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同人サークル「幻想清冷⑨」アカウントです。 オリジナル小説『星霜輪廻~ラストモーメント』鋭意執筆中、不定期よりの定期更新を目指します。 その他にも、歴史系や旅行系の記事などもあげていこうと思います。 よろしくお願いします~!

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  • 『星霜輪廻〜ラストモーメント』第一章

    不定期連載『星霜輪廻〜ラストモーメント』第一章をまとめました。本編に加え、設定資料なども上げていきたいと思います。

最近の記事

第7話「アンビバレント・オートノミー」『星霜輪廻〜ラストモーメント』第二章:月面編

一. 「まつりぃぃ?」  ふかふかのベッドから起き上がり、天井から吊り下がるカーテンの間から気怠そうな表情で顔を覗かせるのは、人類の頂点に座する桑茲司:弥神皐月。 「祭りではありません。戦争です」  寝ぼけた桑茲司の失言を訂正するのは、侍衛秘書エーテル。背丈は優に二メートルを超えており、老齢でありながら日々の鍛錬を怠らず、白地のワイシャツ越しにも上腕の浮き出た血管がありありと存在感を放っている。彼の鍛え上げられた肉体こそ五月体制の安寧を保つ安全保障である。 「戦争……、地上の

    • 第6話「猜疑の切先」『星霜輪廻〜ラストモーメント』第二章:月面編

      一.  ──事が動いたのは月面のスクリーンシフトが昼から夜へと切り替わった時分の頃だった。  ……イターリア州の領域内において軍閥が蜂起。それは糸粒体戦争以来の欧州における騒乱の勃発でもあった。 「それで?」ヘアゴムを付けたまま、執行部会長:シルヴィアは重々しい口調で問いただす。 「詳細はまだ上がってきてませんが台下の叱責は必至ですね」  起き抜けのシルヴィアに付き従いながら急ぎ足でキルクスへと登庁する監査部会長:リラ。手元には外部渉外用端末と部内連絡用端末を携えつつの慌ただ

      • 第5話「まやかしの月都」『星霜輪廻~ラストモーメント』第2章:月面編

        一.  月面中枢都市「コペルニクス」。スクリーンシフトは昼だが地球準拠標準時は真夜中の二時。人間の体内時計は悪魔の小腹を空かせる頃合いだが、月面都市は依然太陽光に包まれたまま。 「――だそうだ」  すっかり休日ムードのクロエ・ヴァンサンは、カクテル片手に同席する女性――誉志天音に今後の中央政界の動向を伝えている。 「すっかり理系派が政権を盗ってしまったのですね」  かくも嘆く誉志の手にはウィスキーのワンショットグラス。 「盗ったとは人聞きの悪い。そっちがやり方を間違えただけだ

        • 第4話「不可知の少年」『星霜輪廻~ラストモーメント』第2章:月面編

          ≫一≪  シャドウ――社会道徳保全機構の本庁舎から、徒歩で一〇分ほど歩いた所にある最高検察庁。シャドウの実働部隊ともいえる世界中の検察官を統率する同庁を付き従えるのは、〝実力行使の検事総長〟クロエ・ヴァンサン。 「――ということで理事長。益江事件の総括についての報告は以上です」 「ふむ。特務課から文句は出なかったか」 「出るも何も、あいつらは変わり身の早い連中ですから、この総括が社会をより良いものにすると理解しているでしょう」  壁面のスクリーンを暗転させつつ、クロエはホア

        第7話「アンビバレント・オートノミー」『星霜輪廻〜ラストモーメント』第二章:月面編

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        • 『星霜輪廻〜ラストモーメント』第一章
          45本

        記事

          訪問記「玉藻稲荷神社」と那須庄

           栃木県は大田原市蜂巣。周囲を田畑や野山に囲まれた鄙びた風景の一角に、ひっそりと佇むお社。  今回私が訪れたのは「玉藻稲荷神社」。社名から察せられる通り、この神社では平安時代末期に宮中を騒がせた妖狐「玉藻前」を祀っているという。  栃木県北には那須岳の裾野から那須野が原と呼ばれる平地が広がっていて、鎌倉時代には源頼朝が巻狩を行った場所としても知られています。自然豊かで風光明媚な当地ですが、「玉藻前」にとっても縁深い土地となっています。  那須岳の麓にある「殺生石」。これは討

