月刊日本

日本の自立と再生をめざす言論誌。K&Kプレス発行。http://gekkan-nipp…

月刊日本

日本の自立と再生をめざす言論誌。K&Kプレス発行。http://gekkan-nippon.com/

最近の記事

宏池会政権の軌跡

 本書は池田政権から今日の岸田政権に至る、宏池会出身の首相がつくった5つの政権を振り返ったものだ。著者は大平正芳の首相番や宏池会の担当などを務めたが、宏池会にはある種の共同幻想ともいうべきイメージが定着しているという。それはハト派、軽武装、護憲派、リベラル、経済重視といったもので、右・左という区分でいうなら自民党の左に位置する、という見方だ(本書3頁)。  それに対して、著者は政策の「ギアチェンジ」こそが宏池会政権の特徴と見る。安保闘争によって退陣した岸内閣のあとに総理にな

    • OBサミットの真実

       本書は世界の首相・大統領経験者たちが議論し、政策提言を行う「インターアクション・カウンシル」、通称「OBサミット」の記録である。著者はOBサミットを立ち上げた日本の元首相・福田赳夫の通訳兼、OBサミットの事務局責任者を務めていた。  福田がOBサミットを創設したのは、総理大臣経験者として現役首脳の限界を知っていたからだ。現役の指導者たちは自国の国益を優先し、現在直面する短期的な国内問題の対処に追われているため、長期的・国際的な視点に立って政策を実行することが難しい。そこで

      • Z世代のアメリカ

         本書はZ世代という切り口からアメリカを描いている。Z世代とは1997年から2012年の間に生まれた若者たちで、アメリカの人口の約2割を占めている。いまアメリカが直面している大きな変動も、Z世代を抜きに語ることはできない。  Z世代の姿勢や考え方は、上の世代のアメリカ人と大きく異なっている。たとえば、Z世代はアメリカの対外介入に否定的だ。ある調査で「中東・アフガニスタンでの戦争は時間、人命、税金の無駄遣いであり、自国の安全には何の役にも立たなかった」と回答したZ世代は7割に

        • ワグネル プーチンの秘密軍隊

           ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を率いるエフゲニー・プリゴジンの反乱は、わずか1日で終息した。日本を含め西側のメディアや識者は当初、これでプーチン政権が瓦解するかのような騒ぎっぷりだったが、彼らの見立ては誤りだった。それは、ワグネルとは何かということを理解していなかったことも大きいだろう。  本書はワグネルについて論じた、日本語で読める数少ない文献の一つである。著者のマラート・ガビドゥリンはワグネルの元指揮官で、シリアなどで任務についていた。  ガビドゥリン自身はロシア

        宏池会政権の軌跡

          戦後日本政治史 占領期から「ネオ55年体制」まで

           永田町では解散風が吹き荒れている。自民党と公明党の対立が激化しているため、解散は先送りされるとの観測もある。しかし、いつ選挙があろうが、現在の野党の体たらくを見れば、与党の勝利は揺るがないだろう。自民党が万年与党化し、立憲民主党が万年野党化している昨今の状況は、55年体制を思い起こさせる。  本書はイデオロギー対決という観点に基づき、戦後政治史をたどっている。戦後、自民党と社会党は憲法や防衛政策をめぐって激しく対立したが、これが著者の言うイデオロギー対決だ。その上で、著者

          戦後日本政治史 占領期から「ネオ55年体制」まで

          この父ありて 娘たちの歳月

           本書は石牟礼道子や茨木のり子など、9人の女性作家たちの人生を父親との関係を通して描いたものだ。なかでも印象的だったのは、渡辺和子と齋藤史である。  和子の父・渡辺錠太郎は陸軍で教育総監を務めていたが、青年将校たちに銃撃され、和子の前で惨殺された。二・二六事件である。  これに昭和天皇が激怒し、二・二六事件は鎮圧されたが、この青年将校たちを援助したとして投獄された一人が、齋藤史の父・齋藤瀏だった。刑死した青年将校の中には史の幼なじみもいた。  和子は長じてクリスチャンと

          この父ありて 娘たちの歳月

          ケアする惑星

           最近「ケア」という言葉をよく耳にするようになった。一言で言えば、他者を思いやる精神のことだ。育児や介護などが「ケア労働」と呼ばれている。日本ではこれらは主に女性が担っているが、社会的価値は低いと見られており、まだまだケアについて十分に理解されていない状況だ。  本書は様々な文学作品を読み解き、ケアについて論じたものである。なかでも興味深いのは、戦争とケアの関係を論じた箇所だ。先の戦争で日本の女性は「銃後の守り」を担った。これもケアに見えるかもしれないが、ケアは本来的に他者

          ケアする惑星

          党首選出と安保政策をめぐる攻撃にこたえる 憲法の「結社の自由」をふまえて

           統一地方選を前にして、日本共産党が党首公選制を呼びかけていた党員の松竹伸幸氏を除名処分した。これに対して、朝日新聞が社説で「国民遠ざける異論封じ」と批判するなど、共産党批判が相次いだ。  確かに、異論を一方的に封じることは決して許されることではない。しかし、共産党側の言い分を聞かずに批判するなら、それもまた「異論封じ」であろう。そこで、ここでは共産党の主張に耳を傾けてみたい。  本書は、この間行われた批判に対する共産党の反論である。共産党の主張を簡単にまとめれば、松竹氏

