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2022年ノーベル化学賞 ~クリックケミストリーの開発~

2022年のノーベル化学賞は「クリックケミストリーの開発」に対して贈られました。

受賞したのはスタンフォード大学のキャロライン・ベルトッツィ氏、コペンハーゲン大のモーテン・メルダル氏、米スクリプス研究所のバリー・シャープレス氏です。


向かって左からキャロライン・ベルトッツィ氏、モーテン・メルダル氏、バリー・シャープレス氏(https://www.latimes.com/world-nation/story/2022-10-05/nobel-chemistry-prize)

バリー・シャープレス氏は2001年の「不斉酸化触媒の開発」に続く、2度目のノーベル化学賞受賞です。
ノーベル化学賞を2度受賞したのは史上二人目となります。

クリックケミストリーとは、簡単かつ安定な化学反応で複雑な分子を作る手法のことです

「化学反応で目的の分子を作る」ことは、簡単ではないんです
試薬に混入している不純物が反応して意図しない物質になったり、不純物が反応自体を邪魔したりします。
他にも、水や酸素などが反応の障害になります。
つまり、試薬の精製や実験器具の乾燥、温湿度の管理、酸素を混入させない(窒素などの不活性ガス中で反応させる)などの工夫やテクニックが必要になります。
反応してできた物質に不純物が多く含まれていれば、精製する必要があります(この精製がとても大変なんです……)
しかし、それらの工夫やテクニックなしに、試薬を混ぜただけで目的の分子が高純度で出来たとしたらどうでしょうか?
そんな夢のような化学反応がクリックケミストリーなんです。

つまり、クリックケミストリーは難しい化学反応をより簡単にしたわけです。
クリックケミストリーは、反応が素早く起こり、不純物が発生しない、シンプルで優れた手法なんです。
2つの分子の結合部分をカチッと合わせただけで分子が出来る、という考え方から「クリックケミストリー」と名付けられました。
バリー・シャープレス氏とモーテン・メルダル氏は、このクリックケミストリーの基礎を築いた人です。
キャロライン・ベルトッツィ氏は、クリックケミストリーを進化させ、生物への応用を行いました。

バリー・シャープレス氏は2000年頃、クリックケミストリーという概念を生み出します。
その後まもなく、モーテン・メルダル氏とバリー・シャープレス氏が、それぞれ独立して、現在のクリックケミストリーの王道といえる「銅触媒によるアジド・アルキン環化付加反応」を発表しました。
この反応はとても優れていて、現在では広く利用されています。医薬品の開発、DNAマッピング、材料開発など、さまざまな用途に利用されています。

銅触媒によるアジドとアルキンの付加反応の模式図:図のように、カチっと音がするように簡単に反応が起きる(https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2022/summary/)

キャロライン・ベルトッツィ氏は、クリックケミストリーを新たな次元に押し上げました。
細胞表面の重要な生体分子である糖鎖をマッピングするために、生体内で作用する反応を開発したんです。この反応は、細胞の活動を乱すことなく行う事ができます。
この反応は現在、細胞の探索や生物学的プロセスの追跡のために世界中で利用されています。例えば、がん医薬品の改良に使われ、臨床試験が行われています。

副反応の少ない、簡単な反応で分子を作れるという事は、製造時のコストを下げ、地球環境への負荷も少なくなるという事です。
クリックケミストリーによって多くの機能性分子が作られ、私たちの生活はより良いもになりました。

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