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クロマトグラフィーとは?

以前、ペーパークロマトグラフィーのやり方をご紹介しました。
今回は改めて、クロマトグラフィーの意味や原理について詳しく解説します。

クロマトグラフィーは、物質間の相互作用や重さなどを利用し、分離・精製する分析手法 or 精製手法です。
以下の図のように、物質を移動相によって運び、固定相への吸着などによって分離します。

水性ペンのインクを分離するペーパークロマトグラフィーなら、移動相は水固定相は紙(コーヒーフィルター)です。

クロマトグラフィーは、ロシアの植物学者ミハイル・ツヴェットが発見した手法です。
植物色素の分離に使いました。
具体的には、クロロフィルなどの葉緑素を分離しました。
そこで、ギリシャ語のChroma(色)とGraphos(記録)から、クロマトグラフィーと名付けます。
実は、ツヴェットはロシア語で「色」という意味を持ちます。
こんな偶然もあるんですね。

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分離したクロロフィル(中央の濃い緑:Wikipedia)

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ツヴェットの行ったクロマトグラフィー(https://www.hitachi-hightech.com/hhs/products/tech/ana/lc/basic/lc_course1.html)

ツヴェットは上図のように、炭酸カルシウムの粉末を充てんしたガラス管を用意し、そこに植物から抽出した液体を石油エーテルで流しました
炭酸カルシウムへの吸着のし易さによって成分が分離したんですね。

最初、クロマトグラフィーは大雑把な分析しか出来ないと考えられ、あまり広まりませんでした。
植物色素の研究で1915年にノーベル化学賞を受賞したリヒャルト・ヴィルシュテッターは、クロマトグラフィーを上手く使えなかったようです。
しかし、ヴィルシュテッターからドイツ語訳したツヴェットの本を受け取ったリヒャルト・クーン(1938年ノーベル化学賞)と、エドガー・レデラーによってクロマトグラフィーは改良されます。

クロマトグラフィーによってカロテノイドやビタミンを分離したリヒャルト・クーンは、その功績によってノーベル化学賞を受賞します。
彼は世界で初めてビタミンBの単離に成功したんです。
その後、クロマトグラフィーは重要な分析手法と認識され、広く使われるようになります。

現在、クロマトグラフィーには複数の手法があります。

液体クロマトグラフィー
ガスクロマトグラフィー
薄層クロマトグラフィー
カラムクロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィー(ゲル浸透クロマトグラフィー)

大きく分けるとこの5つになります。

全てのクロマトグラフィーに共通するのは、移動相と固定相によって物質を分離するという点です。

例えば、以前ご紹介したペーパークロマトグラフィーによる水性インクの分離は、移動相が水固定相が紙(コーヒーフィルター)です。

物質が移動相にのって移動し、固定相との親和性などで物質に含まれる成分が分れます。固定相に吸着し易いものはあまり移動せず、逆に固定相との親和性が低いものは遠くまで移動します

ほとんどのクロマトグラフィーは、移動相に液体を使います。
ガスクロマトグラフィーだけは、移動相が気体なんです。

固定相はシリカゲルや高分子、珪藻土などが使われます。

一番シンプルなのがカラムクロマトグラフィーです。
ツヴェットの行った葉緑素の分離がそうですね。
ガラス管などにシリカゲルなどを詰め、上から試料を液体で流して分離します。

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カラムクロマトグラフィーの模式図=移動相(液体)を流し続けると、試料が分離しながら流れていく(https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/category/01342.html)

ちょうど、富士フィルム和光純薬のHPにクロロフィルを分離する様子が掲載されていました。

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分離した色素の境界を見極め、カラムの下から出てきた成分を複数のビーカーに受けて集めます(https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/category/01342.html)

他のクロマトグラフィーも、基本はカラムが装置の中に入っているので、原理は同じです。
違うのは、カラムから出てきた成分を検出器で検知するという点です。

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液体クロマトグラフィーの仕組み(https://www.jcpa.or.jp/qa/a2_16.html)

図の右端にあるように、横軸が時間のグラフが得られます(縦軸は強度)。
カラムから出てきた物質が、検出器で紫外光や赤外光を吸収するとピークが出てきます。そのピークの強度と、ピークの検出された時間が記録されるわけです。

また、サイズ排除クロマトグラフィーは、その名の通り物質のサイズによって分離します。
固定相が液体を含んだ高分子微粒子のため、一般的にはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)と呼ばれます(この記事ではサイズ排除で呼ぶことにします)。
以下の図のように、ゲル微粒子の穴よりも小さな物質はゲルに捕捉され、大きな物質は補足されずにどんどん移動します。

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サイズ排除クロマトグラフィーのイメージ(東ソー技術資料:http://www.tosoh-arc.co.jp/technique/GPCtechrepo.html)

サイズ排除クロマトグラフィーは、主に高分子の分析に使われます。
分子鎖の長い高分子ほど大きな塊になり、ゲルの穴に入り難くなります。
一方、分子鎖が短いと塊の大きさも小さくなり、穴に入り易くなります。
そして以下の図のように、カラムを通った高分子は検出器に到達します。
つまり、この検出器にたどり着いた時間の違いで、高分子の長さ(正確には分子量)の分布を知ることが出来るんです。
分子鎖の長い高分子はゲルの穴に入り難いので、基本的には早く検出器に到着します。

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サイズ排除クロマトグラフィーの模式図(東レリサーチセンター:https://www.toray-research.co.jp/technical-info/analysis/material-properties/mat_007.html)

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分析結果の例(左がサイズ排除クロマトグラフィー、右が液体およびガスクロマトグラフィー)

かなりアバウトな図ですが、サイズ排除クロマトグラフィー(GPC)は山なりのピークが得られます。
高分子の分子の長さ(分子量)は不揃いな上に絡み合いも起きるため、GPCの精度は高くありません(高分子がゲルの穴に詰まり、うまく分離できなくなることもあります)。
そのため、GPCの測定結果は参考にする程度です。
化学に関わる人でも、思い込みで分子量をGPCで正確に測定しようとしたり、高い精度を要求する方が居ます。
分析手法の原理と精度を理解していないと、間違った結果を得ることになります。

液体クロマトグラフィー(LC)とガスクロマトグラフィー(GC)は図の右側のように、鋭いピークが出てきます。
どのピークが目的物なのか、不純物なのかを見極める必要があります。

こんな風に、クロマトグラフィーは様々な物質を分離し、分析することが可能な分析手法です。
最も広く使われている分析の一つだと言えます。
食品や化粧品の分析にも使われているので、私たちが普段接しているものも、クロマトグラフィーを活用したものが沢山あると思います。

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