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益江1:32「延命主義には窓がない」『星霜輪廻』

 既に日も傾き始めた時分。あと五時間で投票受付が終了する頃合いに、座山市庁舎ではアサミを始め浅黄など益江町関係者、坂出財閥からは坂出成宣らが集い、投票終了の刻限まで詰めの作業を進めていた。
 投票活動は大きく二つの分類に分けられる。一つは実際に有権者である人自身が投票所で投票を行うもの。投票所は益江介護施設を始め、座山市庁舎、そしてニューホジタウンに一箇所ずつあり、そのいずれも監視カメラによって管理されている。市庁舎に集う関係者が固唾を呑んで見守るのも投票所を映す映像である。
 そしてもう一つが、電子投票である。衛府江洲市が仮想市民の戸籍を用意して市としての資格を固守した――その行為は即ち、益江町の辺縁自治体である衛府江洲市、そして二鷹市に住まう有権者の水増しに他ならない。当然仮想市民は肉体を持たない、実体を為さない。しかし有権者であり、電子上で完全瀟洒な家庭環境を築き電子上で世代交代を繰り返す社会の自律細胞である。そんな仮想市民の投票活動、それが電子投票だ。
「…………」
 黙々と資料作成に勤しむアサミの背後に近寄る人影。コーヒーカップを二つ手に持ったその男は、そっとアサミの顔の横にカップを差し出す。
「眉間のシワが深くなっているぞ」
「成宣さんは呑気でほんっと羨ましいわ」
 片手にカップを受け取ったアサミは、背筋を伸ばしながらエンターキーを力強く叩く。
「リンから連絡があったわ。この町が無事に選挙を終えられるように祈ってると」
「意外なところがあるじゃないか、あの女も。さすがに同じ手法は使えないと踏んだんじゃないか」
「皮肉だけど、この町の利用価値は……もうない」
 パソコン横の資料端末を手に取ったアサミは、複雑な表情を浮かべて天井を仰ぎ見る。
「文系派の汚職騒動と共に、歪な益江町も葬り去る。その後は?」
「日本州昇格は理系派の元で再認可を目指す。自ら進んで理系派に取り入ることで優位な立場を得やすくする」
「残念だけど、それは半世紀前に私とあなたのお父さんが試してダメだったのよ」
「今理系派にとって何より欲しいのは文系派の収賄疑惑を裏付ける証拠だ。坂出財閥はもちろん、益江町そのものが証拠となる。そうなれば理系派と有利に話を進めることが出来る」
 危うい論拠に頼らざるを得ない先行きの不透明さに、アサミも歯ぎしりをするばかり。それでも成宣は、アサミの肩に手を置き、落ち着くように促す。
「今が懐を脱する時。文系派の手法は知り尽くした、踏み出したその一歩は、既にまっさらな地面に上に立っているんだ」
「なら、もう片方の足を動かす用意をするべきなのね。ヴァニタスはそう簡単に実験場を手放しはしないでしょう」
「業務提携だ。アメリゴ州のように、研究機関と政治機構が手を組めばいい」
「だとしたら、きっと衛府江洲のやり方を咎められることになる。万事今まで通りとはなり得ないわ」
「益江町を壊すということはそういうことだ。俺も、アサミさんも、関係者は月面で説明を求められることになるが……、全ては日本州のため」
「分かってるわ。だからこうして被害を最小限にとどめようと……浅黄さんの進捗は?」
 アサミの視線の先、作業部屋の片隅で、いくつもの固定電話を操る浅黄の姿。
「住民の二鷹方面への避難は順調に進んでいます」
「あとどれくらいかかりそう?」
 アサミの質問とほぼ同時に一台の電話機が鳴動し、浅黄は右手で応答しながら左手で二本指を立てて応えた。
「二時間ね」
 浅黄の様子をみて、アサミは納得したように首を幾度か頷かせながら作業に戻る。
「避難?」
「民本党が何か仕掛ける可能性を考慮した上での予防行動ね。杞憂で終わればいいのだけど」
 思わぬ単語の出現に成宣はその意味を問いただすが、アサミは立て板に水を流すようにすらすらと応える。
「あまり大仰な行動に出るとかえって刺激を与えかねない、気を付けなければ」
「大丈夫、あくまでも集団研修っていう形にしてあるから」
「投票後に集団研修……、さすがに露骨すぎる気もするが」
 益江町の人口の内、八割から九割は就業者であり、その殆どが介護関連事業に就業している。集団研修の時機は置いておいても、そうした論理が利用できるのはアサミにとって好都合だった。
「誰も人の死を見たい訳じゃないもの。真意を察したところで当局はダンマリでしょ」
「だといいが」
