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「病んでる自分が好きなだけでしょ」

去年の10月頃、私は彼と鍋をつつきながら談笑していました。好きなYouTuberの話とか、大学はうまくいってるのとか。
当時同い年の彼は大学1年生、私は社会人1年目でした。
私は所謂学歴コンプというやつで、大学生への憧れとか嫉妬とかを抱えた人間なんですよね。なのでその日も相手の近況を聞きながら自分がキャンパスライフを送る姿を想像していました。
「でも、ほんと楽しそうだなあ。そりゃ勉強とかバイトとか、いろいろ大変なこともあるんだろうけどやっぱ憧れるわ笑」
私はたぶんそんなことを言ったと思います。その後、彼が言いました。「就職決めたのはお前やん。奨学金とかもあるのにアホやな」と。
実際それは本当のことだし今更後悔しても私が社会人である事実は変わらないんですよね。
ただすごく心臓がギュッとなりました。

少し私自身の話をしようと思います。

2004年、私は生まれました。当時母親は40歳。俗に言う高齢出産です。アルバムには病室で母と祖母が私を抱いて笑う写真がありました。父親の姿はありませんでした。
祖母も母が若いころに離婚をしているため、祖父との記憶もこれといってありません。
我が家では父親の話はタブーとされており、名前や顔はおろか、写真さえ一度も私の目につくことはありませんでした。そもそもまだ存命なのか、それすら何も知らないまま、私は20歳になろうとしています。

私には幼少期の微かな記憶がありました。まだ小学生にも満たない、保育所に入るころでしょうか。
母がおーちゃんと呼ぶ声、それに応える眼鏡をかけた中年の男性、テレビ台の上に置かれた小さなパイナップルの観葉植物、そして、最後に見たのは男性が私にバイバイと言って玄関を出ていく姿でした。
その人が私に残したWiiとWii sportsのカセットは今でも手元にあります。
私はこの記憶だけが父親との唯一の繋がりと思い、大切に胸にしまっていました。寂しくて眠れなかった日も、両親と3人で写真を撮る友達を見た時も、その思い出だけを頼りに私はいらない子じゃない、と自分に言い聞かせていました。
望まれていない子だと思いたくなかった。離れていても、私の存在を知っていてほしかった。

でも、中学3年生のある日、耐えきれなくなった私は母に尋ねました。「昔、家にいた男の人は誰なの」と。
それがあなたのお父さんだよ、と答えてほしかった。
母は苦虫を嚙み潰したような顔で言いました。
「あの人はアンタの父親じゃないよ。あれは再婚相手。まあうまくいかなかったけどね」

高校生になった私は援助交際を始めました。初めてのお相手は30代の方でした。元より行為自体に抵抗は無く、どちらかというと奔放な方だったため特にこれといった支障はありませんでした。自分の身体を売り、お金を貰う。これだけ聞くと貞操観のない下品な女だと思うかもしれません。でも、そこには私達だけの世界がありました。相手は私の容姿や若さを褒め、好きだよ、愛してるよ、と囁きます。たとえそれが繋がっている間だけだとしても、私は誰かに必要とされている事実に幸福を感じていました。近親相姦を好む男性はお父さんと呼ばせてくれました。相手はお金でJKブランドを買い、父性と愛情を求める私はこの歪んだ関係を断ち切ることができませんでした。
この生活を続けてしばらく経った頃、高校2年生の時に大阪府警から電話がありました。
「あなたが過去に関係を持った男性が未成年者に提訴されたため、事情聴取にご協力お願いします」
もはやこの時になると心当たりが多すぎて誰と関係を持ったかなんて全く把握していませんでした。とんだとばっちりという感じです。そしてこの話は母の耳にも入り私はしこたま車の中で売女!とかアバズレ!とか罵られながら一緒に警察署に向かいました。
ごめん。
でも、私はようやくこの呪縛から解放されると、心のどこかで安堵していたのかもしれません。

思い返せば母にはたくさん迷惑をかけました。ここでは割愛しますが、中学時代の不登校だったり数々の問題行動、そして当時の援交事件。かなり多くの心労をかけたと思います。

いよいよ進路相談というものが始まった高校3年生。
母一人の稼ぎで私達を養うには限界がありました。生活は常にカツカツ。毎月ローンやカードの支払いに追われる日々。母と祖母が金銭問題で言い争いをするのは日常茶飯事、きっと母も進学を望んではいなかったし、口には出さなかったけど、どこか期待していたのでしょう。
そうして私は卒業後、就職しました。

現在、母との関係は比較的良好といえます。私の通帳を確認して、助かるわあと言ってくれる母。これでよかったのです。
仕事のストレスで鬱になったとき、他者と比較して絶望したとき、過去を思い出して苦しんだ時、彼の前でたくさん泣いてすがった時、あなたは私にこう言いましたね。
「結局、病んでいる自分が好きなだけでしょ。酔うのは酒だけにしときなよ」
こんな文章を書いている事も、彼からしたら成長していないと思われるかもしれません。でも吐き出したかった。

彼にも彼なりの考えがあったのかもしれないし、全てをさらけ出す事ができなかった私にも非があるかもしれない。でもその一言がまだ私の頭の中でずっとぐるぐるしています。現在は彼ではなく、元彼ですが。そういえば彼と出会ったのも1年前のこの時期だったなあと思い出したので記念に。

もう会うことのない人間に言われた言葉を、ずっと反芻している自分と決別できますように。


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