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「ロケット」の分類 : 7つの軸で分けてみよう

この記事は…

◆筆者:宇宙輸送(ロケット)のスタートアップで働いている人
◆対象:ロケットにあまり詳しくないけど興味がある方
◆内容:ロケットを様々な軸で分類して整理する
◆狙い:記事の読者にロケットを解像度高く理解してもらうこと

※宇宙ビジネスに関するnote記事を毎月投稿する「#まいつき宇宙ビジネス」シリーズ:2023年8月分

はじめに

宇宙ビジネス(というか宇宙産業全体)において必要不可欠なものがあります。それは「ロケット」です。
データ利用ビジネスといった”単体では”地上で完結できる企業はあれど、それはデータを収集する衛星が宇宙にいるから。つまり、サプライチェーン全体をみれば必ず衛星を宇宙に運ぶロケットが関与してきます。

ロケットの打上げは非常に心揺さぶられる体験で、子供からお年寄りまで楽しめる(と私は思っている)一方で、ロケットという工業製品への一般の方々の理解はまだまだ深くないと日々の業務で強く感じています。

理解への第一歩は「全体像を把握すること」が最良、と私は思っています。
そこで、この記事では、ロケットを様々な軸で分類することを通して読者の方が今後ロケットを見たときに「あー、このロケットは●●でXXなやつか」みたいな感覚を身につけて頂きたい、そんな狙いで書いています。


ご紹介する分類軸

この記事でご紹介するのは、下記の 7つ + おまけ1つ です。

① 用途
② サイズ
③ 段数
④ 推進方式
⑤ 推進剤の種類
⑥ 政府or民間
⑦ 原産国
(おまけ)再使用かどうか

小難しい話は抜きにして、さくさくと行ってみましょう〜
(なるべくWikipediaへのリンクも載せていくので、気になる項目はリンク先にとんで深掘りしてみて下さいね)


① 用途

用途で分けたとき一番市場規模が大きいのが「衛星軌道投入用ロケット」です。地球周回軌道や深宇宙にペイロード(積荷となる宇宙機)を運ぶ、いわゆる宇宙への輸送手段です。
観測ロケットは主に科学観測向け、教育用ロケットは文字通り教育向けの教材としてのロケットを指します。

② サイズ

  • 小型

  • 中型

  • 大型以上

明確に「何m以上は大型で〜」「中型は何m未満で〜」みたいな定義は見たことないです。なので実際のロケットがどう呼ばれているかで感覚をつかみましょう。(例:ロシア・ソユーズは中型)
※明確な定義知っている方いたら教えてください!

③ 段数

現在主流なのは2段式・3段式あたりです。
Virgin Orbit社がやろうとしていた空中発射式も2段式の亜種と言えるでしょう。
将来的な宇宙輸送の議論では再利用可能(Reusable)な単段式の輸送機(SSTO)がよく話題に上ります。

④ 推進方式

液体燃料と固体燃料、2つの方式にはそれぞれ長所・短所があります(これだけでnote一本書けちゃうので今回は詳細は割愛)。なお、固体燃料はメインエンジンではなく補助ブースターとして使われることも多いです。
原子力推進については、最近アメリカ政府(NASAとDARPA)が開発に本腰を入れ始めており、月以遠の深宇宙への輸送の鍵を握る技術として個人的に期待しています。
人工衛星向けの推進器だと、効率の良い「電気推進」といった方式も選択肢に入ってきます。

⑤ 推進剤の種類 ※液体燃料ロケットにおいて

  • 液体水素 × 液体酸素

  • ケロシン × 液体酸素

  • 液化メタン × 液体酸素

  • その他色々

上記に挙げたのはよく見かける例ですが、他にもたくさんあり、燃料×酸化剤(2つまとめて推進剤) の組み合わせは非常に奥が深いです。どの組み合わせを採用するかでそのロケットエンジンの性能が決まってきます。ただし、単純に性能だけでなく、環境性・コスト・安全性なども考慮して選択していきます。