「投票終了後、浅黄さんがここで不正選挙を訴え出て、当局と接触する。私と成宣さんは、手はず通り由理を回収して月面に行く」
 自らが取り仕切る選挙を不正と呼ぶのは些か滑稽な方法ではあったが、当局の懐に入り込むには妥当な手段だった。
「警務官の動向が読めない以上、致し方ないのか」
 成宣の言う通り、警務官は内務市民委員会の管轄でありながら、その実警察権の行使自体は各州各自治体の専権事項だった。益江町を所轄する日本自治区の警務官は坂出財閥よりも自治区管掌使と密接な繋がりがあり、ややもすれば益江町側の意図を汲み取り、妨害行動にでる恐れもあった。他に列島には筑紫自治区の警務官がいるものの、大東亜州の出先機関のような立ち位置であり、同じ理系派としても地政学的に坂出財閥は大東亜州もとい筑紫自治区とは距離を置いていることから、成宣としては交渉相手は警務官以外を想定し、アサミ自身はそれを受けて特務課との接触を試みている、という訳だった。
「自治区管掌使は最後まで事態を把握できずに、あたふたしながら闇の中へ引きずり込まれていくのでしょうね。今まで寄生してきた宿主に捨てられ、栄養失調で死んでいくのよ」
 端末に目を通したまま、アサミは淡々と言葉を連ねていく。
「まずは今日を無事に終えることが大事だ。気は抜けないが、ゆとりは持つべきだな」
 手に持っていたコーヒーを飲み干して、成宣は軽くアサミの肩を叩く。
「ほんっと、呑気ね」
 そう呟くアサミも、ふっと表情を緩めて肩を回す。窓の外の景色が徐々に陰に呑まれていく様子を見つめながら、アサミはまた終わりの見えない事務作業に没頭していくのだった。

***

 奈佐が異変を察知したのは、小出が夕食の確認の為に地下へ降りていった時のこと。地下へと降りる階段は、普段奈佐が寝食をするリビングとは違い、廊下を一つ隔てた先にある金属製のもの。元々火葬場施設だったこともあって、設備の大半は無機質で機能重視の代物だった。
 小出が地下へ降りるとき、金属製の階段を通っていったので足音は段々遠ざかっていくのが普通である。既製品のスニーカーによって金板が踏み叩かれる音が一定間隔で刻まれる様子は、廊下を隔てても聞こえるもので、奈佐はそれを聞きながら小出が地下へ行ったと判断した。
「……先生?」
 ところが、遠ざかっていったはずの足音が再び近づいてきた。それも、一つではなく、複数の足音。奇妙なことに、足音の大きさからしてその足取りは平然としたもの、まるでこの建物内には誰もいないかのような慢心からくる足音だった。足音の音程、感覚、強弱。奈佐は、今聞こえている足音が小出のものとは到底思えなかった。
「まさか民本党……?」
 咄嗟にソファの影に隠れた奈佐は、クッションを盾にしながら廊下の向こうに視線を向ける。
「……した……」
 微かに、知らない人たちの会話のような声が聞こえて、ますます奈佐は警戒を強める。そもそも施錠したはずの建物に、なぜ小出と自分以外の人間がいるのか。
 火葬場施設の出入り口は、リビングとして使われている部屋に一箇所と、地下の搬入口が一箇所の、合計二ヶ所である。この内奈佐のいる部屋にある扉は微動だにしていないので、明らかに侵入者は地下から来ている。
「先生はどうしたんだろう?」
 奈佐のクッションを掴む手に自ずと力がこもる。隠れるべきか、或いは先手必勝、扉の死角に隠れて隙を窺うか。
「ははは、そういうことか」
 すると、意外にも小出の笑い声が廊下の方から響き渡り、奈佐は困惑気味に首を傾げる。
「ええ、ですのでまずは学園の方へと」
 次に聞こえてきたのは、奈佐の知らない女性の声。学園関係者かとも思えたが、明らかに二人以上の足音が聞こえるので、現在の情勢を考えても関係者が複数人連れたって行動するのは控えてしかるべきだ。
「こっちだ」
 小出の誘導する声と同時に、扉が開かれる。反射的にソファに背を屈める奈佐は、小出の話し相手の声色が意外と若いことに気が付いた。
「坂入?」
 小出の声に応じて、奈佐はソファとクッションの隙間から恐る恐る顔を覗かせた。
「そこにいたのか」
 小出の呆れた反応に眉をひそめる奈佐だったが、その小出の隣にいる軍服姿の女性に視線を移し、さらに困惑の度合いを強める。
「だ……誰?」
「ふむ」
 そんな奈佐の反応をよそに、その女性――誉志は表情を緩めたまま右手を差し出す。
「初めまして、ナーシャ。内務市民委員会警備部特務課、誉志天音です」
「と、特務課!?」
 誉志がナーシャ呼びだったことをスルーさせるほど、今眼前に特務課がいることに奈佐が受けた衝撃は大きかった。
「既に特務課とほぼ同じタイミングで、検察官も展開されているらしい」