          訪問記「玉藻稲荷神社」と那須庄

          「郷土史碑探訪録」はじめがき

           突然ですが、私はオープンワールド系のゲームで収集物を集めるのが好きです。世界の各所に散りばめられたテキストやアイテムを収集することで見えてくる世界観、フレーバーテキストによって解像度の上がるストーリー、今も様々なゲームで楽しませてもらっています。  さて。オープンワールドといえば、よく比定されるのが現実世界のお話。よく地方に出かけると、田園風景の中にポツリと佇む石碑や自治体に設置された説明板がそこここにあることに気が付くと思います。 ……これってフレーバーテキストじゃね

          「郷土史碑探訪録」はじめがき

          第3話「衝」『星霜輪廻~ラストモーメント』第二章:月面編

          ≫一≪  月面で坂入真佐の処罰が決する一方で、在地でも文系派粛清の波が押し寄せていた。 「随分と……華美な出来レースを催すのだな、月面は」  実子・成宣を月面に送り込んだ坂出財閥の首長重成は、報道でしか伝えられない文系粛清の情報に四苦八苦していた。額ににじみ出る汗の量は、そのまま理系派への猜疑心の表れでもあった。 「ひょっとしたら読みが外れたのでは」  そんな重成を部屋の隅から見つめるのは、坂入真佐同様に有罪宣告を受けるであろう浅黄田弓。文系派の贈収賄を会見で明らかとし、そ

          第3話「衝」『星霜輪廻~ラストモーメント』第二章:月面編

          第2話「由理,She is...」『星霜輪廻~ラストモーメント』第2章:月面編

          ≫一≪  とある日の昼下がり。昼といっても月面はただいま夜シフトなので、道路を照らすのは街灯の照明のみ。橙の暖色に包まれる七月の道すがら、西見由理は物件のパンフレットを片手に悶々とした表情を浮かべている。 「みんな足元見てるんだよなあ……家賃」  そもそも月面に住居を構える人というのは、連合の職員であったり起業家や実業家、さらには投資家といった上級階層が殆どであり、そうした人口形態に応じて物価も格段に高くされている。それは家賃も同様で、アパートでもマンションでも一戸建てでも

          第2話「由理,She is...」『星霜輪廻~ラストモーメント』第2章:月面編

          第1話「窪の底から」『星霜輪廻~ラストモーメント』第二章:月面編

          ≫一≪  延命主義を至上とし、世界平和の願いをも包摂して進行していった世界連合。人の希望は逆説的に澱みを帯び、いつしか絶望へと転じる。世界の数多の社会体制は、同様に人々の喝采を浴びてこの世に生じ、やがて社会の歪みを増大させながら無為に生命を貪りつつ新しい希望へ置換される。その営みは、さながら新陳代謝を繰り返す多細胞生物のようであり、その行きつく先は成長か、退化か。  奇しくも一世紀と半分の時を遡ると、そこには教壇で弁舌を振るうヘルマンの姿があった。彼は水上葉月とアレクサンド

          第1話「窪の底から」『星霜輪廻~ラストモーメント』第二章:月面編

          益江1:37「あてどなき宇宙よ」『星霜輪廻』

           月面都市コペルニクスの第二階層から第三階層にかけて、広大な敷地を有するLC社の本社ビルは、その雄大さから〝大聖堂〟と呼ばれている。人類を延命賛歌へ導いたLC社の存在は、連合にとってはまさに旧世界における政治世界にとっての宗教的存在だった。LOL計画から始まり、公同相論を経て連合を離反したシャーロット・ノヴァによって設立されたLC社だったが、九月体制以降連合とLC社は付かず離れずの関係を維持し、今日まで延命社会を牽引してきた。 「思い起こせば……世界はかつて争乱に満ち溢れた時

