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ノーベル賞(自然科学系)解説

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2023年ノーベル化学賞 「量子ドットの発見と開発」

2023年のノーベル化学賞は「量子ドットの発見と開発」に贈られました(タイトル画像はノーベル賞公式サイトより引用)。 受賞したのは、マサチューセッツ工科大のムンジ・バウェンディ氏、コロンビア大のルイス・ブルース氏、米民間企業のアレクセイ・エキモフ氏です。 量子ドットとは、もの凄く簡単に言うと「とても小さな半導体結晶や金属の粒子」のことです。 量子ドットはその大きさによって色が異なるという特徴を持っています(物質がナノのサイズになると、量子現象が起きるため)。 今回の受賞者は

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2022年ノーベル化学賞 ~クリックケミストリーの開発~

2022年のノーベル化学賞は「クリックケミストリーの開発」に対して贈られました。 受賞したのはスタンフォード大学のキャロライン・ベルトッツィ氏、コペンハーゲン大のモーテン・メルダル氏、米スクリプス研究所のバリー・シャープレス氏です。 バリー・シャープレス氏は2001年の「不斉酸化触媒の開発」に続く、2度目のノーベル化学賞受賞です。 ノーベル化学賞を2度受賞したのは史上二人目となります。 クリックケミストリーとは、簡単かつ安定な化学反応で複雑な分子を作る手法のことです。

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化学ニュースピックアップ vol.14 ~2021年ノーベル化学賞の深堀~

今回は、先日ご紹介したノーベル化学賞をより詳しく解説します。 多少、誤字脱字やおかしな表現がありましたが、後で修正しています(^^;) 化学式を省略した内容にしたので、今回は化学式も交えて解説します。 加えて、関連する2001年のノーベル化学賞についても触れます。 不斉合成 従来は金属と酵素だけだった化学反応の触媒に、新たに有機触媒を加えたのが今回の受賞者の功績です。 シンプルかつ安価、重金属よりも環境に悪影響を与えない、しかも反応効率に優れているという夢のような触媒で

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2021年ノーベル化学賞 ~有機触媒反応の開発~

2021年のノーベル化学賞は「分子を作るための新しいツール=有機触媒反応の開発」に贈られました。 受賞したのはドイツのベンジャミン・リスト氏(ケルン大学名誉教授、北海道大学 化学反応創成研究拠点 主任研究者)とアメリカのデイヴィッド・マクミラン氏(プリンストン大学教授)です。 向かって左から、ベンジャミン・リスト氏、デイヴィッド・マクミラン氏 (ノーベル賞公式サイトより) 今回は化学の王様「有機合成化学」分野からの受賞です。 有機合成化学は久しぶりで、2010年のクロス

2021年ノーベル物理学賞 ~気候や複雑な現象に隠されたルールの発見~

2021年のノーベル物理学賞は、「複雑系の理解への画期的な貢献」に対して授与されました。 受賞したのはアメリカの真鍋淑郎氏(Shukuro Manabe)、ドイツのクラウス・ハッセルマン氏、イタリアのジョルジョ・パリシ氏の三名です。 向かって左から真鍋淑郎氏、クラウス・ハッセルマン氏、ジョルジョ・パリシ氏(ノーベル賞公式サイトより:https://www.nobelprize.org/) 今回のテーマはかなり分り難いので、具体的な受賞理由を見てみましょう。 真鍋淑郎、クラ

2021年ノーベル医学・生理学賞 ~温度と触覚の受容体の発見~

2021年のノーベル賞は「温度と触覚の受容体の発見」に対して贈られました。 とても身近なテーマですね。 受賞したのは、アメリカのデビッド・ジュリアス氏、同じくアメリカのアーデム・パタポーティアン氏です。 2人ともカリフォルニア工科大学です。 デビッド・ジュリアス氏(向かって左)、アーデム・パタポーティアン氏(ノーベル賞公式サイトより:https://www.nobelprize.org/) 熱さや冷たさ、風が体にあたる感覚、痛みの感覚。 これらは、私たちが普段感じている当

体内時計(概日リズム)の秘密

生命の多くは、地球の自転に合わせて規則正しく活動します。 そして、そのための体内時計を持っています。 体内時計の存在は以前から知られていましたが、どのように機能しているのかは謎でした。 この謎に挑戦した ジェフリー・ホール、マイケル・ロスバッシュ、マイケル・ヤングの3人(米国)は、体内時計(概日リズム)のメカニズムを解明し、2017年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。 受賞理由は「概日リズム(がいじつリズム)を制御する分子メカニズムの発見」です。 この発見により、動植