⑥ 政府or民間

  • 政府(系)ロケット

  • 民間ロケット

政府が開発するロケットでも実際の開発・製造は民間企業が行なっているケースがあるので(系)を付けました。資金源が税金か民間の資金かで失敗へのリスクの取り方など考え方に差が出てきます。
なお、政府の宇宙政策において中心となるロケットを”基幹ロケット”と言ったりします。(日本では基幹ロケットを「安全保障を中心とする政府のミッションを達成するため、国内に保持し輸送システム の自律性を確保する上で不可欠な輸送システム」と定義)

⑦ 原産国

  • アメリカ

  • ロシア

  • 欧州

  • 日本

  • インド

  • 中国

  • 韓国

  • その他(イラン、北朝鮮など)

どこの国/企業がつくったロケットか、という話ですが、これまでに独自に衛星の軌道投入まで達成できたのは10カ国・1機関しかありません。それだけ”ロケットを自国でつくれる国”は限られていて、宇宙産業においては大きなアドンバンテージです。

(おまけ) 再利用かどうか

衛星軌道投入用ロケットで再利用(一部ですが)を実現できたのはアメリカのSpaceXのみ。弾道飛行(サブオービタル)も含めると同じくアメリカのBlue Originも運用中のNew Shepardで達成しています。
これらのごく一部を除いて、その他ほとんどのロケットは使い捨てなので、現時点では(おまけ)にしました。(近い将来、再利用の方が主流になっているかもしれません)


実例

H-3ロケット

日本の次世代基幹ロケット H-3ロケットを例にすると各項目は下記の通りです。非常にわかりやすいですね。

① 用途:軌道投入用
② サイズ:大型
③ 段数:2段
④ 推進方式:液体燃料
⑤ 推進剤の種類:液体水素 × 液体酸素
⑥ 政府or民間:政府
⑦ 原産国:日本
(おまけ)再使用か:No

H-3ロケット、はやく打上げ成功がみたいです
出典:JAXA

ZERO

対比として、私が所属するインターステラテクノロジズが開発しているロケット ZEROも見ておきましょう。小型〜中型のロケットを開発する民間スタートアップは世界で何社も出てきていて、グローバルの競争が激化していくと予想されます。

① 用途:軌道投入用
② サイズ:小型
③ 段数:2段
④ 推進方式:液体燃料
⑤ 推進剤の種類:液化メタン × 液体酸素
⑥ 政府or民間:民間
⑦ 原産国:日本
(おまけ)再使用か:No

※太字部分がH-3ロケットと異なる点
ZERO、シンプルなデザインが好きです
出典:インターステラテクノロジズ

ビジネスの観点で

もうこの記事も終わりですが、実は大事な論点をあえて抜いております。
それは、ユーザー(ペイロード衛星の持ち主)目線です。

ロケットビジネスの主戦場である軌道投入用ロケットに絞って考えたときに
サイズ・段数・推進剤の種類などの技術やスペック情報も大事ですが、ユーザーが真っ先に気にするのは下記の3点だと私は思っています。

  1. 打上げ能力

  2. コスト

  3. 信頼性(実績)

分類の軸ではないので今回は言及は避けました。
今後どこかでこの辺の能力やコストをまとめ上げて、世界のロケットのポジショニングや戦略を分析してみたいと思っています!

まとめ

それぞれの詳細説明を割愛して、淡々とまとめてみました。しかし、それぞれの方式や選択肢には、積み重ねた技術開発の歴史やさまざまな思い・思惑が込められており、色々と深くみていくと本当に興味深いものばかりです。
そして、さらに宇宙産業が発展していくと全く新しい技術やアプローチが現れることでしょう。今よりもっと多様でエキサイティングなロケットが飛んでいる世界が待ち遠しいです。

最後までお読みいただきありがとうございました!

液化メタンを燃料したエンジンの炎は青みがかっていて so cool ! です
出典:Relativity Space

以上

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