「へ、へー……」
 小出のその言葉に、奈佐は空返事を返すのが精いっぱいだった。
『展開が早いのは、前回の反省を踏まえてかな』
「前回の反省……、セルゲイのあの件?」
「なるほど、記憶は継承しているのですね」
 当然だが、奈佐とナーシャの会話は外聞されるものではない。しかし、誉志はナーシャの境遇をブリーフィングで把握済みで、奈佐の突拍子の発言もすんなりと聞き入れている。
「いや、正確には坂入の記憶ではない。同一肉体に二つの意識が」
 すかさず否定する小出だったが、誉志は「いや」と応じる。
「それは承知しています。実際、月面にも同様の事例が少なからず報告されていますので」
「私みたいな人が他にもいるんですか」
「ええ、もちろん」
 ソファから乗り出すようにして問いかける奈佐に、誉志は頷き返し、話を続ける。
「やはり延命施術の都合上、どうしても憑依人格と原初人格の混淆が見られると、転生運用医師連合会からの年次報告にも記載されていますし。多くの場合は原初人格の退嬰的同化反応によって解決するのですが」
 延命施術の際の混淆人格問題は、既に一世紀以上前から議論が交わされている課題だった。延命施術では、転生をしようとする人格=憑依人格と、魂の依り代となる元の肉体に発生する人格=原初人格とが交錯し、ある作用を経た上で憑依人格が依り代に発現することが知られており、このある作用のことを退嬰的同化反応という。この退嬰的同化反応では、原初人格がある時期を境に消失し、憑依人格が優位に作用することが分かっているものの、なぜ原初人格が消えるのか、そして原初人格の消失する時期はいつなのかについて、未だに定説の立証は為されていない。
「……ってことは、坂入にはその退嬰的同化反応が起こらなかったと」
「ええ、恐らく。もっとも出産時のコンディションを踏まえると、胎児の発育不全からくる現象とも考えられますが、他の事例でそういうことはあまり見られないので」
「予定通りの出産でも、混淆人格がみられると?」
「ええ、むしろそれが多いからこそ、理由理屈が分からないと」
 多くの場合、延命施術では依り代となる赤子の脳に回路を接続し、憑依人格の魂の電気信号を反芻させることで同じ神経回路の設計を促している。施術のタイミングを逸すると、原初人格の発生を誘引してしまうが、殆どの場合は同化反応を以て収束する。しかし一方で、一つの肉体に二つの魂が宿ってしまうこともあり、それはむしろ適切な施術後に見られる所見であることから、同化反応の有無についての解明は困難になっている。
「その転生運用医師連合会っていうのは、やはりヴァニタスか」
 小出の言葉に、誉志もしたり顔で頷く。
「当然。ゲネラーレにおいて名門中の名門、ブルーヒルズ工科大学が幅を利かせる学会……」
 ブルーヒルズ工科大学は、アメリゴ州ブルーヒルズ郡にある名門大学である。延命技術の研究派閥のうち、現在主流となっているヴァニタス学派発祥の地であり、同派閥の拠点でもある。
「加えて今の会長は工科大学出身の名誉教授。威信をかけた研究攻勢の一方で、未だに糸口すらも掴めていないとは」
 小出の言う通り、世界一の研究者が集ってもなお同化反応について詳細なデータを収集できていないことは、ヴァニタス学派の致命的な欠点となっている。
「アメリゴ州は元々デラモルテ学派が盛んだった地域ですし、州都サンフランシスコ郡とブルーヒルズ郡は犬猿の仲ですから、そういう政治的な影響も多少はあるのでしょうが」
 いつの時代も、学問と政治は不可分の関係にある。学校側は自治を訴えて学問の自由を訴えるが、一方で研究資金は多くの場合公的資金の投入により賄われていることから、両者の関係は切っても切れない仲である。特に延命技術については、世界連合成立の根幹ともいえる研究課題であり、延命技術研究者が世界連合を基盤とした多くの政争に巻き込まれるのは自明の理でもあった。
「結局、分からないままに終わるのかな……」
 落胆する奈佐だったが、その様子を誉志は満更でもない様子で見つめている。
「どうかしたのか?」
 誉志の様子を訝しんだ小出だったが、奈佐の一瞥するなり何か合点がいったように頷いた。
「この件が済んだら、月面へ行きましょう」
「月面……私が?」
 誉志の思いもよらない提案に、奈佐は素っ頓狂な声を上げる。
「残念ながらこの列島では最新の研究に触れることは出来ないでしょう。もしあなたがご自身の境遇をきちんと理解したいと思うなら、月面へ共に行くことを私はおススメしますよ」
「た、隊長……!」
