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【鹿島茂のN'importe Quoi!シリーズまとめ】パリの歴史──集団的無意識の研究

2022年1月からスタートしているシラスチャンネル「鹿島茂のN'importe Quoi!」。2024年4月からスタートした「吉本隆明入門講座」をふくめ、4つの講座をお届けしてきました。
本記事は、チャンネル開始時から継続して人気を博しているシリーズ「パリの歴史──集団的無意識の研究」のまとめです。

パリの歴史──集団的無意識の研究


シリーズ概要

 パリに少しでも長く滞在すると、人はみな歴史家になります。自分の周りの時空間が「歴史でいっぱい」だからです。しかも、その「歴史がいっぱい」はたんに古いものと新しいものが同居するというレベルの感覚ではないのです。むしろ、最も古いものが最も新しいものの中に壷中天のように入り込んでいる、あるいは最も新しいものが最も古いものの中に発見されるという印象に襲われるのです。
 この摩訶不思議な感覚に夢中になった人にヴァルター・ベンヤミンがいます。ベンヤミンはこの感覚を元に『パサージュ論』という空前絶後の本を書き上げたのですが、それは、パサージュという建造物の中にそうした最も古いものと最も新しいものが出会う瞬間を見たからです。
 私は『「パサージュ論」熟読含味』という本を書く過程で、こうしたベンヤミンの「発見」を発見し、パリという都市における「最も古いもの」というのはじつは論理学でいうところの作業仮説のようなものにすぎず、実際にはその「最も古いもの」の下に「さらに古いもの」が隠されている重層構造になっているのではないかと疑うようになりました。そして、その疑いをつきつめていく過程で、パリに「いる」ということは人類史の最も古い時代にまで溯る「義務」を負わされることだとさえ思うようになったのです。
 そこから、「パリの歴史」への探究が始まりましたが、その探究は一般の歴史探究とは異なり、タイムマシンに乗って時間を溯るという方法に拠るものでなければなりません。なぜなら、一般の歴史は最も古いものをア・プリオリに措定してそこを起点に直線的に現代へと下りてくるというかたちをとりますが、タイムマシン的歴史記述では、その最も古いものというものが本当のところ何なのかわかっていないという前提に立つため、たとえ最も古いものを見いだしたと思ってもそこで止まっているわけにはいかず、聖杯伝説のように永遠の遡行を運命づけられているからです。

 というわけで、私が本講義で目指すものは、具体的には、現代のパリから始めて、いったん十九世紀のオスマン改造へと溯り、そこから二段式ロケットのように遡及して、より古いパリを求めて時間旅行を開始するという「逆歴史」の形式を取ると思います。
 そのさいに、常に念頭に置いて置かなければならないのは集団的無意識というものです。これはベンヤミンが『パサージュ論』で、フロイトの無意識の構造をもとにして考え出した概念で、その核は個人の無意識が夢に顕在的に現れるように、集団的無意識は建造物、モード、広告など、集団的制作を余儀なくされるジャンルにおいて顕在化するという主張にあります。 言い換えると、建造物、モード、広告などの集団的制作物の歴史を溯っていくと集団的無意識の変遷も見て取れるということになるのです。
 ここにおいて「パリの逆歴史」と集団的無意識はクロスすることになります。パリの逆歴史は集団的無意識の遡行であり、集団的無意識の遡行はパリの逆歴史となるということです。
 この意味において、本講義のパリの(逆)歴史は、建造物の(逆)歴史、モードの(逆)歴史ともなっていくはずです。
 とはいえ、あまり堅苦しく対象ジャンルを限定するのは得策ではありません。なぜなら、パリにおいては、どんなものも、つまりN'importe quoiが、 逆歴史的な探究を刺激してやまないのですから、 知の感覚触手はすべてのものへと伸ばされるべきなのです。
 パリを愛する人、 パリに捉えられた人、パリを嫌悪する人、 また、 パリを抑圧したいと思っていた人、 本講義はこれらすべての人に向かって開講されることになるでしょう。

放送URL

鹿島茂のN'importe Quoi!は、放送プラットフォーム「シラス」にて、毎月第2・第4火曜日の19時から放送中です!ご参加、お待ちしています!

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