          党首選出と安保政策をめぐる攻撃にこたえる 憲法の「結社の自由」をふまえて

          人権出でて、資本主義始まる

          座頭市とは何者か  今回は少しだけ寄り道をして、最近読んだ本の感想を書きたい。  それは『被差別部落の真実2 だれが部落民となったのか』(小早川明良、にんげん出版)という本の話である。著者の小早川氏は「社会理論・動態研究所」の理事・研究員であるが、本書では単に被差別部落の歴史や現況を語るのみならず、それをフーコーやマルクスの社会科学理論から照射することで、江戸時代の被差別民の集落と、近代以後の被差別部落は連続したものではないという「驚きの真実」を明かしておられる。  言

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          岸田ビジョン 分断から協調へ

           本書は元外務大臣の岸田文雄・自民党政調会長の初の著書である。総理大臣を狙える位置にいる政治家は、少なくとも一冊は本を書いているものだが、これまで岸田氏には著書がなかった。そのため、岸田氏が政治家としてどのような理念や政策を持っているかがわかりづらかった。その意味で、本書はまさに待望の一冊と言える。  岸田氏は本書で、「聞く力」の重要性を訴えている。国民の代理として国政に参加している政治家たちは、なによりもまず国民の声に耳を傾ける必要がある。その上で、国民の声を実現していく

          岸田ビジョン 分断から協調へ

          政治家の責任

           本書は第二次安倍晋三内閣の不祥事を取り上げ、書名の通り「政治家の責任」を追及している。試みに、いくつか引用してみよう。  《私は当時、民主党政権の節操のなさにあきれたものだった。まさかその後、政治の立て直しを期待されて復活した自民党政権のもとで、国会での虚偽答弁や公文書の改ざんといった前代未聞の不祥事が起き、しかもそれについて政治の側ではだれもが責任をとるものがないという光景を目にするとは、想像もしていなかった。責任をとるべき政治が逃げ回り、問題の処理を官僚に押し付けると

          政治家の責任

          ナポレオン出でて、参謀本部なる

          ドイツ国防軍神話とは何か 友人の野村君が教えてくれた『ドイツ参謀本部』(渡部昇一)だが、一晩で一気に読むほど面白かった。  ドイツといえばナチスというイメージがあるが、実際に第二次大戦で戦ったのはドイツ国防軍である。このドイツ国防軍とヒトラーの関係はかならずしも良いものでなかったのは有名な話である。  プロの軍人たちから見れば、いかに総統といえども軍事に関しては素人同然だ。たしかにフランス、イギリスなどの大国と駆け引きをしながら、ポーランド進駐を成し遂げた外交力は大したも

          ナポレオン出でて、参謀本部なる

          俺の上には空がある広い空が

           著者の桜井昌司氏は、1967年に強盗殺人事件の容疑者として逮捕され、78年に無期懲役が確定した。しかし、物証はなく、取り調べでは自白の強要が行われていた。いわゆる布川事件である。桜井氏は再審請求を行い、11年に無罪を勝ち取った。  私は以前、同じく無実の罪で逮捕された村上正邦氏が主催する会で、桜井氏とお会いしたことがある。明るい人柄が印象的だった。20歳から冤罪と戦い続け、29年間も獄中で過ごすという経験をしながら、なぜこれほど前向きなのかと驚いた。  本書にはその答え

          俺の上には空がある広い空が

          渡部昇一先生と論語

          書籍編集は職人の世界 さて前回では、私の上司になった打田良助編集長は「出版意義」の人であると同時に、ベストセラーの人であったことを紹介したわけだが、実は私は打田さんが編集長を務めるNON BOOK編集部に一週間だけ、新人研修で配属されたことがあった。  新人研修といっても、雑誌が編集長の命令のもと、編集部員が分業で記事を受け持つのに対して、書籍は基本、一冊の本を一人の担当者が最初から最後まで受け持つ。しかも企画立案から一冊の本が世に出るまでには、下手をすれば数年かかる、とい

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          狂犬ポチとの出会い

           「ネトウヨ」と呼ばれる人々が雲霞のごとくに現われたのは、二十一世紀に入ってからの現象である。彼らは自分たちを愛国者である、保守であると称して憚らないが、しかし、彼らが台頭する前に、世の「空気」に抵抗し、孤塁を守ってきた保守の言論人たちがいたという事実をどれだけ知っているだろうか。答えは言うまでもなく、「否」である。  本連載は、ここ四半世紀の「保守論壇」の変遷を目の当たりにしてきた一編集者の回顧録である。  といっても、筆者は出版界の一隅にて、ようやく生きながらえてきた

          狂犬ポチとの出会い

          青木理 警察に政治がコントロールされる

          警察の権限を拡大する安倍政権―― 安倍政権を支えてきた組織の一つに警察があります。彼らが政治に対してもっと中立的であれば、安倍政権が5年も続くことはなかったはずです。青木さんは『日本の公安警察』(講談社)で公安警察の実態を明らかにしていますが、なぜ彼らは政治的な動きをするようになったのですか。 青木 公安警察という存在自体、そもそも政治的な色彩の強い思想警察なわけですが、戦後の公安警察は長らく「反共」をレゾンデートル(存在意義)としてきました。「泥棒や人殺しの一人や二人捕ま

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