 特務課の隊員の引き留めを振り払って、誉志は奈佐に歩み寄る。
「で、でも私には由理ちゃんとぬいっちがいて」
「大丈夫だ、あの二人は坂入を一人にはしない」
「で、でも」
「それに、私も月面へ行かなきゃならない……そうだろ?」
 小出は、観念した様子で誉志を見る。
「……ええ、一連の文系派の不祥事について、是非ともあなたには月面に出頭してもらい、すべてを話していただかねばなりません」
「せ、先生?」
「いずれこの時がくるのは分かっていた。だが今回は、正真正銘の出頭だ。私は社会正義のために命を差し出す」
「言ってる意味が分からない……。月面に行って知っていることを話すだけでしょ? そしたらまたここに戻ってきて、ウラジも民本党もない、綺麗な益江町で教壇に立つんですよね?」
「坂入……」
 顔を背ける小出から体を向き直して、奈佐は今度は誉志に詰め寄る。
「命を差し出すって、比喩ですよね? 何で先生が死ななきゃならないんですか!」
「小出李音は犯罪者です。一度は裁きを免れましたが、今回はそうはいきません」
「それを言うなら、昔子供たちを連れ去った内務市民委員会の当局者だって犯罪者でしょ?」
「担当者は既に時代によって裁かれました」
 淡々とした誉志の口調に、奈佐は歯ぎしりをする。
「せ、先生は情報提供を行ったんだから、多少は情状酌量の余地だって」
 精いっぱい言葉を捻りだしながら誉志を説得しようとする奈佐を、小出はそっと引き止める。
「よせ、坂入」
「だって、先生!」
 ゆっくりと首を横に振った小出は、しかし毅然とした表情で誉志を見る。
「その代わり、猶予をくれ。身辺整理をしたい」
 小出のその申し出に、隊員たちは口々に反対を唱える。
「いけません隊長。この手の輩は、身辺整理と称した証拠隠滅、或いは自死を図るのが常。常に私たちの管理下に置くべきです」
 隊員たちの脳裏には、投票締め切りと選挙結果公表までの刻限がよぎっていた。民本党とウラジ残党がどこで何をしようとしているのかが判然としない状態で、小出に人員を割くことは避けたい。となれば、ここで小出を回収し、行動を共にするのが上策。
「私は逃げも隠れもしない。ましてやこのご時世であの世へ遁走しようとも。私が逃げようとしたところで、ここは正直だ、違うか」
 そういって笑みを浮かべて、小出は自らの頭をトントンと叩く。
「……いいでしょう。その代わり、午後八時には座山市庁舎へお越しください」
「隊長!」
「前回と違って、益江町には情報ネットワークが張り巡らされています。逃げようと思っても法の目はあなたを逃しはしません。常にあなたは私たちの監視下にある事を心の隅にでも留め置いてください」
「何度言われようとそのつもりはない。特務課の任務遂行を願っているよ」
 小出の気の抜けたような手の振り方に、隊員の多くは覆面の内部で不満げな表情を浮かべていただろう。そんな隊員を先に屋外へと退去させた上で、誉志は小出の提出した書類に一通り目を通す。
「……時代は巡ります。こうして私が文系派の所業をつまびらかにする一方で、いつかこの正義が反転することも……、この私が裁かれるときだって来るかもしれません」
 そんな誉志の様子をみて、奈佐は抑えきれない情動を吐き出す。
「なら、何で誉志さんはそこにいるんですか? あなたが纏っているのは法じゃない、人の死を以て正義と為す血欲者の穢れですよ」
「やめるんだ坂入」
 制止する小出の手を振り払って、奈佐は誉志に詰め寄る。
「そう。今の世界に生きる人間は、数世代前の大罪を抱いて生きているんです。生への執着、その為に死を欲する穢れを、私たちは纏っています。でも、誰かが矢面に立って正義の旗を振りかざさないと、血反吐を吐きながらでも、石礫を投げつけられてでも、私たちは法を謳わないといけないんです」
 それでも声調をぶれさせない誉志の答え方に、奈佐は返す言葉を失った。
「……長々と話し過ぎました。では、また」
「ま、待ってくれ」
 手に持っていた資料を抱えて去っていく誉志の背中に、小出が呼びかける。
「アーヤは……、水戸瀬肖は私が生んだ怪物だ。未来への希望に溢れていた捨て子を、復讐に取り憑かれた怪物に豹変させてしまったのは私だ……。誇り高い意志に石を投げつけた私だからこそ、アーヤを救ってあげたい」
「……あなたは」
 涙ぐむ小出の言葉に、誉志は振り返ることなく口を開く。
「あなたは罪深いお方だ……」
 ついに誉志は、小出を見ることなく施設を去っていった。
 重低音を響かせるバスのエンジン音が遠ざかっていき、小出はゆっくりとソファに腰をおろした。
