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設計マネジメントの在り方|トヨタ流開発ノウハウ 第6回

1.導入

私中山はトヨタ自動車の設計者でしたがトヨタを離れてもう10年経ちました。
ここでトヨタ自動車を中から見ているときに感じていたことと、トヨタ自動車を外から見て、改めて感じること。
設計方法や、設計マネジメントの違いについてお話ししていきたいと思います。

私がトヨタ自動車にいる時に常に言われていたことは、「プロになりなさい。一芸が秀でている人間というのは強くなる。社会に貢献が出来る人間になれる。」と言われ続けてきました。
また、こんなことも言われました。
「トヨタ自動車を辞めても、「一流」と認められる人間になりなさい。」と・・・。
もちろん、厳しく指導された時もありましたが、それも今は良い思い出でとして、私という人間を大きく成長させてくれたトヨタ自動車に、本当に感謝しております。

また、退職後に気付いたことが本当に多いと感じます。
特に設計のマネジメント方法についてです。

2.設計マネジメントの課題

私の上司や周りの上司も課題や問題点が発生したときには必ず一緒に悩んでくれます。もちろん、一緒に悩むといっても、上司が答えを出してくれるわけではありません。答えの方向に導いてくれるのです。
特に設計開発は、「1歩下がって2歩進む」といった業務のため、問題点に対処することが日常茶飯事でした。
そんな時に、「頑張って解決してみろ!」ではなく、一緒に考える、一緒に考えるフリをして、部下に考えさせながら、正しい方向に導いてくれるというやり方です。

私は、様々な企業様に訪問させていただいておりますが、設計部門のマネジメントの在り方がトヨタ自動車と大きく異なり、最初は驚きました。
マネジメントは日本語で「管理」と訳されることが多いですが、私はこの言葉は不正解だと思っております。
マネジメントの語源は、イタリア語の「manus」から来ています。「馬を馴らす」などの意味だそうです。そこからマネジメントという言葉ができ、正確な日本語訳は、「うまくやる、どうにかする」といった意味となります。
先ほどの管理とは程遠い意味です。
多くの設計現場では、仕事を部下に丸投げしていますし、もし部下が困っていたら助けるか相談にのるかというと、そうではありません。
部下からの情報の発信がない限り、行動しません。
そのようなマネジメントでは、いつも出図に追われ、ほか部門から多くの文句が出ることでしょう。
本来の設計部門のマネジメント(設計部門に限って言えることではない)とは、部下をうまくコントロールしながら問題を解決し、お客様が満足する製品をアウトプットすることです。

うまくコントロールした結果が素晴らしい製品に結びつかなければ意味がありません。
設計者個人のエゴや設計管理者の怠慢で、結果が出るわけはないのです。

3.本来の設計マネジメント

では、具体的に何を実施するべきなのでしょうか。
設計マネジメントをするために管理者は、現場に降りなければなりません。現場、すなわち設計現場で、何が起こっているのか、どのような問題があるかを肌で感じ、その解決方法を考え、その方向にチームを導いていくことです。
トヨタ自動車の豊田章男会長が、恒例の年頭あいさつで次のような事を言っています。
「トップダウンは、仕事を部下に丸投げすることではない。自ら現場に降りて、自分でやって見せることだ。」
※引用:トヨタイムズ

自らやって見せて、そのやり方手段を部下が理解し、部下はそのやり方に更なる改善を加え、もっと良いやり方に「進化」させる。
このサイクルがトヨタ自動車で根付いているように思いますし、私自身もこのような経験をしてきました。このような設計現場を作るために、管理者は本当のマネジメントを実行しなければならないのです。

4.設計マネジメントにおけるチーム活動

また、もう一つ重要な観点がチームで設計をしていくということです。
今の世の中に排出されている製品で、設計者一人の力だけで創造できるような簡単な製品はありません。様々な知恵を持っているメンバーの衆知を集めなければならないのです。チームを1つにまとめるにはリーダーシップ、まさにマネジメントが必要となります。ただ単に部下1人に仕事を丸投げし、日程の管理をすればいいわけではありません。各設計者の負荷を見ながら、業務分担を適正化し、そのうえで部下を成長させるためのチャレンジ案件を任せる。
しかし、困ったときにはチームで問題を解決するように仕向けていくのです。

5.設計マネジメントのまとめ

長々と説明しましたが、設計部門のマネジメントに求められる役割をまとめると下記のようになります。

① 管理者は設計現場まで降りて、自ら部下の話を聞く。
② 部下からの情報発信のみにとらわれてはいけない。真因は現場にある。
③ 問題解決の答えを言うのではなく、その方向に導き、部下に考えさせる。
④ 初めての仕事の時はやってみせる(説明するだけではダメ)。
⑤ 設計をチームで実行するよう設計者全員にコミュニケーションをとらせる。
⑥ 設計者の業務内容を視える化し、負荷を平準化させる。
⑦ 設計者育成のためにチャレンジ案件を任せる。
⑧ 問題があればチームで解決できるよう話し合う機会を設ける。

皆さん、いかがでしょうか。
働き方が多様化している中だからこそ、マネジメントが重要だといわれる時代になりました。
これからの日本の製造業が躍進できるかどうかは、ミドルクラスのマネージャーの皆さんにかかっています。
今一度、マネジメントの手法を見直し、より良いアウトプットが出せる設計チームを構築しましょう。

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