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石膏像を作っています4月13日

さて、先週に引き続き石膏の粉のお話です。

石膏像を作るときのキモってなんだか分かりますか?

僕が普段から気を配っているのは、
①気泡の管理
②粉が固まるスピードのコントロール

立体の雌型に液体状の素材を流し込んで成形する場合は、気泡の管理が欠かせません。これは樹脂であれ、ブロンズであれみんな同じ。出来上がる製品のクオリティを維持するためには、製品に気泡が入るのを出来るだけ防がなければなりません。ガチャポンで出て来るフィギュアみたいな小さなものの場合は、鋳型の周囲の気圧を下げることで内部の気泡を抜くことができます。真空成型ってやつですね。でも僕の工房で作る石膏像は、すごく素朴な環境しか無いし、そもそもほとんどの石膏像は大きすぎて、減圧環境に置くなんてまず無理です(すごい設備投資すれば不可能ではないとおもうけど…笑)。ということで、あれやこれや気泡が入らないような流し込み方を工夫しています。

そして②の粉の凝固スピードのコントロール。こっちが今日の話題です。

石膏の粉メーカーのカタログデータだと、「水の中に同体積くらいの石膏を投入して、ヘラで3分ほど撹拌し、スラリー(ドロドロ状の石膏のことをこう呼ぶ)を静かに型に流し込む…」みたいに書いてあります。これで何も間違っていないし、問題無い記述なんだけど、実際に石膏の粉を固めてみると、それはそれは色んなことが起こります(笑)

楽しみでパンを作ってるとよく分かるんだけど、指示通りの素材を、指示通りの分量混ぜ合わせても、仕上がりというのは毎回違うし、プロが作り出すようなものにはなりません。素材自体の温度、合わせた時や捏ねてるときの温度変化、捏ねる動作、力加減、時間等々、たくさんの要素が複雑にリアルタイムに変化するからなんでしょうね。料理本で言語化された指示から全てを学ぶことは不可能なんだと思います。経験値というのがすごく大切。

石膏の粉も同じことです。複雑な要素がからみあって石膏は固まっていきます。

石膏の粉が固まるスピードは、だいたい以下の3要素で決まってきます。
①水温(+粉の温度)
②撹拌時間
③不純物の量

③の不純物は、普段は入らないようにしますのであまり関係ないです。ただ、どうしても急速に凝固させたいケースでは塩を投入したりします。最高に加速させると、粉を水に投入してる時から固まり始めて、30秒くらいで流動性が無くなります(´゚д゚`) でもまあこれは特殊なケース。

大切なのは水温と撹拌時間です。やりたい作業によって、早く固めたり、遅く固まるようにコントロールします。流動性が10分継続した方が良い場合もあるし、5分くらいで固まって欲しい場合もあります。気温、水温は日々異なるわけで、寒い季節はお湯を入れてある程度温度を上げたり、夏場は水道の水がお湯みたいな時もあるから早く固まりすぎないように撹拌時間を減らしたり。仕事ですから作業は可能な限り迅速に進めたいけど、急ぎすぎて失敗するようなことがあってはいけません。石膏職人になって最初の5年くらいは、こういった面のコントロールにずいぶん苦労しました。石膏屋さんももう25年なんで、今はあまり考えなくても手が勝手に動きますけど。

石膏の粉の固まり方はとってもセンシティブ。一つのボールに溶いた石膏でも、そこから何が起きたかによって固まるタイミングはどんどんズレていきます。
①型の中に流し込んだ石膏
②ボールに残った石膏
③流し込む時に手が触れた部分の石膏

順番としては③→①→②の順に流動性が無くなります。

①の型に流し込んだ石膏は、型の中でグルグルと動くため撹拌が進んで②のボールの中に残ったものよりは早く固まります。③の手が触れた部分は、人間の体温の影響でやはり早く固まります。

(↑流動性はほぼ無くなっているけど、まだ凝固してはいなくて、手ですくって作業が可能な状態)

ここまで書いてきた”固まる”という状態は、あくまで石膏がトロトロの状態から流動性が無くなるまでのことです。最終製品のような硬さになるには1時間くらいかかります。

こういった職人の勘所を文章で説明するのは、なかなか難しいですね。でも単純にザバ~っと流し込むだけじゃないということを理解していただけたら嬉しいです。

明日は時間が取れれば書籍を紹介してみようかな。
気持ち良いお天気ですね。皆様良い休日を。僕は仕事です(T_T)


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