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総合内科専門医/第139問(膠原病)/2019

総合内科専門医試験
2019年度予想

27歳の女性。発熱と左上肢の倦怠感とを主訴に来院した。2週間前から37℃台の発熱が続いていた。市販の感冒薬を内服していたが、改善しなかった。7日前から左上肢の倦怠感を自覚するようになった。3日前から発熱が38℃台となったため受診した。体温38.1℃。脈拍88/分、整。血圧:右上肢92/46mmHg、左上肢64/34mmHg。呼吸数16/分。左頸部に血管雑音を聴取する。橈骨動脈の触知に左右差があり、左が減弱している。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。圧痛を認めない。皮疹を認めない。尿所見に異常を認めない。血液所見:赤血球403万、Hb 10.0g/dL、Ht 30%、白血球10,900(桿状核好中球28%、分葉核好中球47%、好酸球1%、好塩基球1%、単球7%、リンパ球16%)、血小板46万。血液生化学所見:尿素窒素13mg/dL、クレアチニン0.5mg/dL。免疫血清学所見:CRP 11mg/dL、抗核抗体陰性、リウマトイド因子〈RF〉陰性。頸動脈超音波検査の短軸像(左)と長軸像(右)を別に示す。
最も考えられるのはどれか。
a. Behçet病
b. 高安動脈炎
c. 結節性多発動脈炎
d. 顕微鏡的多発血管炎
e. 悪性関節リウマチ

長軸像は総頸動脈


< ここから解答・解説になります >


解答

b
高安動脈炎

試験でのポイント

高安動脈炎は原因不明の難治性大型血管炎ではあるが、近年、FDG-PETによる早期診断の有用性が報告されている。また、2017 年10 月に抗IL‐ 6受容体抗体であるトシリズマブが保険適応となったこともあり、出題されやすい疾患である。

解説

若年女性の発熱と左上肢の倦怠感。血圧が右上肢92/46mmHg、左上肢64/34mmHgと左右差あり。橈骨動脈の拍動も左が減弱している。若年〜中年女性でみられる全身炎症と血圧左右差を認めるため、高安動脈炎を第一に考える。頸動脈超音波検査では、総頸動脈の全周性壁肥厚と狭小化を認めており(マカロニサイン)、矛盾しない所見。
a. 4徴である口腔内アフタ、結節性紅斑、ブドウ膜炎、陰部潰瘍、いずれもみられておらず、否定的。
b. 正しい。
c. 結節性多発動脈炎も細血管の障害。
d. 顕微鏡的多発血管炎はc・eよりもさらに細い血管の障害。
e. 悪性関節リウマチでは高安動脈炎と比べ、細い血管が障害される。鎖骨下動脈クラスの太い血管が障害される病態ではない。

高安動脈炎の疫学

高安動脈炎は大型血管に慢性的な炎症を呈し、血管内腔の狭窄や閉塞もしくは拡張を引き起こす炎症性自己免疫疾患である。1908年に高安右人によって世界で初めて報告され、20歳代を発症のピークとして1:9の割合で女性に多くみられる。発熱や倦怠感といった全身症状とともに罹患動脈の虚血障害に伴う多彩な臨床症状を呈する。発症機序としては、遺伝的要因を背景に、感染などの環境要因がきっかけとなり、大動脈を主体とした弾性動脈が自己免疫機序により破壊されると推定されている。総頸動脈および鎖骨下動脈病変の割合が他国と比べ有意に多いとも報告されている。症状として、全身症状のほかに頸動脈や鎖骨下動脈といった大動脈弓分枝血管病変を有することが多いため、頭頸部症状(頭痛、めまい、失神発作、片麻痺、咬筋疲労)が約 48%と高い割合で認められる。また、約 40%の症例で高血圧症を伴い、脳血栓 3.7%、脳出血 0.9%、脳虚血発作 13.1%と脳血管障害の合併も多くみられる。

治療

高安動脈炎の血管狭窄は、脳梗塞、虚血性心疾患などの重篤な臓器梗塞を引き起こすことが知られており、患者の生命予後に大きく関与する。治療は抗血小板薬に加え、ステロイド薬が第一選択であるが、ステロイド抵抗例や、いったん寛解に至る も再燃する症例が認められる。しかし、免疫抑制薬の併用においても治療に難渋する症例が認められ、近年、そのような難治性の TA に対し、2017 年10 月より抗 interleukin‐6(IL‐ 6)受容体抗体であるトシリズマブの皮下注射製剤が適応となった。

関連問題

医師国家試験2023
32歳の女性。発熱、めまい、全身倦怠感を主訴に来院した。半年前から37℃前後の微熱が持続し、全身倦怠感やめまいも生じてきた。総合感冒薬を内服したが、症状が改善しないため受診した。既往歴と家族歴に特記すべきことはない。血圧は右上肢120/62mmHg、左上肢80/40mmHg。頸部から左鎖骨上窩にかけて血管雑音を聴取する。心音は胸骨左縁第3肋間を最強点とするLevine 2/6の拡張期雑音を聴取する。呼吸音に異常を認めない。赤沈85mm/1時間。血液所見:赤血球360万、Hb 10.8g/dL、白血球9,600(桿状核好中球10%、分葉核好中球70%、好酸球1%、好塩基球1%、単球4%、リンパ球14%)。心電図と胸部エックス写真に異常を認めない。三次元造影CTを別に示す。
最も考えられるのはどれか。
a 大動脈縮窄症
b サルコイドーシス
c 大動脈弓部大動脈瘤
d Stanford A型大動脈解離
e 高安動脈炎〈大動脈炎症候群〉



解答

e

参考

高安動脈炎の遺伝疫学的解析による病態解明〔日本内科学会雑誌, 108 (4) 791-797, 2019〕

膠原病・リウマチ疾患における‌抗サイトカイン療法~update~〔日本内科学会雑誌,108 (3) 393-400, 2019〕

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