見出し画像

御社の「業務プロセス改善」はなぜ頓挫したのか?~第6回 トップの言動が組織文化を左右する~

第5回の記事では、組織文化とその重要性について触れてきました。
今回は、その中でも、トップの言動と組織文化の関係について改めて紹介していきたいと思います。
トップの言動が“因”、組織文化が“果”として、因果関係について客観的に知ることで自社の組織文化を振り返っていただけると幸甚です。

組織文化に影響を与えるトップの言動とは何か

「トップの言動が組織文化の影響を与える」と言われれば、その通りだ!となりますが、それでは、どんな言動が影響を与えるのかを分解して考えてみましょう。

1つ目は、トップが発信する言葉です。
言葉と言ってもいろいろありますが、話している内容はもちろんのこと、その言葉づかい、口調、声の大きさ、表情まですべてが組織文化に影響します。あるいは、言葉と言っても、文字にして文書化することで発信することもあります。そこで使われている言葉や文字、漢字表記なのか平仮名なのか片仮名なのか、「ですます調」なのか「である調」なのか、そうしたこと全てが組織文化に影響を与えるのです。

2つ目は行動です。
トップはどこに行くのか、どんな交通手段で移動するのか、どんな態度を取るのかなど、一挙手一投足が組織文化には影響します。

3つ目は意思決定です。
例えば、新事業に取り組むかどうか、設備投資するか否か、既存顧客との関係性を見直すかどうか、人事の採用/不採用・昇格/降格、どんな人材をどのような基準で評価するのかの人事評価制度、など、何を基準にどのタイミングで判断するのかは従業員に対して示すトップの言動の一つです。

ただし、誰もが万能で聖人君子のような完璧な経営者であるわけではありません。トップの一挙手一投足が組織文化に影響を与えるとはいえ、組織文化は人の性格と同じで必ず表裏の良い面と悪い面があります。良い面は活かし、悪い面を改善するためには、目に見える言動から気を付ける意識があればそれで良いということについては、ここでハイライトしておきます。 

その組織文化は如何にして出来上がったか

実際の事例の中で、良い面と悪い面に関して、それぞれどのようにその文化が出来上がったのかを見ていきましょう。

プレス成型部品メーカーC社(従業員120名)は、技術文書をしっかり残す文化がありました。社内でやり取りする図面は図面が読める人であれば、誰もが同じ解釈ができる図面になっており、設計者がきちんと設計のプロセスが分かる文書を整理してデザインレビューを行っていました。その文書などは、決して丁寧に体裁を整えて作成したものではないため、作成に時間がかかっているわけではありません。それでも、関係者が見ればその思考のプロセスが分かるように書かれていて、そうした資料そのものが企業の技術ノウハウとなって蓄積されていました。「これ作業大変じゃないですか?」と設計者に聞くと、「大変と言えば大変だけど、思考のプロセスを残すことが仕事ですからね」という回答でした。

翻って、ここの社長は何をしているのかを観察していると、常日頃、考えていることを紙にメモをしたり、文章を書いてそれを社内に掲示したりしていました。創業以来20年ずっとスタイルを変えていないと言います。根底には、「書かなきゃ分からないしまとまらないし、見てもらって反応を見ないと良いかどうかも分からない」という考えがあるとのことでした。こうした社長の性格と行動が、企業の組織文化として良い方向に作用した例です。

IT機器メーカーのD社(従業員16名)は、従業員がその場で状況判断することを嫌う文化がありました。得意先に行っても「その件は持ち帰って判断します」と判断を先送りにすることが多く、自らの意思がない従業員に対して社長もストレスを抱えていました。ところが社長の言動はどうかというと、全て自分で状況を把握し、判断しないと気が済まない性格のようでした。「なんでオレがそれを知らないんだ!」「なんでそんなことしたんだ!オレに一言声かけろ!」という言葉も社内ではしばしば聞かれました。それでは従業員が自らの意思でその場で判断する文化など生まれません。創業当初こそ、社長自らが全ての状況を把握して意思決定をしていくことで立ち上がった事業ではありますが、軌道に乗り始めたり規模が少し大きくなるとその文化の悪い面が目立ってしまう事例です。

デジタル化や5Sまでがトップの言動に影響される

トップの言動は、何も大きな組織文化や事業などに影響するばかりではありません。小さなデジタル化や、製造業の基本である5Sなんかにも影響を与えるのです。

例えば、業務効率化のためにITツールを導入するとなったとしても、トップが使い方が分からないから使わないとなればそのツールは企業内の標準にはなり得ないし、社長の机や机周りが散らかっているのに現場の5Sが進むはずもありません。

とあるコミュニティにおいて、それまでは理事などのトップ層がFacebookのMessengerでグループを都度作りながら情報共有をしていましたが、それを若手理事と事務局が中心となってSlack(チャットツール)に変更しようとしていました。ところが年配の発言権を持った理事たちがSlackを使おうとせずに苦手だと思い込み、相変わらず手間がかかるMessengerでやり取りをしているため、ダブルスタンダードになって煩雑になってしまった例もあります。IT導入に伴う業務プロセス改善失敗の典型例の一つです。

機械加工部品メーカーE社(従業員48名)では、「納期と従業員の命とどっちが大切なんですか」と品質監査の場面で問われた社長がハッとし、そこから安全を中心とした5S活動を率先してリードするようになりました。結果として、7年の月日が経った今では、5S巡回や改善提案の仕組みも整い、現場で仕組みが自走しています。相変わらずその推進リーダーは社長の名前になっていて、社長自身も前社長である監査役も、毎週月曜日の8時から8時30分は清掃の時間に充てています。

良い組織文化を築く言行一致の原則


トップの言動が組織文化に昇華する

さて、良い組織文化を築くトップの言動として“言行一致”という共通点があります。平たく言えば、言ってることとやってることが同じ、ということです。上記のC社とE社の事例は正にそうで、社長自身がやっていることを発信し、それを組織文化として浸透させていっています。逆に“言行不一致”になってしまうと、判断基準がブレ、自主的に判断することを止め、延いては言われたことしかしなくなり、閉鎖的な組織文化になってしまいます。

良い組織文化を持つ社長に共通していたのは、やってることを言葉にする、という点です。逆に、言ってることをやらない、社長の会社は閉鎖的です。言霊もあるため言葉に出した方が良いかもしれませんが、できないことややらないことは言葉に出さずに、自然体でやっている良い面を言葉にしていくのが良いのかもしれません。

業務プロセス改善に立ち返ると、特に中小企業の場合は、やはりトップあるいは全権を担うトップ層自らが率先して実施するのが良いです。そして、自らが行っていることを言葉として発信し、意思決定の判断基準に反映し、トップとしての正しい言動を組織文化に昇華させ、業務プロセス改善の推進力にしていっていただきたいと思います。 

次回は、業務プロセス改革だけでなく経営全てにおいて重要な組織文化をどのように変えていくのかを紹介していきます。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?