「先生はよほど水戸瀬肖が好きなんですね」
 小出と視線を合わせずに、奈佐は誉志の去っていった扉を見つめながら、ポツリとそうこぼす。
「ああ……、ずっとそうだったはずなんだ」
 いつになく力のない小出の雰囲気を背中で感じながら、奈佐はテーブルそばの椅子に腰かける。
『アーヤは元々ああいう性格だった、私はそう感じる』
「……また。その感想は結果論でしかないでしょ」
『もちろん私は彼女のことを産まれたときから知っている訳ではない。けどそれはリンだって同じこと』
「……人は変わるものだよ。信じていたものが間違いだったと知ったとき、或いは信じていた人に裏切られたとき」
 そんな奈佐とナーシャのやり取りを見つめる小出は、裏切りという言葉に反応して険しい表情を浮かべて視線を落とす。
「水戸瀬肖はどうにもならない環境に馴染もうとして、結果失敗した。誰にも頼ることができずに、無垢な心は鋭い刃となり、セルゲイがその攻撃性を利用した」
「坂入の言う通りかもしれない」
「でも……先生に何かできたかと思うと」
「いや、私の責任だ。アーヤの気持ちを汲むことができなかった、彼女の才能をもっと信用していれば、別れることもなかったかもしれない」
 水戸瀬肖の才知は、その出生を裏付けるかのように繊細で、平たく表現するならば出来の良いものだった。アサミの村山営区の運営も、アーヤの助言によって支えられていたといっても過言ではない。だからこそ、益江町の地に密かに蠢く民本党なる組織を創設・牽引してこれたともいえる。
『アーヤの無垢は確信犯だったんだろうね』
「庇護を求める為の、戦略的な甘えだったってこと?」
『善悪の判断を行わず、世の中には正しいことしかない、っていう純粋な思い込み。きっと今のアーヤは善悪の彼岸にいる』
「善悪の……彼岸」
「大局的に見れば、今のアーヤは八方塞がりだ。検察官に特務課、その捜査網は徐々に狭まっている。普通であれば観念するか、暴発するかのどちらかだが」
 小出はそう呟くと、立ち上がってウォーターサーバーに手を伸ばす。
「水戸瀬肖はそれすらも自らの戦略に組み込む、と?」
 いくら体面を取り繕おうと、追い込まれていることに変わりはない。奈佐も、水戸瀬肖は内心強がっているだけだと感じたが、しかし一方で民本党の残党とは思えない一貫した行動には何か裏がある、とも考えていた。
「そう……、拠点を放棄したことが、逃走ではなく前進を意味するなら」
 その時、小出はある可能性に思い至った。それは即ち、水戸瀬肖の行動原理とでもいうべき、地形図を俯瞰する窮鼠が取る行動の一手。
「介護施設が危ない」
「え?」
 奈佐にとって、小出の言葉は至極不可解なものだった。既に検察による捜査は進み、残るは水戸瀬肖とセルゲイの身柄拘束。特務課も証拠収集にめどが付き、それもあって誉志は小出たちを残して一路学園及び市庁舎へと転進していった。もはや民本党とウラジ残党に残された道は恭順か死か、それしかなかった。
「廊下で特務課の隊長から聞いたんだが、アーヤとウラジはお互いの言葉を混淆させるほどに親密な関係を築いていたという。言葉を共有するということは緻密なコミュニケーションが可能になるということ。つまり、今まで益江周辺で発生した多数の不審死事案は場当たり的なすれ違いではなく、計画的に行われた粛清の可能性が高い」
「そっか、一見バラバラにみえる行動も、実は大元を辿ると統率が取れていたと」
 淡々と小出の言葉の意を汲む奈佐だったが、段々と背筋の凍る思いがして顔をしかめた。
「……思い出したくないだろうが、学園に潜伏していた用務員も指令を受けての行動。そして、過日坂入を拉致した連中も、恐らくは同じ系統からの指令を受けていたんだろう」
「あいつらは火星から来たとも言っていました。盟友、J・Hなる人の名前も持ち出して」
「たかだかウラジの残党が火星に? 恐らくはったりだろうが、ふむ」
 そこで一拍挟んだ小出は、奈佐の肩をポンと叩き、車の鍵を手に取った。
「そこまで統率の取れている集団が追い詰められたとき、座して死を待つか? いいや、奴らは追い詰められることによって駒を優位に進め、検察や特務課、公権力に打撃を与えるのに効果的な攻撃目標を奴らは選び出すだろう」
「それが介護施設だと」
 慌てて椅子から立ち上がった奈佐は、小出の顔を見据えつつ覚悟を決める。
「行きましょう、先生」
 二人が旧火葬場施設を飛び出したのとほぼ同時刻、介護施設では既に動きがあった。
 小出の予感の通り、民本党及びウラジの残党が介護施設内部に進入したのである。

