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強くて速い、透明なハイドロゲルハンド(水流式)

マサチューセッツ工科大学(MIT)で研究されているゲルアクチュエータ(アクチュエータ=駆動力)。
ゲルのアクチュエータは刺激応答性ゲル(電場や温度・光に応答して動くゲル)を使うのが主流ですが、MITで研究されているのは異なるタイプです。
中が空洞のゲルに水を流して動かします。
以下の動画では、開発されたゲルハンドが金魚を素早く掴んで離す様子を見ることが出来ます。

柔らかいハイドロゲルを使っているため、素早く金魚を掴んでも、金魚を傷つけることはありません。そこがこのゲルハンドの素晴らしいところです。
さらに、使用しているゲルは透明で、動画の後半(魚の形をしたゲル)で分かるように、背景に色の変化が無いと肉眼ではよく見えません。
つまり、魚などが視認出来ないため、気付かれずに近づくことが出来るんです。
ほとんどが水で出来ているだけでなく、視覚特性と音響特性も水に似ています。

このゲルハンドの研究者は、ウナギの幼生レプトケファルスを参考にしたそうです。レプトケファルスは透明なため、敵に見つかりにくい。そのため、潮に乗って長距離移動しても捕食される危険性が低いんです。
また、流れに逆らって泳ぐ力もある。
そこで、透明でパワーのあるゲルハンドを作ろうと考えたようです。

ほぼ透明なので不思議に感じます。レプトケファルスの体もほとんどがゲルです。

本研究のゲルに使用されているのはポリアクリル酸とアルギン酸ナトリウムです。
ポリアクリル酸は増粘剤としてローションなどに広く利用されている汎用高分子です。架橋したポリアクリル酸ナトリウムは高吸水性樹脂となります(紙おむつや消臭剤などで私たちの生活を支えています)。

アクリル酸

そして、アルギン酸ナトリウムは人工イクラや「つかめる水」に使われている海藻由来の多糖類です。
しかし、単純に二つの高分子を混合しているわけではありません。
アクリル酸とアルギン酸ナトリウムを混合した水溶液を作り、そこに重合開始剤を添加することでアクリル酸をポリアクリル酸にします。
さらに、硫酸カルシウムでアルギン酸を橋架けすることで、強固なゲルにしているんです。カルシウムイオンでアルギン酸のカルボキシル基を橋掛けする、人工イクラと同じ原理ですね。
ただ、ポリアクリル酸もカルシウムイオンで架橋されるため、添加の方法や量に気を付ける必要があると思います。

アルギン酸カルシウム

シンプルに説明するとこのようになります。
実際には、最適なゲル強度や高い透明度を実現するため、試薬量や作り方を細かく調整していると考えられます。
アルギン酸とポリアクリル酸の組み合わせは、上手く調整しないと柔軟性のない硬いゲルになってしまうでしょうね。カルシウムイオンで架橋するなら、なおさらです。

画像3

二つの高分子のネットワークが組み合わさることで、強さと柔軟性を兼ね備えたゲルになっているんでしょうね。

ゲルハンドは3Dプリンターとレーザー加工技術を使って作製したそうです。
3Dプリンターは型作りに使用したのでしょう。

これから先の具体的な展望は示されていませんが、ゲルハンドの最適な用途を探し、その用途に合った物性に最適化するそうです。
水流式とは言え、ゲルだけで出来ているのに素早く動くことに驚きました(ゲルハンドに繋げているチューブはシリコーンです)。
魚の形にして泳がせているのも興味深かったですね。

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