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閲微草堂筆記(165)やるべきこと

巻二十 やるべきこと
 楊槐亭先輩が言うことには、彼の田舎に官職を務め上げて退職し、故郷に戻って来た者がいた。終日扉を閉ざして休息と静養につとめ、外の出来事はまるで気にも留めず、隠居生活をすこぶる楽しんでいた。ただ唯一、跡継ぎがいないことだけが悩みの種だった。

 その後、晩年になって息子を授かり、彼はその子を殊更にかわいがった。
 ある時、その子が疱瘡に罹り、非常に危険な状態になった。彼は労山に先を予知することのできる道士がいると聞いて、自ら足を運び門を叩いた。
 道士はおおいに笑いながら言った。

「ご子息にはまだやるべきことが残っております。どうしてすぐに死ぬことがありましょうか。」

 その言葉の通り、その後よい医者と巡り合い息子は快方に向かった。
 しかし、その後息子は放蕩の限りを尽くし、家の産を破ることになってしまった。浮浪人の身の上へとなり下がり、ついに家は断絶した。
 同郷の人々はこれについて論じて言った。

「この老人は、罪に問われることもなければこれといった名声を得ていたわけでもない。ただ子供を授かるべきではなかったのだ。それにしても、彼はただの冴えない寒士(貧しい読書人)であって、県令を務めていたのも十年に過ぎなかったのに、役人としての稼ぎは数万両を超えていた。その富を築く道のりに何か人に知られてはならないようなことがあったのではないか。」

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