***

 開票結果を待たずして、介護施設に乱入した民本党残党たち。施設長であるアサミ不在の中で、職員たちは自由な行動を阻害される事態に陥った。
「施設長を出せ!」
 党員の一人が大声で叫び、他の連中も口々にアサミの名を叫び続ける。その異様な光景に、偶然居合わせた由理も千縫も、彼らに直接目を合わせようとはしなかった。そのうち、党員の一人が「代表」と口にすると、昂揚しつつあった場の雰囲気はみるみる冷却されていく。
「……施設長はいない。みれば分かる」
 残党の集団がさっと二つに割れ、モーゼの如く姿を現したのは他でもない、水戸瀬肖だった。しわがれた声を絞り出しながら、水戸瀬は視えぬ目で正面を見据えている。
「水戸瀬女史!」
「……ほう」
 千縫の声に反応した水戸瀬が、車椅子を転向させる。
「これがあなたの破壊したかった今、ですか。何より日本の行く末を憂いていたあなたは今、日本を破壊した外国人の手足を使って、再び日本を破壊しようとしている!」
「戯けを抜かすな……、この国を滅ぼしたのは他ならぬ……、我々……自身なのだ」
 力なく車椅子の肘掛けを叩く水戸瀬の言葉に、党員たちは機械仕掛けの人形のように頻りに頷き返す。老いぼれた爺婆に混ざって、鼻の高い色白の異国人が十数人いることは由理も視認していたが、もはや彼ら自身も高齢者の仲間入りをしていた。加齢に伴う身体の劣化は逃れられない運命なれど、而して彼らは高齢者という絶対的存在を憎み、また裏切り行為を働いたウラジ自治政府に憤怒の感情を抱いていた。今まさに野に放たれた狂犬たちは、五月体制の中で雑に築かれた砂上の楼閣の足元に、集団的に用を足そうと企てている。
「ウラジオストクは日本の復興を邪魔した奴らなのに、そんな奴らの口車に乗って故郷叩きなんて、浅はかにも程がある」
 対して千縫は、ウラジ工作員が紛れていることすらも意に介さず、臆面なく言いたいことを水戸瀬に投げかける。奈佐の遭わされてきた過去を思えば、当然のことだと千縫は感じていたのだろう。そんな千縫の想いを、由理は隣で見守り、また手を握って同調した。
「社会は……、どうあろうとやがて壊れる宿命を持つ。そして壊れた社会は、新たな人間たちによって復興していく、そうして社会は新陳代謝を繰り返し、悪を排除する」
 水戸瀬の口元で拡声器を構える党員も、ウラジの工作員。さらにその横には、水を携える党員もいる。
「ご立派な介護体制だこと」
 目の前で繰り広げられる、緊迫した状況下にありながら何処か間の抜けた光景に、思わず由理は冷笑した。自分の行ってきたどの「介護」よりも介護らしいと思いながら、水戸瀬をジッと見つめる。
「代表、大変です!」
 党員の一人が携帯電話を片手に水戸瀬に駆け寄る。
「……馬鹿な」
 党員から何かしら情報を得た水戸瀬が不意に呟いた一言が、拡声器に乗って施設内に気持ち悪い程のささやき声で響いていく。慌てた党員が拡声器のボリュームを上げようとして、別の党員に止められた。
「選挙すらも無視するというのか。まさか奴らは……!」
 にわかに動揺する集団をよそに、由理は千縫の腕を肘で突く。
「始まったのかな」
 由理の心配そうな声に、千縫はふっと表情が緩んで首を傾げる。
「何にせよ、あいつらが慌てふためくサマは滑稽だ」
「まあ、いつまでも見ていられるものではないけど……!」
 その時、党員の一人が手に隠し持っていた拳銃を天井に掲げ、間を置かずして一発発砲音を響かせる。
「聞け、職員ども。特務課の連中が学園とフェスター邸に踏み込んだ。これが意味している所、それは益江町の放棄だ、これこそが五月体制の唾棄すべき暗部だ!」
 党員だと思われていたその男は、すかさず水戸瀬の前に躍り出てもう一発天井に拳銃を発砲した。頭髪を白に染め、顎髭を蓄えたその男は、ついぞ誰も見つけることのできなかった第一二班の長、セルゲイだった。
「手順が狂った。奴ら、我々だけでは飽き足らず、我々を消そうとするウラジ、そしてそれを領導する文系派もろとも呑み込もうというのか!」
 セルゲイの反応はまさに、井の中の蛙のようだった。意図しない情報が鉄砲水のように押し寄せる状況で、圧倒的に狭い世界で辣腕を振るっていたセルゲイが為すすべなく時代という激流に呑み込まれていく様をみて、由理も千縫もこれが時流なのかと考えずにはいられなかっただろう。益江町を巡る泥臭い駆け引きの宿痾ともいうべきウラジの首魁が小さく見えるようになって、由理はまた別の懸念が生まれた。
「アサミさんは選挙結果開票後の事案発生を想定していたけど、まだ時間は七時半だよ」