人名反応とクロスカップリング

化学反応には人名がついているものが数多くあります。 日本の高校化学までで登場するのはごく僅かですが、大学以降ではこれでもかと言うほど沢山の人名反応が出てきます。 特に有機合成化学を仕事にしている人は、膨大な数の人名反応を扱うことが多いと思います。 僕も一時期、有機合成化学を仕事でやっていましたが、あまりにも多くの反応を扱うため、新たに有機合成反応や人名反応の本(分厚いです...)を購入して勉強しました。有機合成は専門外でしたが、そんなことは言い訳になりませんw 反応の開発

2020年ノーベル化学賞(ゲノム編集法の開発)

今年のノーベル化学賞は「ゲノム編集法の開発」に贈られました。 受賞したのはドイツのマックス・プランク感染生物学研究所のエマニュエル・シャルパンティエ氏、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ氏の二人です。 向かって左がエマニュエル・シャルパンティエ氏、右がジェニファー・ダウドナ氏(ノーベル賞公式サイトより) *女性として史上6人目と7人目のノーベル化学賞受賞者になりました。 ゲノム編集による革命 2012年、生命科学に革命を起こしたゲノム編集は、

2020年ノーベル物理学賞(ブラックホールの発見)

今年のノーベル物理学賞は「ブラックホールの発見(宇宙の暗黒の謎)」に対して贈られました。 受賞したのは イギリス・オックスフォード大学のロジャー・ペンローズ氏、 ドイツ・マックスプランク研究所のラインハルト・ゲンツェル氏、 アメリカ・カリフォルニア大学のアンドレア・ゲッズ氏 以上の三人の研究者に贈られました。 向かって左からロジャー・ペンローズ氏、ラインハルト・ゲンツェル氏、 アンドレア・ゲッズ氏(ノーベル賞公式サイトより) 宇宙で最もエキゾチックな現象の一つであるブラッ

2020年ノーベル生理学・医学賞(C型肝炎ウイルスの発見)

今年のノーベル生理学・医学賞は、米英の3氏に贈られました。 受賞理由は「C型肝炎ウイルスの発見」です。 米国立衛生研究所(NIH)のハーベイ・オルター名誉研究員、米ロックフェラー大学のチャールズ・ライス教授、カナダ・アルバータ大学のマイケル・ホートン教授の3氏です。 ノーベル賞公式サイトより(https://www.nobelprize.org/) *タイトル画像も公式サイトから引用(Illustrations: © The Nobel Committee for Phy

タンパク質分析の革命 ~不可能を可能にした分析技術の発明と開発~

2002年のノーベル化学賞は「生体高分子の分析手法と構造解析の開発」に贈られました。 受賞したのは日本の田中耕一氏、アメリカのジョン・ベネット・フェン 博士、スイスのクルト・ビュートリッヒ博士の3名でした。 分野は分析化学ですね。 そして、関連の強い1991年のノーベル化学賞も合わせて解説します(こちらは後半でご紹介します)。 田中耕一(Wikipedia)、現在は株式会社島津製作所シニアフェロー、田中耕一記念質量分析研究所所長、田中最先端研究所所長などを務めています。

フラーレンとサッカーボール ~炭素ボールの予測と発見~

その構造を見ただけで興味が出てくる不思議な物質。 1996年のノーベル化学賞は「フラーレンの発見」に贈られました。 受賞したのはアメリカとイギリスの3人の化学・物理学者。 リチャード・スモーレーとハロルド・クロトー、ロバート・カールの3氏です。 ハロルド・クロトー(Wikipedia) ロバート・カール(Wikipedia) リチャード・スモーレー(Wikipedia) 炭素にはグラファイトとダイヤモンドという同素体が存在します。 同素体は、同じ元素から構成される物質

準結晶とダン・シェヒトマン ~第3の固体とアラベスク~

2011年のノーベル化学賞は、多くの化学者を驚かせました。 受賞したのはイスラエルの物理学者ダン・シェヒトマン。 受賞理由は「準結晶の発見」 単独受賞でした。 内容は化学というより物理学。シェヒトマン自身も物理学者です。 ダン・シェヒトマン(2011年ノーベル化学賞受賞のプレスカンファレンスにて Wikipedia) 実用化された研究が選ばれることの多い化学賞ですが、準結晶の発見という基礎研究に対して贈られるのは珍しいことです(基礎研究を確立した人と、応用した人のセットが