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【短編小説】鉄塔の町:

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「鉄の塔の町」が舞台。記憶を失った青年を中心に物語が進んでいきます。
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記事一覧

【短編小説】鉄塔の町:よくあることだよ

 熊沢はギシギシと軋む階段を上った。その喫茶店の2階席にはすでに2組の客がいた。熊沢は『珍…

十五皐月
9か月前
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【短編小説】鉄塔の町:知りたいだけだよ

 大場は栗原の前に空っぽのグラスを置くと、鷹揚に手を上げてウェイターを呼んだ。  「アイ…

十五皐月
9か月前
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【短編小説】鉄塔の町:誰も知らない

 カランカランと軽やかなドアベルの音が鳴った。  栗原はこの音色が好きだ。レトロな雰囲気…

十五皐月
10か月前
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【短編小説】鉄塔の町:8月27日の気分

 編集長の真野了輔は自分のデスクで原稿に目を通しながら、そこへ座れとソファを指差した。 …

十五皐月
10か月前
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【短編小説】鉄塔の町:雑居ビル

 彼女が残した住所は東町の繁華街にある雑居ビルだった。  僕は少し戸惑いながらビルのエレ…

十五皐月
10か月前
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【短編小説】鉄塔の町:茜色の手紙

 彼女の運転する緑のオープンカーの助手席に僕は座った。  見上げると星空、気持ち良い風、…

十五皐月
10か月前
18

【短編小説】鉄塔の町:結晶

 僕は音が立たないように慎重にドアロックをはずし、ドアノブを静かに回した。そしてドアをそっと開けたとき、タバコの匂いが漂ってきた。振り返ると、彼女が壁にもたれてすぐ後ろに立っていた。  「どちらへ?」  彼女は斜め上へラッキーストライクの煙を吐きながら言った。  「ごめん、起こしてしまったね。帰ろうと思って…」  彼女の目を見るのが何だか気恥ずかしくて、僕はうつむいて応える。  「そう。一人で帰れる?」  「ああ、大丈夫。自分の住所は分かるよ。タクシーを拾えばいいし」  「本

【短編小説】鉄塔の町:デジャヴ

 僕はひどい頭痛の中、目覚めた。半開きの瞼からのぼやけた視界は、一面真っ白だった。  記…

十五皐月
10か月前
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【短編小説】鉄塔の町:クリニック

 「先生、それ」  看護師の半田詩乃はキッと目配せして言った。  「あっ、これは失礼」  …

十五皐月
10か月前
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【短編小説】鉄塔の町:闇に溶けて

 「先生、戸締まり忘れないでくださいね。お先に失礼します」  と看護師の半田は言って、軽…

十五皐月
10か月前
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【短編小説】鉄塔の町:遠くの祭り

 ヘッドライトを消したミニバンはフェンスの近くで静かに止まった。濃紺の車体は月のない闇の…

十五皐月
11か月前
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【短編小説】鉄塔の町:白磁

 熊沢重樹はドアを開けた瞬間たじろいだ。目を血走らせた男が突然目の前に現れたのだ。  そ…

十五皐月
11か月前
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【短編小説】鉄塔の町:スラッシュ58

 塔矢を乗せた輸送車は第6ゲートを抜けて、飛行機の格納庫のような建物の中へ入った。建物の…

十五皐月
11か月前
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【短編小説】鉄塔の町:中と外

 真っ直ぐ左右に遠く延びているフェンスの終わりは薄暮の中に消えていた。  微かに聞こえ始めた車のエンジンの音がみるみる大きくなるにつれて、地響きも混じり始める。  ヘッドライトが2つ、4つ、6つ、8つ…。馬淵塔矢は、警備に就いている収容施設の第3ゲートに避難民の輸送車の長い車列が向かってきているのを目視すると、上官から直接塔矢だけが受けた命令を独り言のように繰り返した。「58は第6ゲートへ誘導せよ、58は第6ゲートへ誘導せよ、58は第6ゲートへ誘導せよ…」  次々と第3ゲー