「確かに。たかが三〇分だとしても、開票結果発表の前と後じゃ世論に与える印象は違いすぎる……」
 思案を巡らせながら水戸瀬を見つめる千縫の隣で、由理は時計と職員とを交互に視界に据えながら状況を把握しようと努めた。決して荒波に呑まれまいとするその動作は、一方でまた別の動きを察知した。
「……?」
 施設の事務室前の廊下の天井は吹き抜けになっており、ちょうど玄関上に外の光を取り入れる為の天窓が設けられている。由理がその天窓に視線を向けたとき、確かに人の影のようなものが横切る瞬間を捉えた。
「まずい、ここは代表に任せる」
 何かを察知したのはセルゲイも同じだった。他の連中を置いてけぼりにして施設を去ろうとするセルゲイを、日本人党員たちは許さなかった。
「もはやこれまで」
 しかし、セルゲイはそんなよぼよぼの日本人党員たちを力づくで退けながら出口へ強引に進んでいく。
「これ以上……汚名を残すものではありません」
 水戸瀬の忠告も何のその、セルゲイは依然数多の党員たちの制止を引きずりながら歩き続けている。
「隊長!」
「黙れ!」
 ついにはウラジ工作員の声すらもはねのけるセルゲイ。
「極東一といわれた俺の手腕を、鼻をかんだ紙屑の如く捨て去ろうというのか……、許せん!」
 所詮社会とは個人の集合体である。社会にとって最優先事項は他でもない、社会の存続である。あくまでも優秀な人材はその目的遂行のために存在するのであって、手段はあくまでも手段に過ぎない。
「お、おい!」
 党員の一人が天窓を指さす。次の瞬間、ガラスが砕け散る騒音と共に、ロープの擦れる音が幾重にも響き渡った。
「危ない!」
 由理は、ガラスの破片から千縫を守ろうと上に覆いかぶさった。事前に上階の動向を察知していたが故の行動だった。
「――そこまでだ犯罪者諸君。君たちは行政上の煩わしい手続きを経ずして瞬時に刑罰に与ることのできる幸運を持っているのだ」
 やけに昂った演説調の文句をまくし立てる女性の声に、党員も、由理さえも出口の方に注意が向いた。その間に、天窓からはスーツ姿の官僚たちがスルスルとロープに沿って降下する。
「おいおい、スーツが勿体ないな」
 党員の一人の呆れた反応に、セルゲイと対峙する女性――クロエは「代えなど幾らでもある」とのたまう。
「そこを退いてくれないか。東部機関第一二班を名乗る不届き者め」
「無礼だぞ。俺は第一二班の隊長、セルゲイ・メドヴェージェフだ!」
「残念だ、数あるテロ活動に主導的役割を果たしてきた奴がどういう肝の据わった漢なのか気になっていたが、いざ蓋を開けてみればこんな夢遊病患者だったとは」
「何を言う……、それに貴様は何だ!」
「私か? 私はな……」
 そこでクロエは、何を思ったのかスーツのジャケットを脱ぎ捨て、ついでベストも床に投げ捨てた。シャツのボタンに手をかけたクロエは、一瞬口角を上げながら瞬時にボタンを弾き飛ばした。
「見れば分かろう。見事に六つに割れた腹筋、シャツの縫い目をも綻ばせる腕力、私こそ最高検察庁の長、クロエ・ヴァンサンだ!」
 その場にいた誰彼もが、状況を理解できなかっただろう。そうしている間にも、天窓から降下する複数人の検事及び検察事務官によって党員たちは拘束されていく。水戸瀬も、検事に両脇を固められて身動きの取れない状態に置かれていた。
「検察……!? バカな、まさか」
「事態を理解してくれてどうもありがとう。君のいう東部機関第一二班などというのは存在しないシロモノだ。そして君は何の理念も信条も持たないただのテロリストだ」
「は、ははは……!」
 そこでセルゲイは、何かを悟ったのか両手を大きく広げて抑揚のない笑い声を響かせた。
「なるほどな、そういう魂胆か。木を隠すなら森、表に出過ぎた己を煙に巻いて、再び地下に潜ろうと」
「あの時大人しくウラジに帰っていればセルゲイの名で罰を受けられたろうに。哀れだな、有望株の名無しさん」
「抜かせ下衆が」
 壁面の時計は間もなく午後の八時を指そうとしている。由理も千縫も、約束された選挙結果に注意を向ける中、党員と検察の対峙は続いていた。
「さて、こちらの目標は達成された。後は図書館司書の連絡を待つだけだ」
 タブレットを片手に、クロエは外に視線を向ける。雲一つない夜空には煌々と輝く星々が散りばめられていて、地平線すれすれには明るい下弦の月が浮かんでいた。
「明日にはふかふかのソファでワイングラスを傾けているだろう。ホアン閣下も喜ばれることだろうな」
 クロエは、完全にセルゲイに背を向けた状態でタブレットに視線を落としていた。その状態をセルゲイが見逃すはずもなく、
