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ジェランガムとフルイドゲル

ジェランガムは、シュードモナス・エロディア(Pseudomonas elodea)という菌 がブドウ糖等の発酵によって作る多糖類です。

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そして、4つの糖分子を繰り返した構造を持っています。具体的には、グルコース2つと、グルクロン酸、L-ラムノースのユニットです。

スケッチ-166.jpg (2)

こんな構造です。
正確には、〔〕内の構造がn個繋がった直鎖状の高分子です。
n=約50万と推測されています。
50万は大きな数に感じますが、多糖類は高分子量のものばかりなので、他と比べるとあまり高くありません。
多糖類の中で最も高いと考えられているのがコンニャクの主成分、グルコマンナンです。
その数200万以上と推測されています。
僕は20種類以上の多糖類を研究で扱ったことがありますが、粘性の高さはグルコマンナンがダントツです。物性面からも、グルコマンナンの分子量の大きさがうかがえます。

ジェランガムのゲル

ジェランガムのゲルは、カラギーナンや寒天(アガロース)、ローカストビーンガムなどのゲル化機能を持つ他の多糖類よりも耐熱性が高いです。その分、溶かす温度も高くなります。

一定濃度以上で、熱湯に溶かして冷やすとゲル化しますが、
乳酸カルシウム等の金属塩を添加して作ると、より強いゲルになります。
そして、LAジェランガムとHAジェランガムという2つのタイプがあります。
タイプによってゲルの状態も変わります。
ゼラチンのように弾力のあるゲルや、耐熱性のある型くずれし難いゲルなどを作る事が出来ます。
今回はLAジェランガムを使いました。

0.5%の水溶液を作って室温にするとゲル化します。
90℃以上で簡単に溶けます。

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ドロドロした柔らかいゲルになりました。

では、加熱した状態で1%の塩化ナトリウム水溶液、1%の乳酸カルシウム水溶液をそれぞれ5~10ml程度加えて混ぜ、冷ましてみます。

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左が乳酸カルシウムを加えたゲル。右が塩化ナトリウムを加えたゲルです。
乳酸カルシウムを加えた方は少し濁っています。寒天のように硬くて脆いゲルです。
一方、塩化ナトリウムを加えた方は無色透明で、とても柔らかいゲルです。

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ゲル化の仕組み

乳酸カルシウムを加えて作ったゲルは、ジェランガムのカルボン酸をカルシウムイオンが橋架けした構造をしています。人工イクラと同じですね(こちらはアルギン酸ナトリウムという海藻由来の多糖類です)。

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豆腐も同じ原理ですね。にがりに含まれるマグネシウムイオンが、タンパク質のカルボン酸を橋架けします(豆腐の場合、塩析の効果も利用しています)。

塩化ナトリウムは違う仕組みでゲル化します。

スケッチ-123.jpg (2)

普段は図の左側のように、カルボン酸の静電反発でジェランガムの分子鎖は広がっています。
ところが、塩化ナトリウムを加えると(COONa)となり、静電反発は収まります。そして分子鎖が近づき、水酸基の間で水素結合ができます。
このようにしてネットワークができ、ゲル化するんです。

フルイドゲル

ジェランガムを溶かして室温にした後、高速で撹拌しながら1%の乳酸カルシウム水溶液を少しずつ加えるとゲルの微粒子が出来ます。

最初ゲル化が進みますが、そのゲルが崩れて細かくなり、水溶液が白濁します。

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この状態をフルイドゲルと呼びます。

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同じ乳酸カルシウムを使ったゲルでも、作り方が違うと別物になります。

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サラサラした液体で、触ってもベタつきません。
化粧品や食品などに応用されています。
フルイドゲル(fluid gel)は英語のfluid(流体、液体)からつけられた名前です。そのまんまですねw

フルイドゲルはジェランガム以外の高分子でも作ることが出来ます。
もちろん、作ることのできる高分子は限られます。
中でも、ジェランガムはフルイドゲルを作り易い高分子だと思います。
ただ、個人では入手し難い上、価格も高いです...

Amazonでは滅多にみかけませんが、楽天市場ではよくみかけます。

ジェランガム 250g(楽天市場):https://a.r10.to/hlizdg

正直、あまりお勧めしません。
ちなみに、関東化学の試薬として販売されています。

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仕事で試薬を扱っていればお馴染みですが、一般的に試薬メーカーの商品を手にする機会は殆どないので、珍しいと思います。
植物組織培養用とあります。
なるほど、そういう用途にも使えますね。

ジェランガムは価格面からお勧めし難いので、
別途、安価な扱いやすい材料を使ったフルイドゲルの作り方をご紹介します。

今月からサークルを始めたので、もしよければご参加ください。


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