          益江1:37「あてどなき宇宙よ」『星霜輪廻』

          益江1:36「ラストモーメント・益江町」『星霜輪廻』

           月面都市「コペルニクス」。クレーターの窪地内に築かれたこの未来都市は、地上からもその容貌が確認できるほどに中層ビルが林立している。そんな窪地の最底辺からスッと伸びる世界連合本庁舎――通称〝ボイレ〟が存置する世界の中枢都市たる同地には、商社マンを始めとした数多の職種のエリートたちが通い詰めている。そんな彼らが、街頭のテレスクリーンで茫然と眺めているのは、つい数分前から始まったばかりの国際逓信機関の機関長、ヘルマンの会見だった。 『――ただいま、御指摘に与りました問題については

          益江1:36「ラストモーメント・益江町」『星霜輪廻』

          益江1:35「Humanities Scandal」『星霜輪廻』

           施設を後にして一行が向かった地下施設。旧軍に利用されていた同施設は、旧軍の解体・撤退以降無人の廃墟と化していた。 「ここの存在は高度な機密保全によって隠匿されています。暴徒たちにも察知されることはまずないでしょう」  隠し通路から地下の連絡通路に降り立った一行は、誉志や特務課の懐中電灯の照明を頼りに地下施設へと向かっていた。既に電力供給も絶え、約一世紀以上にわたり主人のいない建造物でありながら、地上の廃墟にありがちな、散乱し劣化し風化した建材や破壊された既製品はどこにもなく

          益江1:35「Humanities Scandal」『星霜輪廻』

          益江1:34「剥離」『星霜輪廻』

           少し時間を戻して、益江介護施設。食堂で西見由理は検事総長クロエ・ヴァンサンと一対一の面談を行っていた。形式上は会談だったが、クロエも由理との会談にそこまで意味を持たせるつもりはなく、日程の隙間を埋める雑談程度にしか考えていない。 「全く、何処から情報が漏れたんだ」  ちょうど全世界中継でレーム事務局長の会見が始まった頃、クロエは誉志とのやり取りの中で内通者の存在を疑い始めていた。今回の調査で検察官及び特務課の動きを知っていたのは内務市民委員会と社会道徳保全機構。それ以外にも

          益江1:34「剥離」『星霜輪廻』

          益江1:33「歩みを続けるモイエナージュ」『星霜輪廻』

           時刻は夜の八時前、検察官が事前の打ち合わせ通り益江介護施設に踏み込んでいる頃。特務課を率いる誉志は、益江学園の学園長でウィズダム内部部局の長官も務めているラインヴァント・フェスターの豪勢な私邸の前にいた。五月体制の暗部、自治区と管掌使との癒着による不道徳な利得により築き上げられた仮初の繁栄も、今や風前の灯。敢えて目を逸らされてきた文系派という立場の恩恵も、もはや過去の物だった。 「――どうぞ、主人はこの庭の先です」  私邸の警護を担当していた責任者と思しき警務官も、突如現れ

          益江1:33「歩みを続けるモイエナージュ」『星霜輪廻』

          益江1:32「延命主義には窓がない」『星霜輪廻』

           既に日も傾き始めた時分。あと五時間で投票受付が終了する頃合いに、座山市庁舎ではアサミを始め浅黄など益江町関係者、坂出財閥からは坂出成宣らが集い、投票終了の刻限まで詰めの作業を進めていた。  投票活動は大きく二つの分類に分けられる。一つは実際に有権者である人自身が投票所で投票を行うもの。投票所は益江介護施設を始め、座山市庁舎、そしてニューホジタウンに一箇所ずつあり、そのいずれも監視カメラによって管理されている。市庁舎に集う関係者が固唾を呑んで見守るのも投票所を映す映像である。

          益江1:32「延命主義には窓がない」『星霜輪廻』

          益江1:31「反復運命線」『星霜輪廻』

           逋峙湖近傍、火葬場施設跡で無為な時間を過ごしている坂入奈佐。結局小出が帰宅したのは日付が変わった後で、夕食はニューホジタウンの官営スーパーで売られていた半額の弁当だった。 「……はい、はい」  ソファに深く座り込む奈佐の後ろで、小出はタブレット片手に誰かと業務連絡を取り合っていた。その仕事に追われている様が、奈佐からは窓に反射した姿として映っている。 「なんか奇妙だなあ」  ポツリと呟いたその言葉こそ真理だった。つい先日まで命を狙われていた自分が、今では温い毛布にくるまり、

          益江1:31「反復運命線」『星霜輪廻』