「甘いな、誰が投降するといったのだ!」
 懐に忍ばせていたナイフを片手に、セルゲイは勢いよくクロエの背中に飛び込んだ。
「危ない!」
 思わず叫ぶ由理だったが、時すでに遅し。ナイフの凶刃に倒れたクロエの傍で、セルゲイは雄叫びを上げる。
「幾ら司法も、武力の前には無力!」
「……そして武力は司法の前では従順な犬だ」
 床に倒れたクロエの強力な腕が、セルゲイの右足を掴み、勢いよく引っ張った。バランスを崩したセルゲイが大きな音を立てて床に倒れ、手に持っていたナイフが勢いよく床を滑っていく。
「君の刃は実に無力だ、司法の前では鉛筆の芯よりも軟弱だ」
 事実、クロエの背中に刺し傷など何処にもなかった。防刃チェストすらも着用していなかったクロエは、己の鍛え上げた筋肉のみでセルゲイの刃を防いだのだった。
「ば、馬鹿な」
「なんと浅慮な男か。武力は法的に裏付けされて初めて指向性を持つ。武力は求められてこそ機能する装置、いくら君たちが自主的に定義づけを試みようとも、法はそんな君たちを認めはしない」
 古今東西、社会の秩序を乱す者は武力に訴え出て現状変更を試みた。しかし、その目論見は外れ、彼らは反乱者として鎮められてきた。法は常に正義を示し、世情は法の下に秩序ある社会を享受している。
「抜かせ……、法は所詮為政者の道具の一つに過ぎない。いつか貴様も法とやらに牙を剥かれるぞ」
「そうなる前に為政者を引きずり下ろすのが法に携わる者の務め。無法者に忠告される筋合いは……ない!」
 問答無用でセルゲイの顎下に拳を突き上げたクロエ。後方に吹き飛ぶセルゲイには目もくれず、タブレットに着信を確認すると即座に画面をスワイプさせた。
「やあ、司書くん」
『――加湿総長。これから学園長の私邸に侵入します』
「了解、こちらはもう目的達成だ。セルゲイの奴は私の後ろで泡を吹いているさね」
『それは良かったです。こちらの任務が終わるまで、どうぞラジオ体操でもしていてください』
「一言多いんだよ、せいぜい貸出カードに埋もれてしまうんだな!」
『そういえば超音波式の加湿器はカビが発生しやすいんだとか。まあ、スチーム式の総長なら心配はいらなかったですね、湿気い』
「まっ、この……!」
 危うくタブレットを床に叩きつけそうになったクロエだったが、大きく息を吸って吐いて難なく平静を取り戻した。
「あの」
 党員たちが行き場を失い、やる気を喪失し、力なく佇むばかりの状況の中で、それまで置いてけぼり気味だった由理が恐る恐る手を挙げた。
「えっと、君は党員ではない……」
「あ、私はここの施設に住んでいる者というか」
「老人? 見るからに学生っぽいのだが」
「あ、いや……。施設長に面倒を見てもらってる、西見由理です」
「西見……、ああ!」
 そこでようやく合点がいったのか、クロエはすかさず由理の下に駆け寄ると両手で由理の手を握りしめた。
「こんなところで会えるなんて光栄だ!」
 しかし、由理は狐につままれたような表情のままクロエを見つめている。由理からすれば、月面のお偉いさんであるクロエに握手をされるほどの何かをした訳でもないし、かといって何も悪いことをしていない訳でもない。
「気分がいい。やはり事態の早期収束にはトップダウンが一番だ」
「……はあ」
 しかし由理は、変わらず空っぽの相槌を返す。当然のことではあったが、よもや検事のトップである検事総長が直接乗り込んでくるなどとは、由理含め施設の誰もが予想していなかったことであり、司法側の本気度を肌で感じて委縮した面も否めない。
「さて、司書の仕事が終わるまで事情聴取でもして時間でも潰そう。西見殿から」
「わ……私?」
 思いもよらない指名に、由理は眉を上げて首を傾げる。
「待って、あくまでもこの施設の責任者はアサミさんでしょ。由理氏に何の用だ」
 由理を庇うように前に躍り出る千縫だったが、当のクロエはさしたる反応を示さない。視線は常に由理に向いていた。
「さあ。何処かサシでお話しできる場所に案内していただきたい」
「由理氏」
 しかし、由理は千縫の手をそっと退けた。一歩、また一歩とクロエに近づき、由理は口を開く。
「食堂が応接室代わりになっています。よければそこで」
「なるほど、了解した」
 奇妙なやり取りではあったが、二人はそのまま階段を上がっていく。検事や職員たちは同行を禁じられ、文字通り一対一の話し合いが始まったのだった。

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