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OBサミットの真実

 本書は世界の首相・大統領経験者たちが議論し、政策提言を行う「インターアクション・カウンシル」、通称「OBサミット」の記録である。著者はOBサミットを立ち上げた日本の元首相・福田赳夫の通訳兼、OBサミットの事務局責任者を務めていた。

 福田がOBサミットを創設したのは、総理大臣経験者として現役首脳の限界を知っていたからだ。現役の指導者たちは自国の国益を優先し、現在直面する短期的な国内問題の対処に追われているため、長期的・国際的な視点に立って政策を実行することが難しい。そこで、世界の現実を知る元首脳たちが集まり、地球規模の問題について議論し、提言を行うことで、世界と人類に貢献すべきではないかと考えたのである(本書24~25頁)。

 OBサミットでは①平和と軍縮、②世界経済の活性化、③人口・環境・開発・倫理の関連諸問題の3点が優先課題とされた(42頁)。当時は冷戦の真っただ中で、米ソの指導者たちは対面すらしていない状況だった。必然的に、OBサミットは米ソの直接対話を促すことになる。

 これは、敵対する者同士の対話の重要性と、それによって問題が解決する可能性を深く信じていたヘルムート・シュミット元西ドイツ首相の熱心な働きかけによる(59頁)。シュミットは福田の盟友で、OBサミットでは福田と並び大きな役割を果たした。

 OBサミットは2014年のウィーン会合を最後にひとまず幕を閉じたが、もしいま開催されれば、ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナなどに対話を促したのではないだろうか。

 どの世界でもOBがしゃしゃり出てくれば、現役は嫌な顔をするものだ。しかし、日本の政界に関してはOBはどんどん口を出すべきだ。率直に言って、日本の政治家は若ければ若いほど話にならない。戦争や紛争が頻発する今日、OBサミットの必要性は再び高まっていると思う。(編集長 中村友哉)

(『月刊日本』2023年11月号より)

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書 籍:OBサミットの真実 福田赳夫とヘルムート・シュミットは何を願っていたのか。
著 者:渥美桂子
出版社:ダイヤモンド社


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