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地味な彼女をプロデュース(0):素人が源氏物語を読む~花散里~

源氏物語のなかのナンバーワン・ブサカワ地味ガールは花散里でありましょう。出てくる姫たちほぼ全員セレブリティでそれぞれに華やか。存在感の薄い花散里は、 令和のワーキングクラスの私たちにとってもっとも身近な存在だと言えそうです。存在感が濃くないほうが多数派ですよ。

◆地味な彼女をプロデュース。予告。

で、この地味な女はアレンジによって、存在感の薄さからスルーされてたり、ブサカワなところを強調して親しみやすい女性だったり家庭的なおっとりとした「頼れる妻」であるかのように描かれたりします。

あと、冒頭の桐壺の巻とか、ひとつ前の巻の賢木、あるいは有名な「雨夜の品定め」の場面に比べたら、めちゃくちゃ短いです。え? 落丁してんの? って思うくらい短いです。

短くってアレンジの幅がある。そこで、花散里ちゃんがどんなバリエーションでプロデュースされているのかを、読みくらべてみようと思いました。アレンジする方々は、現在かそれ以降の読み手にとって各人物が魅力的であるようにプロデュースしてきてることでしょう。

というのが、わたくしめの花散里の攻略法です。具体的には次回以降に。

◆「花散里」巻のあらすじ

源氏の大将(光源氏として登場した少年は大将という立場にまで昇進しています)は、権勢を握る政敵=右大臣の娘と、右大臣邸で愛を交わしていたのがバレて政治的にもヤバイことになっています。右大臣を怖れて、大抵の貴族は大将に近づきません。愛されて当然のような彼の人生のなかでは初めての事態です。ここまでは、前回までのあらすじです。

今回のあらすじはここからです。

麗景殿女御は桐壺帝のキサキのひとりでした。寵愛され御子を授かることはなかったけれど、気持ちのいい方という意味で帝は大事にしていました。その帝もお隠れあそばしました。今は源氏の大将が経済的にサポートしています。女御の妹の花散里とは内裏でうっすらと男女の関係があったようです。しかし当時は彼女が妻のひとりとしてカウントされることはありませんでした。花散里は死ぬほど悩んだに違いありません。

麗景殿女御に会いに行く道中の中川あたりで、一度だけ会ったことのある女の家の前に来たので和歌を贈りますが、久しぶりだからか落ち目だからか、はぐらかされます。

女御の家に到着後は彼女と夜まで語らいます。

夜も遅くに、同じ家の別棟にいる花散里を訪ねます。大将が訪ねてくるのは珍しいことだし、大将はたいそう美しいので、彼女は日頃の恨みも忘れたに違いありません、優しく受け入れます。源氏も優しいことを言いますが、その瞬間は嘘ではなかったでしょう。

これだけです。あんまり端折ってないです。

◆初見の感想

これまでは抄訳かアレンジを読んできました。現代語訳をしっかり読むのは今回が初めてです。

初見の感想を過剰書きにしてみます。

・短い!

・彼女の呼び名がついてる章であり、彼女の最初の登場シーンなのに、ぼんやりとした印象。

・彼女がこの巻でした具体的な言動は無い。

・彼女の心情について僅かに2箇所の言及がある。それは「……べかめり」「……べし」でともに推量のようだ。

・大将はいま最高に落ち目なので「雨夜の品定め」で言うところの「中の品」に会って安らごうと思ったのではないか。

・中川の女って、誰? 空蟬ですか? でも彼女は常陸国に夫と行って、後日かえってくるから別人? 空蟬みたいなワンナイトのお相手、源氏の大将の人生には他にもいたんですね。いちど会った女のことはずっと忘れない、みたいなこと書いてあったのと矛盾しそうだけど……。

・それはおいとくとして、中川の女は麗景殿女御ー花散里のラインと対照的に描かれている。中川が引立て役。

・いずれにせよ、この巻は「中の品」の巻。

・桐壺帝ー麗景殿女御の、寵愛はないけど癒し系・なごみ系として大事にされる関係性を、花散里も踏襲する。

・怖くない年増の女性、久しぶりだなあ。若紫のとこの婆ちゃんは尼さんだったけど死んじゃったし、恋多き老女=源内侍は桐壺邸帝の内裏で働くバリキャリだったけど今ごろはどうしているのかしら。美貌も親の威光も持たないフツーの女性としてのライフプランを、姉を参照しつつ花散里が考えた、ってのはありそう。

・光源氏と花散里が内裏でほのかな関係を持ったのはきっと、女御が麗景殿にいたころですよね。寵愛される訳ではない女御の妹。父大臣の権勢が下り坂だったのかな。内裏で花散里は何を見たんだろう? 1人の男の愛を、顔も知らないから嫉妬のなかで魔性や性悪に見える女同士でドロドロしてるのとかボロボロになってるのなんかを見たんじゃないかしら。そしたら桐壺更衣みたいに命を賭けて寵愛をゲットする方向は回避するように方向付けられてても不思議ではないよなあ。

・すっごい久しぶりなのに優しく迎え入れてくれる、っていうのは、頭中将と夕顔の関係みたいだなあ。結局「中の品」のなかでも、勢いとか生活力のあるなしで男にとって難攻不落だったりイージーモードになったりするんだなあ。

・落ち目のときに、ズブズブに甘えさせてくれる誰かが必要、っていうのは、わかりみが深い。それなら、頭中将が夕顔にハマったのも、光源氏が妹の夫になって身近になったことで自信を無くしてしまってた頃だったのかな。

・女御ってことは父親が大臣だったんだろうけど、彼女は右大臣の娘でも左大臣の娘でもない。レディ・ロクジョウの頃の大臣たちの娘なのかな。その頃の大臣たちってみんな死んでんのかな。

・花散里は家事の才能とかあるみたいなんで、普通の女がモテに使うだろう情熱を、技術向上に注いだ職人っぽさもあったひとなのかな。だとすると、源氏の大将の不在のことは実はあまり恨んで無い、ってセンもあるかな。

・あと、花散里は男女の関係からナチュラルに外れていったみたいなんだけど、わたし前から疑問なんですけど、光源氏の性愛って全ての女の判断力や冷静さを奪い去るほどのレベルじゃなかったんじゃないですかね。身分の高い男を拒める理由がない身分社会だったからモテてた、ってのがモテた理由のうちの半分くらいはあるんじゃないですか? 身分高いってだけで他者の貴さを見いだせちゃう身分至上主義が身分社会っていうか。下のほう、十位とかだったら、どれほどの美貌と才能でも、あんなふうにはモテなかったと思うの。

はい、最後は「古文ムズいのは身分社会がイメージしにくいからだ」という話になってしまいました。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。次回、読みくらべ、第1弾の予定です。

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