詳しい知識にアクセスするための強力なガイドになると思います。


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