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流用設計の真髄|トヨタ流開発ノウハウ 第11回


流用設計の落とし穴

  • 設計の仕事を最初に取り掛かる時に最初に検討することはなんでしょうか。かつて私も設計者であった時は必ず実施していた行動です。それは、「流用元を調査、探すこと」です。過去から存在する機能の実現している製品であれば、必ず流用元が存在します。しかし、この「流用設計」は大きな落とし穴が存在します。皆さんはこのような経験はないでしょうか。

  • 流用したのはいいけど、設計の変更点が多すぎて、新規設計する方が楽だった

  • 適切な流用元を選択せずにあとで後悔・・・

  • 不具合・クレームが未解決の流用元を選択してしまい、同じ問題を発生させてしまった

  • 流用元に今回要求されている機能とは必要ない機能が入ったままになってしまった

などなど・・
上記のような内容は設計者であれば、誰でも一度は経験する失敗です。この失敗は設計者が悪いわけではなく、流用設計における仕組みに問題があるのです。

私が考える設計で実施してはならないことは、部品や構成を「マイナス」することです。部品を「マイナス」する時に、単純に部品をマイナスすればいいわけではなく、その部品が保有していた複数の役割を考え、周囲の部品や構造の影響を検討しなければなりません。1つの部品が単一の役割しか保有していないことは少なく、多くは複数の役割を担っているため、1つの部品の「マイナス」で多くの部品へ影響することは必然です。流用設計で設計者が陥る失敗はこの「マイナス」をすることによって発生しているといっていいでしょう。
それでは、この「マイナス」をしないための流用設計の考え方はどのようになっているのでしょうか。考えてみましょう!

流用設計3つのポイント

流用設計するためのポイントは3つあります。

ポイント① 標準の確立

流用設計は過去の製品を流用して設計することではありません。過去の製品には、その時に市場やお客様からの要求が多く含まれており、様々な変更がされています。その変更が今回必要とは限りませんし、過去にどのような変更があったのかを調査するだけでも多くの時間を要してしまいます。過去の製品を流用しようとするからこそ、設計の「マイナス」業務が発生してしまうのです。

そのようなことにならないように、その製品に求められる最低限の機能≒基本機能のみを搭載した「標準」を整備しておくことです。
これは昔から実施されているものの、標準がアップデートされていないために、標準を使用することができず、過去の製品を流用しているという状態が多く見られます。標準は一度作ったら終わりではなく、市場やお客様から要求される基本機能が変更されていくので、標準も常にアップデートしなければなりません。

ポイント② 標準のバリエーション

標準は1つの標準のみで運用できるほど、市場やお客様から要求される機能や性能は単純ではありません。

同じ機能が求められたとしても市場が違えば、使い方が異なるハズです。そのようなことを考えていくと、標準が1つでいいハズがないのは理解いただけるでしょう。多くの企業が実施できていないのは、この標準のバリエーションを正しく揃えることができていないことです。

この標準のバリエーションをそろえていく仕組みが「モジュラー設計」になります。機能は同じでも使い勝手や性能が変わることにより、構造は変わってきます。要求される使い勝手や性能が分かっているにもかかわらず、あらかじめ図面を準備できている企業が非常に少ないのです。ここで設計者が多くの手間をかけてしまっています。今まで経験したことのない要求の場合は新規設計にはなりますが、過去に作成している図面を流用しようにもインターフェースが異なったり、様々な違いにより、図面を小修整しなければならないのです。

設計者以外の部門の人から見れば、簡単な作業に見えるかもしれませんが、1つの部品のインターフェースの変更で済めば簡単ですが、先ほどマイナスの設計の部分で説明したように1つの変更により、他の部品への影響も含めて検討していかなければなりません。

このような「手間」がかからないように標準の構造を変更する内容をあらかじめバリエーションによって揃えておくのです。そうすれば、設計者はお客様からの要求される使い勝手や性能から適切な構造をバリエーションの中から選択すればよくなります。 

ポイント③ オプション体系

オプション体系は標準だけではお客様の要求を満たせない場合に追加される機能です。

自動車でも多くのオプションが存在しています。標準はあくまでも基本機能なので、様々なお客様の要求に答えようとすると必要な仕組みになってきます。自動車で言えば、「走る・曲がる・止まる」の基本機能に加えて、運転支援(衝突安全など)の機能など、市場やお客様が望まれているオプションを準備しておきます。

このオプションの考え方で重要なポイントが2点あります。

(1) セットオプション
市場やお客様から要求されるオプションを全て並べると非常に多くの項目になってきます。多くの項目のオプションからお客様に選んでいただくのも大変ですが、更に大変なのが設計者です。10個のオプションを全て搭載しようとすると単純に足し合わせるだけではできず、構造自体の干渉や機能の重複などが考えられるため、オプションの構造自体を修正していきながら、搭載を検討しなければなりません。ここも多くの設計者が時間をかけているところではないでしょうか。
そのような状態にならないためにもオプションをひとまとめにする=セットオプションを検討してみてください。セットオプションはお客様が選ぶであろうオプションをまとめておくことで、お客様の選択の手間を省きながら、設計の変更を最小限にするための仕組みです。一部のお客様には過剰機能のセットオプションも存在するかもしれません(自動車のオプションも実際そのようなクレームがくることもあります)。
しかし、市場全体を見た時に9割のお客様に満足いただけるセットオプションを造り込むことにより、オプション自体の価格も下げることが可能になってきますし、市場全体を考えた場合のメリットが大きいと考えます。

(2) オプションの標準化・廃止
オプションはいつまでもオプションのままにしておいてはいけません。市場やお客様から要求されなくなったオプションは即刻廃止するべきです。その廃止をしなければいつまでたってもオプション項目が減少することはありませんし、設計者の手間ばかりかかってしまいます。また、メンテナンス部品をいつまでも保有しておかなければならなくなります。
また、廃止の逆の標準化も実施していかなければなりません。多くのお客様が選択されているということはその市場では、オプションに求められている機能が100%必要に変化したということです(自動車のドアミラーも昔はオプションでしたが、今や標準で装備されています)。このような場合は標準に格上げすることにより、設計変更の手間を削減していきます。


皆さん、いかがでしょうか。過去の製品をまだ流用設計しているようであれば、なかなか生産性が向上しません。標準化、標準のバリエーション化、オプション化の3点を検討し、生産性を最大化する仕組みを構築し、付加価値の高い製品設計へ注力をさせてほしいと思います。

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